化学者とパソコン通信10

金沢大学大学理学部化学科
   平山 直紀・本浄 高治


NetNewsとTelnet

 この連載もいよいよ最終回となった。10回というのはそれほど長い連載ではないが、期間的には足掛け4年の月日が経ってしまった。今回は、これまでまだ紹介していないインターネットサービスの中で、比較的重要だと思われるNetNewsとTelnetの2つについて紹介する*1

NetNews
 第4回で紹介したように、パソコン通信において情報収集に最も有効な場は電子会議室(フォーラム・SIG)である。なぜなら、そこでは特定の分野やテーマに興味を抱くメンバーが集まって意見や情報の交換を行っているからである。つまり、疑問などが生じたときには、その分野に関する電子会議室で発言すれば、他のメンバーから意見や情報などの発言が返ってくるわけである。
 これと同じようなサービスが、インターネット上にも存在する。NetNews(ネット・ニュース)*2と呼ばれるこのサービスでは、発信地や分野ごとに非常に多くのグループ(「ニュースグループ(NewsGroup)」と呼ばれる)が用意されており、その数は数万にも及ぶ。ユーザーは自分の興味あるグループに寄せられた「記事」を読み、自分の意見などを「投稿」するというシステムになっている。
 ニュースグループは、ハードディスク内のファイルのような階層構造をとっており、“fj.sci.chem”のようにピリオドで区切られて表示されている*3一番前に書かれている最上位の階層(上の場合は“fj”)はトップグループ(あるいはニュースカテゴリ)と呼ばれており、ニュースグループの運営・管理(新しいグループの設置の決定など)は、おおむねトップグループ単位で“グループ群”*4として行われていると考えてよい。参考として、表1に主なトップグループを紹介しておく。また表2には、ニュースグループの階層構造を理解していただくための例として、“fj”の中のNetNewsに関するグループ群(fj.news.*)の階層構造の抜粋を示す。
 NetNewsがフォーラムやSIGと最も異なるのは、「ニュースグループには“管理者”がいない」という点である。実際問題として“管理者”もしくはそれに類似した名称の人物は存在するのだが、彼らにはフォーラムやSIGの場合のような「絶対的な権限」が与えられていない*5のである。NetNewsでは伝統的に個人責任が徹底しており、記事内容に関しては投稿者自身が責任を持つことになっている。
 さて、NetNewsを利用するためには、利用可能なニュースサーバ*6、7が必要不可欠である。ニュースサーバではあらかじめ特定してあるグループの記事を受信して保管しており*8、ユーザーはこのニュースサーバに接続して記事を読むことになるのだが、そのために必要なのが「ニュースリーダ」と呼ばれるソフトである。Internet Exproler 4.0に含まれている“Outlook Express”*9や、Netscape Communicator 4.0の“Netscape Collabra”*10などを利用してNetNewsを楽しむことも可能であるが、やはり専用のニュースリーダを用意した方が使い勝手がよい。WindowsではシェアウェアのWSNewsやフリーウェアのWinVN-Jなどが、MacintoshではフリーウェアのNewsWatcher*11やNewsAgentなどが代表的である。もちろん、自分から記事を投稿したり、他の人の記事に対するコメント(「フォロー」と呼ばれる)を送る際にもニュースリーダを用いる。さらに、記事の著者に対するコメントを、ニュースリーダから直接E-mailで送ることも可能である*12
 なお、フォーラムやSIGではかなり前の発言まで遡って読むことが可能なのに対し、NetNewsでは通常数週間程度(ニュースサーバにより異なる)で記事が更新されてしまうので、話題についていくためにはある程度こまめに記事をチェックしなければいけない。ただし、過去の記事を保管して公開しているところがいくつかあるので、そこでならばバックナンバーを参照することができる*13
 実際にニュースリーダを用いて記事を読んでみると、ヘッダの構造がE-mailと似ていることに気づく*14。宛先は“To:”ではなく“Newsgroups:”となっているが、同一の記事を複数のニュースグループに投稿する場合は、ここにグループ名をカンマ区切りで列挙すればよい*15。その他、記事の特定には“Message-ID”*16が用いられるということも覚えておいてほしい。
 NewNewsに投稿する記事に関しては、E-mailと同様の注意(「機種依存文字は使わない」「文章は短く、引用は最小限に」*17「誹謗中傷、ケンカをしない」「“Subject:”では日本語(全角文字)を避ける」「半角カナは使わない」)がそのままあてはまる。不特定多数の人が記事を読むことになるので、E-mailの時以上の注意が必要である*18。また、当然の事ながら、英語のニュースグループへの記事に日本語を使ってはいけない。さらに付け加えておくと、日本語の利用を求めているニュースグループにおいては、「JISコード(ISO-2022-JP)を用いる」ように決められているので、各種設定を間違えないよう気をつけよう*19
 歴史が古く、インターネットに詳しい人たちが好んで利用する傾向にあるNetNewsは、初心者には少々敷居の高いサービス*20かも知れない。しかし、こちらから質問を投稿できるのであるから、上手に使えばかなり有効な情報を得ることが期待できる。日本語を用いることのできるfjとtnnで開設している化学およびその関連分野のニュースグループを表3に紹介しておくので、最初は“Read Only”で雰囲気をつかむように努め、慣れてきたら積極的に利用することをお勧めする。

