リソソームと神経変性疾患
The association of lysosomal function with neurodegenerative diseases
斉木 臣二
筑波大学
医学医療系神経内科学
(脳神経内科)
教授
Abstract
A crucial function of lysosomes, which are essential intracellular organelles, is the degradation of macromolecules such as proteins by their resident hydrolytic enzymes. Particularly in the field of pediatrics, it has long been recognized that lysosomal dysfunction underlies various inborn errors of metabolism. The clinical phenotypes of these diseases — predominantly characterized by pathological findings, including postmortem brain autopsies — are defined by the accumulation of aberrant proteins that would normally be degraded.
Beginning in the 1970s, it became apparent that the aggregation of abnormal proteins is a common pathological hallmark among numerous age-related neurodegenerative diseases. This discovery led to a major surge in genomic research aimed at identifying disease-causative genes from the 1990s onward. Since the 2000s, intensive research has focused on the relationship between neurodegenerative diseases and lysosomal function, alongside the roles of these causative genes, a trajectory that continues to the present day.
In this section, we first review the lysosomal dysfunctions implicated in patient cohorts and animal models with well-defined genetic abnormalities associated with age-related neurodegenerative diseases. Subsequently, based on the latest findings, we summarize the underlying molecular mechanisms and discuss the current status of therapeutic development aimed at restoring lysosomal function.
1.はじめに
加齢を最大のリスクとする神経変性疾患では、病理学的に神経細胞・グリア細胞に異常蛋白凝集物を形成するものが多い1)。神経変性疾患研究は、病理学的あるいは神経生理学的手法を用いたものから、1990 年代には遺伝性家系から責任遺伝子を探索する人類遺伝学的研究が中心になった。その後、責任遺伝子産物機能をモデルで探索する細胞生物学・生化学研究が盛んに行われ、一定数がリソソーム機能に直結することが分かってきた。基礎生物学的にリソソームは蛋白分解酵素を含み、オートファジー・リソソーム経路(ALP)(マクロオートファジー、ミクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジー)を介して細胞内蛋白質を分解し、リサイクルを担う。この機能不全が異常蛋白質凝集を招来することは容易に推測されることから、リソソーム機能異常が神経変性疾患の病理学的共通点も説明しうると考えられてきた。特に治療薬開発の観点から、リソソームが細胞質に広範に分布し、エンドサイトーシスで取り込まれた分子が到達する仕組みも内在されていることから、治療分子が細胞膜を突破すれば、リソソームに到達できると予測され、治療効果が期待できることも重要である。このレビューでは、加齢とともに発症率が上昇する神経変性疾患の中で、リソソームとの関連が深い疾患について、その病態とともに概説する。
2.リソソームの機能
リソソームは細胞内オルガネラの 1 つで、大きさは 0.1 ~ 1.2 µm で、脂質一重膜に包まれ、内部に含まれる蛋白分解酵素を働きやすくすべく、酸性に保たれている。リソソームは種々のオートファジーにより運ばれた蛋白質やオルガネラをこの蛋白分解酵素を用いて分解している2)。リソソーム膜表面に存在する様々な蛋白質・蛋白質複合体は細胞内シグナリングの中継点として重要な役割を果たす。細胞の状況によってその細胞内分布を劇的に変化させ、エキソサイトーシスにより細胞外に放出され、蛋白分解の役割を担う場合もある。
