Lyso-FerroRed

リソソーム内鉄イオン検出試薬
- 生細胞のリソソーム内Fe2+を検出可能
- 蛍光顕微鏡でのイメージングおよびプレートリーダー、フローサイトメーターでの数値化が可能
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製品コードL270 Lyso-FerroRed
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CAS番号1616953-95-7
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化学名3'-(dimethylamino)-N,N-dimethyl-3H-spiro[isobenzofuran-1,9'-xanthen]-6'-amine oxide
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分子式・分子量388.46
容 量 | メーカー希望 小売価格 |
富士フイルム 和光純薬 |
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35 nmol | ¥39,800 | 344-10321 |
※ 35 nmol当たり35 mm dish 17枚分染色可能(終濃度1 μmol/l使用時)
フェロトーシスにおけるリソソーム鉄の重要性
フェロトーシスは、鉄依存的な脂質過酸化によって引き起こされる細胞死の一種であり、がん、神経変性疾患、老化関連疾患など、さまざまな疾患との関わりが明らかになっています。これまでの研究では、細胞全体の鉄総量が主な焦点とされてきましたが、近年ではリソソームをはじめとする細胞小器官への鉄局在が重要視されるようになってきました。その中でもリソソームは、細胞内で分解とリサイクルを担う小器官であると同時に、鉄の蓄積部位としても知られています。このリソソーム内の鉄動態がフェロトーシスを誘導する引き金となる可能性が指摘されており1)、こうした背景から、リソソーム鉄を選択的に検出・評価する技術に注目が集まっています。
1) Y. Saimoto, et al., Nature Communications, 2025, 16, 3554.
細胞死関連製品
指標 | 製品名 | 測定対象 | 装置 / 検出波長 |
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細胞生存能力 | Cell Counting Kit-8 | 細胞内脱水素 酵素活性 |
プレートリーダー 吸光度 λ= 450nm |
ネクローシス (細胞毒性) |
Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST |
遊離LDH | プレートリーダー 吸光度 λ= 490nm |
アポトーシス | Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit |
ホスファチジルセリン | プレートリーダー 蛍光 Ex: 488 nm / Em: 525 nm |
フェロトーシス | FerroOrange | 細胞内 鉄イオン(Fe2+) |
蛍光顕微鏡, FCM, プレートリーダー 蛍光 Ex: 543 nm / Em: 580 nm |
フェロトーシス | Lyso-FerroRed | リソソーム内 鉄イオン(Fe2+) |
蛍光顕微鏡, FCM, プレートリーダー 蛍光 Ex: 551 nm / Em: 571 nm |
フェロトーシス | Mito-FerroGreen | ミトコンドリア内 鉄イオン(Fe2+) |
蛍光顕微鏡 蛍光 Ex: 505 nm / Em: 535 nm |
フェロトーシス | Liperfluo | 脂質過酸化 | 蛍光顕微鏡, FCM 蛍光 Ex: 488 nm / Em: 500-550 nm |
フェロトーシス | Iron Assay Kit -Colorimetric- |
組織内鉄イオン (Fe2+, Fe3+) |
プレートリーダー 吸光度 λ= 593nm |
マニュアル
技術情報
原理
鉄イオンに依存した脂質過酸化物の蓄積により引き起こされるフェロトーシスがStockwellらに提唱されてから10年以上経過し、これまでにフェロトーシスに関する様々な研究がなされています。遊離した二価鉄 (Fe2+) がフェントン反応により活性酸素を発生させ、脂質が酸化されることから、フェロトーシスは鉄依存性の細胞死であることが明らかになってきています1)。また最近では、脂質酸化により、リソソームの膜が損傷し、リソソーム中の鉄が漏出することによって、他の細胞小器官へ脂質酸化が広がっていくことが報告されています2)。
Lyso-FerroRedは細胞内のリソソームの鉄を検出することができます。試薬を培養細胞に添加すると細胞膜を透過し、リソソームのFe2+と選択的に反応し強い蛍光を発します。Lyso-FerroRedにはキレート能はなく、Lyso-FerroRedとFe2+は非可逆的に反応するため、Fluo-3のようなカルシウムプローブの検出原理とは異なります。
