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DPPH 法による抗酸化活性評価

Evaluation of Antioxidant Capacity by DPPH Assay

島村 智子
高知大学
農林海洋科学部農芸化学科
准教授

Abstract
 So far various assay methods have been reported for the evaluation of antioxidant capacity. These methods are based on a wide variety of measurement principles such as hydrogen atom transfer and single electron transfer. Among various assay methods, we selected the 1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)assay as the candidate for the standard method to evaluate the antioxidant capacity of natural food additives.  In order to prove the applicability of the DPPH assay, an inter-laboratory evaluation was conducted using four types of natural food additives (antioxidant: tea extract, grape seed extract, enju extract, and D-α-tocopherol) and 6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid (Trolox) as analytical samples; 14 laboratories participated in this evaluation. This result revealed that the proposed protocol of the DPPH assay showed high repeatability within the same laboratory. In addition, the assay was found to exhibit satisfactory reproducibility on the basis of the RSD ratio(reproducibility relative standard deviation/repeatability relative standard deviation). Thus, it was concluded that the proposed protocol of the DPPH assay is applicable as a standard method to evaluate the antioxidant capacity of natural food additives. We recently proposed the microplate assay kit for the DPPH assay(DPPH Antioxidant Assay Kit) on the basis of the validated protocol. The results obtained from the microplate assay kit were also introduced in this review.

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1. はじめに

1.1 抗酸化物質

 酸化ストレスの結果生じる活性酸素種をはじめとするフリーラジカルは、生体障害の大きな原因の一つであり、老化や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病、及びその合併症などの発症に密接に関連していることが知られている。一方、生物は活性酸素種やフリーラジカルに対して、優れた防御システムを構築することによって自らを守っている。そのような役割を担うものを総称して抗酸化物質という。我々は様々な抗酸化物質を体内で生産したり、食物から取り入れたりしている。抗酸化物質には、酵素やタンパク質などの高分子化合物やビタミン類やポリフェノール類などの低分子化合物が存在する。一方、食品の場合、食品成分の酸化は色味の悪化、オフフレーバーの発生などの品質劣化の原因となる。特に、不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含む脂質は、加工・調理や長期保存の際に空気中の酸素と接触することによって酸化的劣化(変敗)を生じ、不快な臭い、味の変化、色の変化、粘度の増加などの品質劣化の原因となる。従って、食品の品質管理上、食品成分の酸化による変質を防止し、品質の安定性を向上することを目的に添加される酸化防止剤(抗酸化物質)は非常に重要な役割を果たしている。

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1.2 既存添加物の現状

  日本国内で使用されている食品添加物は、指定添加物と既存添加物に大別される。指定添加物は、国が安全性・有効性を確認した合成添加物であり、成分含量、あるいは成分組成に基づく規格基準が設定されている。一方、既存添加物は 1995 年の食品衛生法の改正に伴い、経過措置的に使用が認められているものである。しかし、酸化防止剤用途の既存添加物の多くは複数成分が抗酸化力価に関与しており、すべての抗酸化成分の同定、定量を行うことは現実的には困難である。このような既存添加物については成分含量、あるいは成分組成に基づく規格基準が設定できないことから、品質確保のために主要な成分組成と抗酸化力価の確認の組み合わせにより規格設定することが望ましい。そのため、著者らは厚生労働科学研究費補助金食品の安全確保推進研究「既存添加物の安全性確保のための規格基準設定に関する研究」(平成 26-28 年度)をはじめとする一連の研究 1-6) において、酸化防止剤の抗酸化力価評価に対する標準法の確立を目的とした研究を実施した。

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1.3 抗酸化活性評価法の現状

 抗酸化活性評価については、多種多様な原理に基づく方法が開発され実際に利用されている 7) 。分類としては、HAT(Hydrogen Atom Transfer)機構と SET(Single Electron Transfer)機構に大別される。抗酸化物質がフリーラジカルに水素原子を供与することで基質の酸化を抑制する原理を利用するのが HAT 機構であり、代表的な方法として oxygen radical absorption capacity(ORAC)法や low density lipoprotein(LDL)酸化法が挙げられる。一方、SET 機構は、抗酸化物質がフリーラジカルや酸化物に 1 電子を供与することで基質を還元するものである。種々のラジカル発生剤と検出プローブの組み合わせが提案されており、代表的な方法として 1, 1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)法(図1)、2, 2’-azinobis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)(ABTS) 法、ferric ion reducing antioxidant power(FRAP)法などが挙げられる。この他に、スーパーオキシドアニオン(O2)、ヒドロキシルラジカル(・OH)などの活性酸素種の消去活性を評価する方法も汎用されている。また、抗酸化活性評価においては、反応溶液中に発生させた活性酸素種やフリーラジカルを直接的に分光学的に検出する直接法と、活性酸素種やフリーラジカルと反応するプローブと試料とを競合させる競合法の分類も存在する。直接法の代表例としては電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance: ESR)法、競合法の代表例としては O2 消去活性測定法の 2-(4-Iodophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium, monosodium salt(WST-1)法などが挙げられる。