上述の様にリソソーム内には非常に反応性に富んだ蛋白分解酵素が含まれている。ひとたびリソソーム膜が損傷されると、lysosomal membrane permeabilization (LMP)と呼ばれる分解酵素のリークが生じ、細胞はリソソーム修復を開始する。本事象は、加齢そのものとも深く関与しているとされ、リソソーム膜機能破綻が恒常的な神経細胞ダメージに繋がりうることを示す。また損傷リソソームをALP により除去する「リソファジー」という現象も存在する3)。これは、リソソーム膜の破綻に続きガレクチンが露出・集積し、種々のリソソーム膜蛋白質のユビキチン化が進む。これらを目印に phagophore が形成されオートファゴソームにより被包化される。
3. リソソーム機能遺伝子に変異を持つ疾患とその病態
ヒト神経細胞では蓄積した異常蛋白質を細胞分裂によって希釈し、その毒性を緩和することが困難である。そのため、リソソーム内で酵素により蛋白を分解することが極めて重要となる。表1 に示すように、リソソーム機能と関連する蛋白質をコードする遺伝子に変異が生じることで、上述の神経変性疾患を発症する家系が存在する3)。特にパーキンソン病(PD)では PSAP 遺伝子が PD 責任遺伝子となる家系が同定されており4)、また GBA1 のヘテロ変異が発症リスク(発症年齢も早く、症状進行も速い)になる5)。また MCOL1 はTRPML1 をコードする遺伝子で、この変異によりリソソーム酸性化障害を呈する。同様のメカニズムを呈する PD 責任遺伝子として TMEM175 が報告されている3)。このようにリソソーム内での蛋白質分解不全が神経細胞内の alpha-synuclein 蓄積に直結するエビデンスが挙がっている。また PD ではミトコンドリア機能障害も発症メカニズムに重要とされる。そのため傷害ミトコンドリアをリソソーム依存的に分解するマイトファジーも PD 病態において重要視されている6)。
また神経変性疾患で最も患者数の多いアルツハイマー病(AD)では、家族性 AD 責任遺伝子の 1 つである PSEN1 がリソソーム酸性化維持に重要であること7)、リソソーム蛋白分解酵素であるカテプシン B をコードする CSTB 遺伝子が AD 疾患感受性遺伝子であるとのGWAS 研究結果などからも8)、その重要性が示唆されている。
家族性 ALS 責任遺伝子の遺伝子産物の働きとリソソーム機能不全についても複数報告がある。(表1)に示すように、GRN、C9orf72 の病因変異による遺伝子産物機能不全がリソソーム機能低下を招き、異常蛋白凝集を促進することが様々なモデルで報告されている 9)。上述のリソファジー機能不全が ALS 患者で認められる TBK1 変異により、マウスモデルで確認されている(表1)10)。
| 遺伝子 | 影響を受ける リソソーム経路 |
神経変性疾患 | 使用されたモデル | リソソーム機能不全のメカニズム |
|---|---|---|---|---|
| PSEN1 | オートファジー・リソソーム経路 | AD | マウス、ヒト遺伝学 | リソソームの酸性化不全 |
| GBA | グルコシルセラミド代謝 | AD、 PD、 リソソーム蓄積症、 ゴーシェ病 |
マウス、患者由来線維芽細胞 | αシヌクレイン凝集 |
| HTT SNCA APP |
オートファジー・リソソーム経路 | AD、 ALS、 PD、 ハンチントン病 |
マウス、培養細胞 | ミスフォールド蛋白質の除去不全 |
| ATP13A2 | リソソーム酸性化 | PD | 培養細胞 | ポリアミン・金属イオンのリソソーム内外の輸送障害 |
| APOE CSTB CSTD |
リソソームにおける蛋白質分解 | AD | iPSC 由来ミクログリア・アストロサイト | カテプシン B, D の発現低下 |
| LRRK2 | リソソーム膜修復 | PD | マウス、剖検脳 | リソソーム膜障害後に起こる修復機転の障害 |
| PSAP | リソソーム酵素産生 | PD | ヒト遺伝学、マウス | サポシン不足による蛋白分解不全 |
| MCOLN1 | リソソームのカルシウムシグナル伝達 | PD | PDマウス、ドーパミン作動性ニューロン | リソソームからのカルシウム放出の障害(MCOLN1 遺伝子が TRPML1 をコードするため) |
| VPS35 | リソソーム酵素輸送 | PD | ショウジョウバエ、マウスなど | カテプシン D 不全、リソソーム運動異常 |
| TMEM175 | リソソームの pH 調節 | PD | マウス、ニューロン | カリウム / プロトンチャネルの機能不全による分解能および pH 安定性の低下 |
| GRN | リソソームの酸性化 / 蛋白質分解 | ALS/FTD | Rrn-/- マウス、iPSC 由来ニューロン | リソソーム pH 調節能低下、リソソーム酵素活性低下 |
| C9orf72 | オートファジー開始 / リソソーム産生 | ALS/FTD | 遺伝子ノックアウトマウス、iPSC 由来ミクログリア・アストロサイト | 小胞輸送およびエンドソーム成熟の障害、ジペプチドリピート蛋白質媒介のリソソームストレス |