1) S. J. Dixon, et al., Cell, 2012, 149, 1060–1072
2) Y. Saimoto, et al., Nature Communications, 2025, 16, 3554
<Lyso-FerroRedの鉄検出原理>
本製品は、岐阜薬科大学ケミカルバイオロジー研究室 平山祐先生のご指導の下、製品化しました。
鉄検出試薬の選択
鉄検出時の実験方法および測定機器に応じて試薬を選択頂けます。
Lyso-FerroRed | FerroOrange | Mito-FerroGreen | Iron Assay Kit -Colorimetric- | |
細胞内の局在 |
リソソーム内 |
細胞内 |
ミトコンドリア |
ー |
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検出波長 |
蛍光 |
蛍光 |
蛍光 |
吸光度 |
対応装置 |
蛍光顕微鏡、プレートリーダー 、 |
蛍光顕微鏡、プレートリーダー (Cy3) |
蛍光顕微鏡 (FITC、GFP) |
プレートリーダー |
サンプル |
生細胞 |
生細胞 |
生細胞 |
組織 |
使用回数 |
35 nmolで35 mm dish 17枚分染色可能 |
1 tubeで35 mm dish 17枚分染色可能 |
50 μgで35 mm dish 5枚分染色可能 |
50 tests |
リソソーム内Fe2+の検出・数値化
LPS処理したHT-1080細胞を用いて、細胞内に内在するFe2+および鉄キレート試薬Bpy(2,2'-bipyridine、終濃度:1 mM)と鉄(硫酸アンモニウム鉄(II) 、終濃度:100 μmol/l)の添加有無により、リソソーム内のFe2+の変化をLyso-FerroRedにより確認しました。
蛍光顕微鏡によるイメージング
<検出条件>Ex/Em = 564 nm / 565-620 nm
プレートアッセイによる数値化
<検出条件>Ex/Em = 550 nm / 580 nm
フローサイトメトリーによる検出
<検出条件>Ex/Em = 565 nm / 565-617 nm
Fe2+への高い選択性
50 mmol/l HEPES Buffer(pH7.4) 1 ml中に1 mmol/l Lyso-FerroRed 2 μl、各種金属 2 μlを加え室温にて1時間反応後の蛍光強度を測定しました。
<終濃度>
Lyso-FerroRed:2 μmol/l
Mn, Co, Ni, Fe2+, Fe3+, Zn, Cu : 20 nmol/l
Na, K, Mg, Ca : 1 mmol/l
Bpy : 100 µmol/l
<検出条件>
Ex: 550 nm、Em: 580 nm
確かなリソソーム局在性
Lyso-FerroRedのリソソーム内局在を確認するため、各細胞小器官染色試薬と共染色を行い、Lyso-FerroRedがリソソームを選択的に染色していることを確認しました。
リソソーム染色:LysoPrime Deep Red(製品コード:L264)
脂肪滴染色:Lipi-Deep Red(製品コード:LD04)
ミトコンドリア染色:MitoBright LT Deep Red(製品コード:MT12)
※Lyso-FerroRedは、Merge画像が分かりやすいように疑似カラーで表現しています。
蛍光特性(鉄と反応させる前と後の Lyso-FerroRed)
50 mmol/l HEPES Buffer (pH7.4) 中にLyso-FerroRed(終濃度:2 μmol/l) 、硫酸アンモニウム鉄(Ⅱ)(終濃度:20 µmol/l)を加え室温にて1時間反応後に測定しました。
実験例:フェロトーシス誘導剤とリソソーム阻害剤の併用による各指標の変化
これまでがん細胞株間ではフェロトーシス感受性が異なることが示唆されており、フェロトーシス抵抗性のがん細胞においてリソソームのストレスを増加させることでフェロトーシスを促進できることが報告されている1)。フェロトーシス抵抗性を示すがん細胞、A549細胞を用いてフェロトーシス誘導剤であるRSL3またはRSL3とリソソーム阻害剤であるChloroquine(CQ)を24時間処理し、細胞生存率、リソソーム内Fe2+、リソソーム量の変化を解析した。その結果、RSL3単独で処理した場合では細胞生存率、リソソーム内Fe2+に大きな変化はみられなかったが、一部リソソームが集積している様子(LysoPrime Deep Redの強い輝点)が観察された。一方、RSL3に加えてCQを同時に処理した細胞では、リソソーム内Fe2+の増加とリソソームの肥大化、細胞生存率が低下する既報と同様の結果が得られ、フェロトーシス促進にリソソーム内Fe2+の増加が関与している可能性が示唆された。
1) Saimoto. Y, et al., Nature Communications, 2025, 16, 3554.
