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オートファジー小胞と不良ミトコンドリアを可視化する蛍光試薬

株式会社同仁化学研究所 岩下 秀文

 2016 年のノーベル賞受賞対象となったオートファジーは、細胞内の自己構成成分を分解する細胞機能として東京工業大学の大隅栄誉教授らのグループにより発見された。オートファジーの中には、@細胞内成分を二重膜構造体で周囲から隔離し、リソソームと融合することで消化されるマクロオートファジー、Aリソソームが内側に陥入し、個々に分裂して細胞質成分が消化されるミクロオートファジー、B個別の分子が直接リソソーム内部に透過され消化されるシャペロン依存性オートファジー、Cオルガネラなどを選択にマクロオートファジー経路で消化する選択的オートファジーなどが存在する。単にオートファジーと呼ぶ場合は、マクロオートファジーのことを指す。本稿においてもマクロオートファジーをオートファジーと呼ぶ。オートファジーは細胞内の不要なタンパク質や細胞小器官を二重膜で構成されるオートファゴソームと呼ばれる隔離膜によって隔離され、続いてリソソームと融合しオートリソソームを形成する。内容物はオートリソソーム内でリソソーム性消化酵素により分解される。この細胞機能の破綻は神経変性疾患などに関与することが次第に明らかになってきており、正常に機能しているかどうか簡便に見定める必要がある。筆者らは低分子蛍光色素を用いることでこれら機能を簡便に全ての細胞に適応可能な検出手法の開発を進めてきた。本稿ではオートファジー小胞と不良ミトコンドリアそれぞれを可視化する特徴的な蛍光色素類について紹介したい。

 細胞内で不要となったタンパク質や細胞小器官は二重膜で構成されたオートファゴソームによって隔離される。オートファゴソームはリソソームと融合することでオートリソソームを形成し内容物をリソソーム性消化酵素により分解する。この現象を生細胞で検出するため、オートファゴソーム特異的タンパク質である microtubule-associated protein 1 with light chain 3(LC3) に緑色蛍光タンパク質 (GFP) を共発現させる手法が最も用いられているが、遺伝子導入の必要があるため全ての細胞に適応することは難しい。近年では初代培養細胞や疾患患者由来 induced pluripotent stem cells (iPS 細胞) を用いた応用研究及び創薬が増えており汎用性の高い検出系が必要となっている。筆者らは、全ての細胞種のオートファジー現象を生細胞で可視化する低分子蛍光色素を開発した 1。 DAPGreen は、オートファゴソーム及びオートリソソームを可視化することができる (図 1)。一方、 DALGreen は酸性環境に応答する仕組みを有するため、リソソームとの融合体であるオートリソソームを検出することができる (図 1)。実際に、 HeLa 細胞にこれら色素を導入し、飢餓培養または rapamycin によりオートファジーを誘導した結果、細胞内で多数の蛍光顆粒点が観察されている。これら蛍光顆粒点は tagRFP-LC3 発現細胞を用いた評価から LC3 と共局在することも確認されている (Commercial 6 に共焦点顕微鏡による観察結果を掲載)。

 さらに筆者らは細胞内でエネルギー産生を担うミトコンドリアに着目し、ミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)を可視化する蛍光色素についても報告している 2。マイトファジーはパーキンソン病などの神経変性疾患と関わりがあり、発症する患者の多くはミトコンドリア分解に重要な Parkin と PINK1 の 2 つの遺伝子がうまく機能していないことが分かっている。つまり、マイトファジーは、蓄積した不良ミトコンドリアの品質管理機構の一つとして重要な役割を担っている。筆者らは不良ミトコンドリアを可視化する低分子蛍光色素を開発した。 Mtphagy Dye は膜電位依存的にミトコンドリアに集積し、ミトコンドリア膜上またはタンパク質に共有結合で固定化される。この生理条件下において蛍光強度は弱いが、酸性環境に変化すると蛍光強度が増大する特徴を有する(図 2)。Parkin 発現細胞と Parkin 未発現細胞を用い、Mtphagy Dye を導入し carbonyl cyanide m-chlorophenylhydrazone (CCCP) によりミトコンドリアの膜電位を低下させマイトファジーを誘導した。その結果、マイトファジー誘導 18 時間後 Parkin 発現細胞において細胞内で Mtphagy Dye 由来の赤い蛍光顆粒点が多数確認されたが、 Parkin 未発現細胞では観察されなかった 2。これら蛍光顆粒点はミトコンドリア染色色素の MitoTracker やオートファゴソームマーカーの GFP-LC3 とも共局在することから、不良化ミトコンドリアがオートファゴソームに隔離されオートファジー経路によりリソソームと融合した過程を生細胞で可視化できることを示している。

 本稿で紹介した蛍光色素類は生細胞イメージングによる細胞内現象の追跡のみならず多検体サンプルを用いた薬剤スクリーニングへも応用が可能である。多くの研究分野でオートファジー現象を可視化する一つの手法として活躍することを期待している。

【謝辞】
 本研究を進めるにあたりご指導いただいた東京医科歯科大学の清水教授、鳥居講師、桜井助教に感謝いたします。

[参考文献]

1) H. Iwashita, H. T. Sakurai, N. Nagahora, M. Ishiyama, K. Shioji, K. Sasamoto, K. Okuma, S. Shimizu and Y. Ueno, “Small fluorescent molecules for monitoring autophagic flux”, FEBS Lett., 2018, 592 (4), 559.

2) H. Iwashita, S. Torii, N. Nagahora, M. Ishiyama, K. Shioji, K. Sasamoto, S. Shimizu and K. Okuma, “Live Cell Imaging of Mitochondrial Autophagy with a Novel Fluorescent Small Molecule”, ACS Chem. Biol., 2017, 12 (10), 2546.

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