Review

酸化脂質と疾患: 検出技術開発が拓くフェロトーシス・創薬研究の進展

Oxidized Lipids and Disease: Advances in Ferroptosis and Drug Discovery Driven by the Development of Detection Technologies

山田 健一

山田 健一
九州大学
大学院薬学研究院
教授

Abstract  Oxidized phospholipids have emerged as key mediators of diverse biological processes and diseases. In particular, ferroptosis, a form of cell death driven by lipid peroxidation, has attracted considerable attention in recent years. Increasing evidence indicates that oxidized phospholipids regulate multiple cellular responses, including angiogenesis, metabolic reprogramming, and inflammatory signaling. Among these molecules, oxidized phosphatidylcholines have been detected in vivo using specific antibodies and mass spectrometry and are closely associated with disease progression. To further advance this field, technologies capable of directly detecting lipid radicals and oxidized lipids are essential. In this article, we review recent advances in the detection and structural characterization of lipid peroxidation products, focusing on our approaches, and describe screening strategies for inhibitors targeting lipid radical-mediated reactions.

1. はじめに

 最近、酸化(リン)脂質が誘導する細胞死「フェロトーシス」が報告 1)され、まさに“Hot Topics”となっている。さらに、心臓や腎臓の虚血再灌流傷害、ALSやパーキンソン病などの神経変性疾患など、多くの疾患への関与が指摘され 2)、わずか10年で新たな研究領域を形成しつつある。
 一方、フェロトーシス以外にも、酸化(リン)脂質は、血管新生の誘導 3)、細胞代謝の変容 4)、さらにはアレルギー反応の促進 5)など、多様な生理機能を有することが報告されている。例えば、酸化ホスファチジルコリン(oxidized phosphatidylcholines:oxPCs)は、特異的抗体E06 6)や質量分析法を用いることで生体内での検出が可能となり、病態との関連が明らかにされつつある。実際、アテローム性動脈硬化症患者の血漿や非アルコール性脂肪肝炎患者の肝臓では、oxPCsが増加する 7-9)。また、E06抗体によるoxPCsの中和は、これらの疾患モデルマウスにおける炎症反応や病態の進行を抑制することが示されている 89)。さらに、急性肺損傷モデルマウスにおいても肺組織中でoxPCsが増加し、局所的な炎症反応の亢進に関与することが明らかとなっている 10)
 また、oxPCsの一種である oxidized-1-palmitoyl-2-arachidonyl-sn-glycero-3-phosphocholine(oxPAPC)は、内皮細胞に作用して単球接着を促進するようである 11)。加えて、樹状細胞においては炎症性サイトカインinterleukin-1β(IL-1β)の分泌を誘導する 12)。さらに、oxPAPCはマクロファージにおける抗炎症性サイトカインinterleukin-10の産生を低下させ、その結果として過剰な炎症応答を亢進させることも報告されている 13)
 このように、酸化脂質は様々な細胞に作用し、多様な生理機能を有する可能性が示されている。今後、これらの研究をさらに発展させるためには、分子そのものを直接検出する技術の確立が不可欠であろう。また、適切な阻害剤の探索は、疾患の分子メカニズムの解明にとどまらず、創薬研究の観点からも重要である。そこで本稿では、脂質過酸化反応の連鎖反応の中心となる脂質由来ラジカルおよびその生成物である酸化脂質の検出・構造解析技術について、我々の研究を中心に概説する。さらに、脂質ラジカルを阻害する化合物のスクリーニング技術についても紹介したい。