Telnet
 Telnetは、インターネットに接続されたマシンに外部から接続し、これを遠隔操作で利用するために用いられるものである。このことを実現するためにインターネットが作られたと言っても過言ではないくらい、最もベーシックなインターネット利用法である。
 UNIXワークステーションなどは元々Telnetの機能を有しており、“telnet ドメイン名または IPアドレス”と入力するか、単に“telnet”とだけ入力して画面に“TELNET>”と表示されてから“open ドメイン名またはIPアドレス”と入力することにより、先方へのTelnet接続がなされ、IDおよびパスワードの入力(認証)をすることにより遠隔操作が可能となる*21
 一方、パソコンはそのようにはできていないので、パソコンからTelnet接続を行うためには、やはり専用のソフトウェア(Telnetクライアント)*22を用意する必要がある(さしものWWWブラウザにもこの機能はついていない)。すばらしいことに、Windows95では“TCP/IP”をインストールしたときにもれなく“Telnet”もはいってくるので、さらなるソフトは不要である*23。Windows3.1の場合は、フリーウェアのTeraTermやシェアウェアの秀Termを利用する人が多い。また、Macintoshの場合はフリーウェアのNCSA Telnet-Jを利用する人が圧倒的に多い。
 さて、次に“Telnetを用いて何ができるか”を紹介しなければならないのだが、UNIXワークステーションの使い方がわからなければTelnet接続してもあまり意味がないし、逆に使い方がわかっている人には今さらTelnetの説明などは必要ないであろう。この連載を読んでいる人にとって比較的有用な使い途の一つとして、インターネット経由でのパソコン通信への接続が考えられる。特にLANが利用できる環境の場合、明らかにTelnetで接続した方が転送速度が速いし、電話代もかからない。おまけに従量制の場合は接続料金まで安い。連載第3回で紹介した主な商用ネットについて、Telnet接続の際の接続先ドメイン名と従量制料金体系の概要を表4に簡単に紹介する*24が、詳細は各ネットの中で確認していただきたい。
 その他にも、商用あるいは学術データベースなどには、Telnet接続によって利用するようにできているものが少なくない。WWWが便利になったとはいえ、転送速度などの点ではまだまだテキストベースのものの方が有利であるので、これらの利用方法を知っておけば何かと都合がよいのではないだろうか。

 さて、この連載を続けている間にパソコンを取り巻く環境は大きく変化してしまった*25。パソコンのマシンパワーは強力化の一途をたどり、電話回線のデジタル化も想像以上の速さで普及している*26。そして、いわゆる「ネットサーフィン」を快適に行えるだけのハードウェアを簡単に用意できるようになって、インターネットはますます広く浸透してきている*27。その反面、インターネットでは原則として情報にお金がかからないということもあってか、有料サービスが多いパソコン通信は最近少し元気がなくなってきている。
 しかし、インターネット上で必要な情報を探すというのは、今日でもなお楽な作業ではない。こういった面では、情報がしっかり管理されているパソコン通信の方がはるかに便利であると言えるであろう。両方をうまく使い分け、情報の波を上手に泳いでいくことがこれからは必要になってくると思われる。 

連載の最後にあたり、本文より脚注の方が長かったり、毎回文体が違ったりするこの怪しげな文章を辛抱強く読み続けて下さった読者の方々に厚くお礼を申し上げたい。この連載では、どのテキストにも載っているような情報に全く触れないことがよくある代わり、表立っては誰も言わないような重要情報を少しだけでも盛り込むように努めてきたつもりである。化学に携わる方の情報収集のために少しでも役に立てたなら、著者として大変喜ばしい限りである*28