リソソームの粘度と酸化ストレスを同時に検出するための多機能性プローブ
株式会社同仁化学研究所 澤村 淳
リソソームは細胞内の不要なタンパク質などを分解するオルガネラであり、その機能低下はリソソーム病などの疾患の原因となる。リソソームの活性には酸化ストレスが大きく関与しており、酸化ストレスによる活性低下は神経細胞死の原因になると考えられている1)。またリソソームの粘度は状態によって変化することが知られており、リソソーム病の1種であるNiemann-Pick病C型の細胞モデルではリソソームの粘度が上昇することが確認されている2)。したがってリソソームの酸化ストレスと粘度を同時に観察することができれば、生命現象のより詳細な分析が可能になると考えられる。
粘度と酸化ストレスの変化を同時に観察する手法には、酸化ストレス検出プローブと粘度検出プローブを併用する方法や、複数の検出対象に応答可能なプローブを用いる方法が挙げられる。しかし前者では使用するプローブの細胞内局在が必ずしも一致しないという課題があり、局在性が異なると粘度-酸化ストレス相関を正確に解析できない。また後者の手法で使用されるプローブの多くは複数の蛍光波長をアウトプットに用いるため3)、蛍光スペクトルの漏れ込みをはじめとした検出面での課題がある。以上の背景から、特定のオルガネラの粘度と酸化ストレスを、それぞれ互いに干渉しない検出様式で観察できる化合物が望まれている。
イメージングにおける蛍光強度以外のアウトプットの1つとして蛍光寿命が知られている4)。蛍光寿命は化合物の濃度や蛍光強度に依存しない指標であり、他のシグナルと干渉しにくいアウトプットとして有用である。本稿では、これまでの粘度-酸化ストレス同時検出における課題を克服するために、Guoらによって開発されたプローブSiR-Eda(図1A)について紹介する5)。
SiR-Edaは、ラジカルスカベンジャーのエダラボン6)とSiローダミン骨格を結合させたpKa 約4.8のpH応答性を有するプローブである。細胞にプローブを添加するとリソソームに局在し、後述する酸化体との等吸収点である460 nmの光で励起すると680 nmの蛍光を発する(図1B)。エダラボン骨格に含まれているPh基は粘度応答性の分子ローターとして機能し、粘度上昇により回転が抑制されることで蛍光寿命が長くなる(図1C)。また、SiR-Edaのエダラボン部位は活性酸素であるヒドロキシラジカルと反応すると酸化体に変換される(図1D)。この酸化体は460 nmにSiR-Edaとの等吸収点を有しており、520 nmにおける蛍光強度がSiR-Edaと比較して顕著に大きいという特徴がある。したがって、520 nmの蛍光強度を酸化ストレスの指標とすることができる。これらの蛍光寿命と蛍光強度は互いに干渉しないシグナルであることから、SiR-Edaはリソソーム中の粘度と酸化ストレスを、単一の励起光照射下で、シグナルの漏れ込みなどを起こすことなくそれぞれ観察可能な多機能性プローブである。
GuoらはSiR-Edaで前処理したRAW264.7細胞に対して、過酸化水素で酸化ストレスを与えた際の経時変化を追跡した。その結果、過酸化水素投与前のSiR-Edaの蛍光寿命は1.35 nsであったのに対し、過酸化水素を投与すると蛍光寿命が徐々に延長され、投与から24分後には1.94 nsにまで達した。また酸化ストレスの指標である520 nmの蛍光強度も投与前と比較して大幅に増加することが確認された。以上の結果から、SiR-EdaはRAW264.7細胞を過酸化水素処理した際のリソソームの粘度と酸化ストレスをリアルタイムにイメージングできることが示された。
SiR-Edaのように、特定のオルガネラで複数の対象を異なる検出様式で観察できるプローブは生命現象の解明に極めて有用である。今後は研究者のニーズや検出対象の組み合わせに応じて、さらなる多機能性プローブの開発が進むと期待される。
[参考文献]
- V. N. Pivtoraiko, S. L. Stone, K. A. Roth and J. J. Shacka, “Oxidative Stress and Autophagy in the Regulation of Lysosome-Dependent Neuron Death”, Antioxid. Redox Signal., 2009, 11(3), 481-496.
- J. Devany, K. Chakraborty and Y. Krishnan, “Subcellular Nanorheology Reveals Lysosomal Viscosity as a Reporter for Lysosomal Storage Diseases”, Nano Lett., 2018, 18(2), 1351-1359.
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- M. Y. Berezin and S. Achilefu, “Fluorescence Lifetime Measurements and Biological Imaging”, Chem. Rev., 2010, 110(5), 2641-2684.
- Q. Xu, Y. Zhang, Y. Tang, S. Lv, L. Su, P. Mao, P. Liu, Y. Zhang, C. Yan and Z. Guo, “Silicon Rhodamine-Based Fluorescence Lifetime Probe for Dynamics Mapping Lysosomal Oxidative Stress”, Chem. Biomed. Imaging, 2026, 4(1), 105-112.
- “Effect of a Novel Free Radical Scavenger, Edaravone (MCI-186), on Acute Brain Infarction: Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind Study at Multicenters”, Cerebrovasc. Dis., 2003, 15(3), 222-229.