2. 脂質ラジカル・酸化脂質検出技術

2.1 脂質由来ラジカル

 脂質由来ラジカルは、一連の脂質過酸化反応の起点であり、反応性が極めて高い。そのため、検出技術はある程度限定されているが、本稿では、蛍光プローブ法について記載する。これまで、脂質ラジカル検出蛍光プローブとしては、特にフェロトーシス研究(後述)においてC11-BODIPYが広く利用されてきた。本プローブは、脂質ラジカル(L・)、脂質ペルオキラジカル(LOO・)、さらにパーオキシナイトライト(ONOO・)と反応する。また、LOO・との二次反応速度定数は6.0×103 M-1s-1とされている。このC11-BODIPYは、脂質由来ラジカルと反応し蛍光波長がシフトすることから、細胞イメージングなどで広く用いられているものの、動物実験などへの応用や、脂質由来ラジカルの構造情報などについては限定的でもある。
 一方、我々は、培養細胞や疾患モデル動物にも応用可能な脂質由来ラジカル蛍光検出プローブ「NBD-Pen」を開発した(図1a14)。これは、NBD-Pen内のニトロキシド部位が、蛍光団7-nitrobenzofurazan(NBD)基(環境応答性の蛍光原子団でもある)に対して蛍光消光作用を示すこと、また、ニトロキシドが炭素中心ラジカルとラジカル-ラジカル共有結合でき、その二次反応速度定数(k=108-9 M-1s-1)が極めて高いことなどに着目し、脂質ラジカルと反応すると蛍光発光するよう設計したものである。これまでに、ニトロソアミン誘発肝細胞がん(図1b14)、光照射網膜障害 15)モデル動物の組織切片中での蛍光検出が可能となっている。さらに本プローブの特徴のひとつは、脂質ラジカルとラジカル-ラジカル反応により、安定なアルコキシルアミン付加体を形成することである。すなわち、この付加体を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離、蛍光検出にて保持時間を確定し、その後、その保持時間で質量分析を行えば、結合した脂質由来ラジカルの構造を解析できる(図1c16)。実際に、これまでに、132種類(111種類はこれまでに報告がない)を検出できており、その中には、脂質由来の断片化ラジカル種も多数含まれていた。この脂質由来断片化ラジカルの生成パターンとして、β切断ではアルキルラジカルが、またジオキセタン開裂やホック開裂では、オキソアルケニルラジカルが生成するとされる。このことは、NBD-Penと共有結合した分子の構造解析により、生成した断片化ラジカルの切断様式や、さらに、ω3かω6由来の脂肪酸であるのかその基質も推定可能である。また、本手法を用いて、サラセミア患者のリポ蛋白中での脂質ラジカルの検出にも成功している 17)

2.2 酸化脂質

 脂質はひとたび酸化されると、脂質ラジカルが常に存在している状態となり、脂質過酸化代謝産物は大量に生成されることになる。また、生成した脂質ペルオキシドは、開裂反応を経て、アルデヒド体へと分解される。例えば、4-ヒドロキシノネナールなどのアルデヒド体は、蛋白質と複合体を形成するが、その検出のための抗体がよく利用されている。また、Liperfluoは、脂質ヒドロペルオキシドと反応する蛍光プローブである。
 一方、脂質データベースLIPIDMAPS(www.lipidmaps.org/)に登録されている酸化ホスファチジルコリン(oxPC)を調べてみると、その当時はわずか53種類であった。しかし、上記、検出できた脂質由来ラジカルの数から考えても、oxPCの数は予想よりも遙かに少ない。そこで我々は、質量分析によるノンターゲット分析技術を用いて、oxPCの構造解析を行った 18)。その結果、3種類の不飽和脂肪酸(PUFA)を含むPC16:0/PUFAに由来するoxPCsを155種類検出した。そのうち、103種は、これまでに報告のない新規のものであった。また、リン脂質のsn-1の脂質の種類を変えることで、最終的に465種のoxPCsのMS/MSライブラリーを構築した。さらに、アセトアミノフェン投与肝障害モデル動物の肝臓中では、70種類のoxPCsが生成していた。また、質量イメージング(MALDI-MS/MS/MSI)を用いることで、アセトアミノフェンの代謝酵素であるCYP2E1の高発現部位と、oxPCsの生成部位が非常によく一致していることもわかった。一方、コリン欠乏メチオニン添加高脂肪食(CDAHFD)摂取マウス肝臓では、中性脂質であるトリグリセリドの酸化物(oxTGs)が、CDAHFD給餌1週間時点で顕著に増加していた 19)

