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はじめに

クロスリンカー(架橋剤) は2 つの官能基を有する試薬でその名のとおり2 つの分子/ 構造体を結合する化合物であり、イムノアッセイに用いられる酵素と抗体の結合体の作成やタンパク質修飾等に広く用いられている。EMCSはクロスリンカーの1 つであり、一級アミノ基(-NH2) と反応するNHS エステル基と、チオール基(-SH) と反応するマレイミド基を有している。例えば、ペルオキシダーゼ(POD) 等の酵素のアミノ基とEMCS を反応させ、その後、SH 基を有するFab’ と反応させることにより、酵素標識抗体を作製することができる。その他、BSA (bovine serum albumin) やKLH (keyhole limpet hemocyanin) とEMCS を反応させ、その後SH 基を持つハプテンと反応させることにより、ハプテン- キャリアタンパク質複合体を作製することも可能である。また、基板への分子の固定化にも用いられている。Sulfo-EMCS はスルホン酸基を有する活性エステル基が導入されているため、試薬を溶解するためのDMF やDMSO など有機溶媒を用いることなく標識反応を行うことが可能である。

保存条件

0 - 5 ℃にて保存してください。

  • EMCS、Sulfo-EMCS を溶解した溶液は保存できません。用時調製でご使用ください。

必要なもの

  • マイクロピペット(10 μl, 200 μl)
  • マイクロチューブ
  • 精製用ゲルなど
  • 有機溶媒 (dimethylsulfoxideなど)
  • 反応用緩衝液(PBSなど)
  • インキュベーター

複合体の作製例

【酵素-抗体】

 

① ペルオキシダーゼ(POD) をEMCS によりマレイミド化する

  1. POD(2 mg, 50 nmol)をリン酸緩衝液(0.3 ml, 0.1 mol/l, pH7) に溶解する。(167 μmol/l POD)
  2. EMCS 3.08 mg をマイクロチューブに量りとり、DMSO 1 ml で溶解する。(10 mmol/l EMCS)
  3. POD に対し、50-100 倍モルのEMCS を加える。
  4. 1 時間、30℃でインキュベートする。
  5. 遠心した後、上清をリン酸緩衝液(0.1 mol/l, pH6) を用いてゲルろ過で精製する。(maleimide化POD)

 

② maleimide 化POD とFab' をつなぐ。

  1. maleimide 化POD(1.8 mg, 45 nmol)をリン酸緩衝液(0.3 ml, 0.1 mol/l, pH6) に溶解する。
  2. Fab'(2 mg, 33 nmol, 60 kDa)を5 mmol/l EDTA を含むリン酸緩衝液(0.3 ml, 0.1 mol/l, pH6)に溶解する。
  3. 1 及び2で調製した溶液を混合する。
  4. 20 時間、4℃で反応する。
  5. 反応液をリン酸緩衝液(0.1 mol/l, pH6)用いてゲル濾過で精製する。(POD 標識Fab')
  • 抗体からFab' を調製する場合には、酵素処理し、F(ab')2 とした後、MEA (2-mercaptoethylamine) をご使用ください。
    (例: 1-10 mg/ml 抗体, 10 mmol/l MEA, 90 分間, 37℃)

 

【キャリアタンパク質-ペプチド】

 

① ovalbuminをEMCSによりマレイミド化する

  1. ovalbumin (20 mg, 0.22 mmol/l) をPBS (2 ml)に溶解する。
  2. 上記溶液にEMCS/DMSO 溶液 (25 mg/ml, 81 mmol/l) を200 μl 添加して室温で30 分インキュベートする。
    ( モル比約ovalbumin: EMCS = 1: 36)
  3. 反応液をリン酸緩衝液(0.1 mol/l, pH6)用いてゲル濾過で精製し、過剰のEMCS を除く。
  4. カラムから溶出したサンプルに0.2 mol/l Na2HPO4 (1 ml) を添加し、pH7.2 に調整する。

 

② maleimide化ovalbumin とペプチドをつなぐ

  1. maleimide化ovalbumin にペプチド溶液(1 mg/ml 0.1 mol/l リン酸緩衝液, pH7.2) を添加する。
    (モル比約maleimide化ovalbumin: ペプチド = 1: 14)
  2. 3 時間、室温で撹拌し、その後PBS で24 時間透析を行い精製する。

 

【アミノ基修飾基板- DNA】

 