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2. DPPH 法による酸化防止剤の力価評価

2.1 標準法候補の選定

 酸化防止剤用途の既存添加物に対して抗酸化力価に基づく規格基準を導入するためには、標準法の確立が必要であったが、前述の通り抗酸化活性評価法は既に多数報告され実用されている状況にあった。そこで、(1)過去の研究において使用されてきた実績があること、(2)短時間での測定が可能であること、(3)特殊な測定機器を必要としない汎用性の高い分光学的測定法であることの 3 つの条件を標準法の選定条件とし、ラジカル消去活性測定法である DPPH 法と ABTS 法、O2− 消去活性測定法である WST-1 法を候補として予備的な室間共同試験等を実施し、その結果を考慮して最終的に DPPH 法を標準法の第一候補として選定した 1)

2.2 DPPH 法に関する室間共同試験 2)

 DPPH 法はその簡便性から食品の抗酸化活性評価やスクリーニングに広く利用されてきた方法である。それゆえに変法も多く存在し、一定のプロトコールが決定されていない状況にあった。 従って、DPPH 法を酸化防止剤力価評価の標準法として設定するためには、その目的に対する一定のプロトコールを決定し、妥当性確認(当該分析法が設定した分析の目的を達成できることを科学的に証明すること)を行う必要があった。
 そこで、図1 に示した測定手順、測定に用いる試薬類、試薬調製手順、測定に用いる機器の性能、データ処理方法などを詳細に記述した標準手順書を作成し、14 試験室による室間共同試験を実施した。本試験では、標準手順書と一緒に既存添加物に分類される酸化防止剤チャ抽出物、ブドウ抽出物、エンジュ抽出物、d-α-トコフェロールと標準物質である 6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid(Trolox)を分析試料として各試験室に配布し、DPPH 法による抗酸化力価の評価を行った。
 抗酸化力価評価終了後に各試験室から報告された測定結果を集約し、解析を行った。統計解析においては、酸化防止剤 4 品目と Trolox の IC50(50% 阻害濃度)、及び Trolox 等価活性(TEAC)について外れ値検定を行った後、併行標準偏差(Sr)、室間再現標準偏差(SR)、併行再現相対標準偏差(併行条件で繰り返し分析した分析値の相対標準偏差:RSDr)、室間再現相対標準偏差(室間再現条件で繰り返し分析した分析値の相対標準偏差:RSDR)を求めた。表1 に TEAC に関する解析結果を示した。化学分析に対する室間共同試験の妥当性確認の判断指標の一つとして RSDR/RSDr の値が 1.5-2 であることが報告されている。この判断指標に基づくと、ブドウ種子抽出物を除く 3 品目の酸化防止剤において良好な室間再現精度が認められた。加えて、本試験で得られた DPPH 法による抗酸化力価評価結果は、同一試験室内での再現性が極めて高いことが判明した。このことから、標準手順書に記載した DPPH 法のプロトコールは酸化防止剤用途の既存添加物の抗酸化力価評価法として適用可能であると判断した。