3. フェロトーシス

 フェロトーシスは鉄依存的な脂質過酸化反応を介する細胞死機序であり、2012年にStockwellらによって報告された 1)。フェロトーシスに関する誘導機構は、他書を参考にして頂ければと思うが、最終的には、生成した脂質ヒドロペルオキシドが蓄積し、形質膜に存在するPiezo1やtransient receptor potential(TRP)チャネルが活性化され、Ca2+とNa+の流入やK+流出を介した浸透圧細胞膨張が生じ、形質膜破壊が誘導されるようである 2021)
 一方、我々はフェロトーシスの誘導起点に着目した。これまで、フェロトーシスの誘導起点となる脂質ラジカル・酸化脂質の生成オルガネラとしては、蛍光検出プローブであるC11-BODIPYなどを利用し、小胞体、ミトコンドリア、形質膜、リソソームなどが報告されている。ここで我々は、これまでフェロトーシス研究に利用されている蛍光プローブが、フェロトーシスの原因分子と反応しているのであれば、プローブ剤自身がフェロトーシス阻害剤として機能するであろうと考えた。実際に複数のプローブを用いて検討したところ、NBD-Penのみが蛍光イメージングを実施する2μMの濃度でフェロトーシス誘導を完全に抑制した 22)。このとき、Fe2+存在下β切断により生成するアルキルラジカルが生成していた。さらに、この条件下では、リソソームで脂質ラジカルが生成していることがわかった。そこで我々は, NBD-Penにモルホリノ基を結合させたリソソーム標的NBD-Pen(Lyso-NBD-Pen)を新たに開発した(図1a, d)。興味深いことに、Lyso-NBD-Penは、NBD-Penより低濃度でフェロトーシスを抑制した。以上の結果は、蛍光イメージングプローブの特性をうまく利用することで、フェロトーシス誘導時にリソソームで生じる脂質ラジカルの重要性を見出すことができたと言える。
 さらに、フェロトーシスの進行過程では、リソソーム膜透過性(lysosomal membrane permeabilization:LMP)が誘導され、小孔を介してFe2+が細胞内へ放出される。その結果、脂質過酸化反応が小胞体やミトコンドリア、さらには形質膜へと伝搬していくようである。また、フェロトーシスに対する感受性は肺がん細胞株間で大きく異なる。詳細は割愛するが、フェロトーシス低感受性細胞ではリソソーム内で脂質ラジカルが生じているものの、LMPが生じにくい。そこで、lysosomotropic agentsであるクロロキンやNH4Clを添加してみたところ、リソソーム内のFe2+が細胞質へ拡散し、それに伴い脂質過酸化反応が亢進し、その結果、より低濃度のフェロトーシス誘導剤でも細胞死が誘導されることが明らかとなった 22)
 以上の結果から、肺がん細胞に対してフェロトーシス誘導剤を添加すると、まずリソソーム内で脂質ラジカルが蓄積し、その後LMP誘導とFe2+の細胞質への拡散、その結果、脂質過酸化反応が小胞体などの他のオルガネラへ伝搬していく可能性が示唆された。

図1.蛍光プローブを用いた脂質ラジカルの検出と構造解析
図1.蛍光プローブを用いた脂質ラジカルの検出と構造解析

a)本プローブは、脂質ラジカルと共有結合し蛍光発光する。 b)NBD-Penを用いてジエチルニトロソアミン(DEN)誘発肝癌ラットを用いた応用。 c)脂質ラジカルの構造解析技術、d)Lyso-NBD-Penを用いることで、フェロトーシス誘導に脂質ラジカルがリソソームで生じていることがわかる。