① アミノ基修飾基板をEMCS によりマレイミド化する

  1. アミノ基修飾基板(アミノシランコーティング)を1 時間イオン交換水に浸漬し、その後窒素ガス通気下、120°Cで1 時間焼成する。
  2. 処理した基板をEMCS 0.3 mg/ml DMSO/ethanol (1:1) 混合溶液に2 時間浸漬する。
  3. 基板を取り出し、DMSO/ethanol 混合溶液で洗浄を行い、窒素ガスで乾燥させる。その後、デシケーターで乾燥を行う。

 

maleimide化した基板DNA をつなぐ

  1. DNA (5' チオール修飾) を8 μmol/l となるように(glycerin, urea, thiodiglycol, acetylenol 各7.5% w/v, acetylenol EH 1% w/v,水溶液)で溶解する。
  2. 上記DNA 溶液をインジェクター等を用いて基板にスポットし、一晩反応させる。
  3. 基板をイオン交換水を用いて洗浄する。

参考文献

【小社のEMCS 及びSulfo-EMCS を用い、複合体を作製した使用例】

詳細な実験条件につきましては該当する参考文献をご覧ください。

複合体の種類 EMCS の反応対象物 文献番号
NH2 SH基
酵素-抗体 PPDK(酵素) 抗FITC 抗体(Fab' ウサギ由来) 1)
キャリアタンパク質 -ペプチド ovalbumin 合成ペプチドのシステイン残基 2)
アミノ基修飾基板 -DNA オリゴマー アミノシランをコートしたガラス基板 DNA (5' チオール修飾) 3)
DNA(5' アミノ修飾) 基板(SH 基) 4)
アミノ基プレート表面 DNA (5' チオール修飾) 5)
その他 DNA Fab' 6)
superoxide dismutase (SOD) 高分子 7)
低分子 抗体 8)
複合体の種類 Sulfo-EMCS の反応対象物 文献番号
NH2 SH基
酵素-抗体 Alkaline phosphatase 抗ヒトIgG 抗体(Fab' マウス由来) 9)
アミノ基修飾基板 -DNA アプタマー アミノ化されたSiN チップ基板 SH 末端DNA アプタマー 10)
アミノ基修飾基板 -PNA アミノ化されたIS-FET 基板 PNA 11)
  1. K. Ito et al., Anal. Chim. Acta, 2000, 421, 113.
  2. K. Oda et al., J. Biochem., 1990, 108, 549.
  3. T. Okamoto et al., Nat. Biotechnol., 2000, 18, 438.
  4. M. Ikeda et al., J. Health Sci., 2005, 51(4), 469.
  5. Y. Wang et al., Nanobiotechnology, 2006, 2(3), 87.
  6. Y. Oku et al., J. Immunol. Methods, 2001, 258, 73.
  1. Y. Kojima et al., J. Bioact. Compat. Polym., 1993, 8 (2), 115.
  2. B. Le et al., J. Chem. Eng. Jpn., 2001, 34(1), 66.
  3. T. Uno et al., Anal. Chem, 2007, 79, 52.
  4. S. Goji et al., J. Nucleic Acids, 2011, Article ID 316079.
  5. S. Watanabe et al., Biophysics, 2014, 10, 49.

FAQ

Q: EMCS、Sulfo-EMCS の使用条件を教えてください。

A: 活性エステルと反応対象物のアミノ基との反応は、弱アルカリ条件(pH7 ~ 9) で行ってください。
その後の還元や他のチオールとの置換反応は中性条件で行ってください。

関連製品

クロスリンカー試薬

製品名 製品コード 容量

距離(Å)

EMCS E018 50 mg  9.4
100 mg 
GMBS G005 50 mg  6.9
100 mg 
DSP D629 1 g 8.5
SPDP S291 100 mg  4.1

水溶性クロスリンカー試薬(有機溶媒使用不可の実験系向け)

製品名 製品コード 容量 距離(Å)
Sulfo-EMCS S024 50 mg 9.4
Sulfo-GMBS S025  50 mg 6.9
Sulfo-HMCS S026 50 mg 13.0
Sulfo-KMUS S250 50 mg 16.7
Sulfo-SMCC S330 50 mg 8.0
BS3 B574 50 mg 8.9
DTSSP D630 50 mg 8.5
Sulfo-AC5-SPDP S359 50 mg 12.6

E018_S024: EMCS / Sulfo-EMCS
Revised Apr., 11, 2024