| dynactin | ALP | ペリー病 | マウス、培養細胞 | リソソーム空間制御不全 |
| CHMP2B | ESCRT-III による膜修復 / エンドソーム選別 | FTD | マウス、ヒト細胞 | 膜修復の欠陥およびエンドソーム成熟の障害 |
| TBK1 | ライソファジー | ALS/FTD | マウス、ニューロン、培養細胞 | オートファジー受容体のリン酸化減少およびクリアランス(除去)不全 |
表1 神経変性疾患責任遺伝子とオートファジー・リソソーム系障害のまとめ
Abbreviations: AD: アルツハイマー病、ALS: 筋萎縮性側索硬化症、FTD: 前頭側頭型認知症、iPSC: 人工多能性幹細胞、PD: パーキンソン病
文献:3, 4, 16-18)
4. リソソーム分布変化と神経変性疾患
オートファジー・リソソーム系では、最終的にオートファゴソームがリソソームと融合してオートリソソームを形成し、種々の蛋白質・オルガネラなどが分解される。細胞生物学的に、オートリソソーム形成は微小管中心(MTOC)付近で行われる機会が多いことが知られている11)。そのため、リソソーム分布をより MTOC に寄せる化合物は、リソソームでの蛋白質分解を促進し、治療薬になる可能性がある12)。我々は飢餓状態におけるリソソーム分布調節機構13)、酸化ストレスが TRPML1 依存的にリソソームからのカルシウム放出を促し、これが CaMK2G を活性化して JIP4 をリン酸化し、リソソームを MTOC に集積させる機構などを報告し14)、これらの分子機構に基づいた創薬研究を進めている15)。特に既存薬である駆虫薬アルベンダゾールがこれらの機構を介して alpha-synuclein 凝集を抑制することから、誘導体群から創薬シーズを探索している。
5. リソソームを標的とした治療薬開発状況
表2 には Clin Trials.com の情報を中心に現在のリソソームを標的とした神経変性疾患治療薬の開発状況をまとめた。神経変性疾患の中でも PD では GBA1 ヘテロ変異患者を対象に長期的視野での進行抑制証明を目的とした治験が先行して行われている。また分子機序は異なるものの、ALS でも一部薬剤の臨床試験が進んでいる。
Abl-1 阻害による mTORC1 抑制がオートファジーを誘導することを利用した薬剤(Nilotinib は有効性が証明できず)のドラッグリポジショニングを目指した研究が継続中である。また、PD 責任遺伝子・疾患感受性遺伝子である LRRK2 の変異型が、リソソーム機能を抑制することに着目し、LRRK2 抑制作用薬が現在臨床試験第III相に進んでいる。また直接的に glucocerebrosidase 酵素活性を回復させる薬剤の臨床試験も複数が実施中である。
| 標的 | 薬品名 | 疾患 | 開発状況 | 文献など |
|---|---|---|---|---|
| mTOR | TML-6 | AD | Phase 2 準備中 | NCT07612150(ClinicalTrials.gov) |
| TFEB 活性化 | SLS-005 | ALS | Phase 2/3 完了 | 19 |
| Abl-1 | Nilotinib | PD | Phase 3 完了・有効性証明できず | 20 |
| Vodobatinib | PD | Phase 2 実施中 | PROSEEK trial | |
| Risvodetinib | PD | Phase 1 完了 | 21 | |
| LRRK2 | DNL201 | PD | Phase 1 完了 | 22 |
| DNL151 | PD | Phase 1 完了 | 23 | |
| BIIB094 | PD | Phase 1 実施中 | 24 | |
| GBA | Ambroxol | PD(AD, ALS) | Phase 2 完了・有効性証明できず | 25 |
| LTI-291 | PD | Phase 1 完了・Phase 2 実施中 | 26 | |
| Venglustat | PD | Phase 2 完了・有効性証明できず | 27 | |
| PR001 | PD | Phase 1/2a 実施中(2029年完了予定) | PROPEL trial |
表2 神経変性疾患におけるオートファジーを標的とした臨床試験の進行状況
6. おわりに
本項ではリソソーム機能障害が神経変性を来す分子メカニズムを中心に、最新の知見をまとめた。いずれの病態でも、最終的には LMP または蛋白質の異常凝集が神経細胞死をトリガーすると考えられる。どの分子機構を治療標的とするのが薬効発揮に最適か、現在はその観点から精力的な「治療研究」が実施されており、徐々に疾患修飾療法の確立に近づいていると考えられる。
| [ 著者プロフィール ] | |
| 氏名 | 斉木 臣二(Shinji Saiki) |
|---|---|
| 所属 | 筑波大学医学医療系神経内科学(脳神経内科) 教授 〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1 Tel: 029-853-3224 |
| 出身学校 | 京都府立医科大学医学部医学科 |
| 学位 | 博士(医学)(順天堂大学) |
| 専門分野 | 細胞生物学・生化学、神経内科学(特にパーキンソン病、レム睡眠時行動障害) |
| 現在の研究テーマ | オートファジー誘導による神経変性疾患に対する創薬 |