4. 脂質由来ラジカルをターゲットとした化合物スクリーニング系構築

 フェロトーシスを始め、様々な疾患に脂質ラジカルが関与していることから、その阻害剤、「ラジカル捕捉型抗酸化剤(RTA:Radical Trapping Antioxidant)」の研究が盛んに進められている。実際に、理想的な化合物スクリーニング系を構築するためには、脂質ラジカルに対する高い反応選択性及び大きな二次反応速度定数、かつ、脂質ラジカルが生成する環境を模倣することが重要であろう。
 そこで我々は、脂質ラジカルに対する検出プローブとライブラリー化合物との競合反応を利用することが、RTA探索スクリーニング系構築には最も有効であろうと考えた。そのために、1)ライブラリー化合物が検出プローブと直接反応して偽陰性(蛍光発光)を生じないこと、2)検出プローブと脂質ラジカルとの反応性が十分速いこと、を条件とした。これらを踏まえ、最終的に2,2,6,6-tetraethyl-4-(4-nitrobenzo[1,2,5]oxadiazol-7-ylamino)piperidine-1-oxyl(NBD-TEEPO)を用いたスクリーニング系を構築した(図223)。実際に、本系をFDA既承認薬ライブラリー化合物などに適用したところ、脂質ラジカルに対する高い抑制効果を示す複数の既承認薬を見出した。これらヒット化合物について文献を精査すると、虚血再灌流障害、脳梗塞モデル、アルツハイマー病など、酸化ストレスの関与が想定される疾患モデルにおいて実際に保護効果が報告されている例が複数存在していた。興味深いことに、本来は異なる薬理作用を示す薬剤であっても、同一の疾患モデル動物において保護効果を示すという報告が複数存在していた。これは、スクリーニングヒット化合物が実際に脂質ラジカル阻害能を有していることを示唆するとともに、本研究で対象とした疾患の発症および進展に脂質ラジカルが関与している可能性を客観的に裏付ける結果でもある。
 次に、我々も本手法を検証するために、ヒット化合物4種類を選択し、光誘発性網膜障害モデルに対する効果を評価した 23)。その結果、4種類の薬剤を同量、腹腔内投与すると、いずれの薬剤も網膜保護効果を示した。ちなみに、これら4種の薬剤は、本来それぞれ異なる薬理学的作用点を有している。そこで、抽出された4種の薬剤の中から、臨床で使用される投与量において比較的広い安全域を有し、かつ眼底や皮膚に対する副作用の報告がないメチルドパを候補薬剤として選択した。メチルドパを経口投与あるいは点眼投与したところ、光照射モデルマウスにおいて生じる網膜厚の減少が、用量依存的に抑制された。さらに、このメチルドパはマウス慢性脳低灌流モデルにおいても保護効果を示し、認知機能の低下を抑制することが明らかになった。
 以上、脂質ラジカル抑制剤のスクリーニング系を確立したが、複数の既承認薬が脂質ラジカル抑制能を有していることは興味深い。また、これらの薬剤の中には、フェロトーシス抑制効果を示すものが多く存在する。

図2.脂質由来ラジカルをターゲットとした化合物スクリーニング系
図2.脂質由来ラジカルをターゲットとした化合物スクリーニング系

5. おわりに

 本稿では、脂質ラジカル及び酸化脂質の検出・構造解析、並びに、脂質ラジカル抑制剤のスクリーニング系について紹介した。また、今回紹介した蛍光プローブに関して、単なるイメージング分子としての利用ではなく、原因分子を捉えているのであれば阻害剤として機能しうる点、さらに本稿では示していないが反応分子、二次反応速度定数、移行性、滞留性なども、研究を進める上で重要であることが再確認できた。
 これまで、多くの疾患や生体機能に酸化脂質が関与することが報告されつつあるが、実際に検出し、またその機能を評価した研究は限られている。今後、脂質ラジカルや酸化脂質の分子種やそのターゲット分子などを解明することが、疾患のメカニズム解明や創薬研究に大いに貢献できるであろう。



[ 著者プロフィール ]
氏名 山田 健一(Ken-ichi Yamada)
所属 九州大学 大学院薬学研究院 教授
〒812-8582
福岡市東区馬出 3-1-1
TEL: 092-642-6624
出身学校 九州大学大学院薬学研究科
学位 博士(薬学)
専門分野 脂質分析化学、脂質生化学
現在の研究テーマ 酸化脂質の検出技術開発と疾患への応用

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