<使用製品>
細胞生存率:Cell Counting Kit-8(製品コード:CK04)
リソソーム内Fe2+:Lyso-FerroRed(製品コード:L270)
リソソーム量:LysoPrime Deep Red - High Specificity and pH Resistance(製品コード:L264)
参考文献
文献No. | 対象サンプル | 装置 | 引用(リンク) |
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1) | 細胞 (HepG2) |
蛍光顕微鏡 | Niwa, M., Hirayama, T., Okuda, K., Nagasawa, H., "A New Class of High-Contrast Fe(II) Selective Fluorescent Probes Based on Spirocyclized Scaffolds for Visualization of Intracellular Labile Iron Delivered by Transferrin", Org. Biomol. Chem. 2014, 12 (34), 6590–6597. DOI: 10.1039/C4OB00935E ※論文で「HMRhoNox-M」と記載されている化合物が「Lyso-FerroRed」となります。 |
2) | 細胞 (Calu-1) |
蛍光顕微鏡 | Saimoto, Y., Kusakabe, D., Morimoto, K., Matsuoka, Y., Kozakura, E., Kato, N., Tsunematsu, K., Umeno. T., Kiyotani, T., Matsumoto, S., Tsuji, M., Hirayama, T., Nagasawa. H., Uchida, K., Karasawa, S., Jutanom, M., Yamada, K., "Lysosomal lipid peroxidation contributes to ferroptosis induction via lysosomal membrane permeabilization", Nat Commun, 2025, 16, 3554. DOI: 10.1038/s41467-025-58909-w ※論文で「Lyso-RhoNox」と記載されている化合物が「Lyso-FerroRed」となります。 |
よくある質問
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Q
測定可能なサンプル数を教えてください。
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A
測定可能なサンプル数は以下になります。
・ 96-well plate:3枚
・ ibidi 8-well plate:21枚
・ 35 mm dish:17枚
・ 6-well plate:17ウェル
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Q
ポジティブコントロールになる実験例はありますか?
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A
取扱説明書に硫酸アンモニウム鉄を取り込ませたHT-1080細胞による検出例を掲載しております。実験例の項目の操作1-5をご参考ください。
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Q
Working Solutionの調製で注意点はありますか?
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A
HBSSもしくは無血清培地で調製してください。血清入り培地で調製すると血清中の鉄と色素が反応し、バックグラウンド蛍光が高くなります。
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Q
フローサイトメーターで検出するときの注意点はありますか?
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A
通常、低分子蛍光プローブで染色後にディッシュから細胞を剥がすときはトリプシンが使用されます。トリプシンを使って細胞を剥がした後は、残ったトリプシンをクエンチするために血清入りの培地で細胞を回収する方法が用いられます。
Lyso-FerroRedは血清入りの培地と接触すると血清中の鉄と反応するため、細胞を剥がすときはスクレーパーで剥がして、PBSやHBSSで回収してください。
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Q
Lyso-FerroRedは固定細胞に使用できますか?
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A
Lyso-FerroRed染色前または後に固定処理した細胞ではLyso-FerroRedのシグナルが得られなくなり、正確なリソソーム内の鉄(II)イオンの変化が確認できなくなるため、推奨いたしません。
(参考)
硫酸アンモニウム鉄(II)(終濃度:100 μmol/l)を添加したHT-1080細胞をLyso-FerroRedで染色後、未固定または30分間固定(4%PFA/PBS)処理し、蛍光顕微鏡にて観察しました。<検出条件>
Ex : 564 nm(0.8 %), Em : 570-620 nm
Gain : 480 V