2.3 DPPH 法によるチャ抽出物の抗酸化力価評価 5)

 先に記した室間共同試験において DPPH 法の妥当性確認を行った。一方、DPPH 法で評価した抗酸化力価が酸化防止剤中の有効成分含量を反映し得るか否かは確証がない状況であった。そこで、比較的成分組成の解明が進んでいるチャ抽出物を用い、主要カテキン類(カテキン(C)、エピカテキン(EC)、ガロカテキン(GC)、エピガロカテキン(EGC)、カテキンガレート(Cg)、エピカテキンガレート(ECg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピガロカテキンガレート(EGCg))含量と抗酸化力価の関係について調べた。チャ抽出物は既存添加物名簿収載品目リストに酸化防止剤、製造用剤として収載されており、既存添加物の中でも加工食品への使用頻度が高く、かつ含有成分(≒ 有効成分)の解析や定量法の開発が比較的進んでいるものである 8, 9) 。一方で、産地や製法の違いにより成分組成が製品間で大きく異なり、成分含量や成分組成を指標とした規格基準設定が困難な品目でもある。
 市販のチャ抽出物 14 品目(紅茶抽出物 1 品目、ウーロン茶抽出物 1 品目を含む)の抗酸化力価とカテキン含量の測定を行ったところ、ウーロン茶抽出物は飽和濃度でも阻害率が 50%に達さず TEAC を求めることができなかった。一方、その他 13 品目については抗酸化力価評価が可能であった。また、品目ごとの抗酸化力価、及びカテキン組成は大きく異なることが判明した。次いで、抗酸化力価とカテキン類含量の間の相関について調べたところ、両者の間の相関係数は 0.975(n = 13)であり、有意な直線性が認められた(p > 0.001)(図2)。このことから、DPPH 法で求めた抗酸化力価はチャ抽出物中の有効成分含量を反映し得ると判断した。
 加えて、カテキン類含量に基づき算出した抗酸化力価の予測値と DPPH 法で求めた実測値との関係を調べ、各種カテキン類の抗酸化力価への寄与率を算出した。その結果、EGCg の寄与率が最も高く 79%であった。また、本試験で定量を行った 8 種類のカテキン類の寄与率の合計は 90%であった。すなわち、残り 10%は主要カテキン類以外の未知成分の寄与があることが判明した。現実的には、残り 10%の寄与率を示す有効成分を網羅的に同定、定量することは極めて困難である。本試験結果は、多種な有効成分を含むチャ抽出物の有効成分含量を抗酸化力価として概ね反映可能であることを示したものであり、DPPH 法で求めた抗酸化力価の品質規格基準としての有用性を実証するデータとなり得ると考えている。

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3. マイクロプレート法への展開

 上記の通り、酸化防止剤の抗酸化力価評価の標準法として DPPH 法が有用であることを実証した。 図1 に示した通り、本法は試験管やマイクロチューブを反応場とするバッチ法である。 DPPH 法は数ある抗酸化活性評価法の中でも比較的シンプルな原理に基づく簡便な手法であるが、多検体の同時分析を行うにはやや難があることは否めない。そこで、より簡便性と迅速性を追求し、反応系をスケールダウンしたマイクロプレート法(DPPH Antioxidant Assay Kit)に展開した。本キットでは、煩雑な試薬秤量や吸光度調整の必要がなく、反応試薬の調製に必要な作業は DPPH と Trolox のエタノールへの溶解作業のみとなっている。また、96 穴マイクロプレートを反応場とすることにより、多検体の同時測定を可能とした。
 本キットを用いて食品試料の抗酸化活性測定を行った結果を表2 に示した。バッチ法との比較の結果、本キットで求めた TEAC はバッチ法と大差なく、再現性にも問題がなかった。従って、本アッセイキットは食品試料の抗酸化活性評価に利用可能であると判断した。

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4. おわりに

 本稿では、酸化防止剤用途の既存添加物の抗酸化力価評価に対する DPPH 法の適用性について検討した一連の研究、ならびにマイクロプレート法への展開について紹介した。前述の通り、抗酸化活性評価法は数多く存在し、DPPH 法以外にも食品試料の抗酸化活性評価法としての妥当性確認を終了した分析法も存在する。 抗酸化活性評価は食品試料の機能性評価のスクリーニングを行う際に高頻度で実施されるものであるが、分析法の選択の際には、その原理、特徴、適用性、得られた結果の解析方法について十分に理解した上で実施することが必要である。

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謝辞

 酸化防止剤の力価評価法の確立に関する研究におきましては、国立医薬品食品衛生研究所食品部 穐山浩部長、食品添加物部 杉本直樹室長、多田敦子室長、高知大学 受田浩之教授、九州大学 松井利郎教授、福岡女子大学 石川洋哉教授にご指導賜りました。心より御礼申し上げます。

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著者プロフィール
氏名 島村 智子(Tomoko Shimamura)
所属 高知大学 農林海洋科学部農芸化学科
〒783-8502 高知県南国市物部乙 200
TEL:088-864-5193
出身学校 愛媛大学大学院連合農学研究科
学位 博士(農学)
専門分野 食品化学
現在の研究テーマ 地域資源の機能性解明
    
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