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β-ガラクトシダーゼ検出蛍光プローブによる一細胞レベルでの lacZ 発現の検出

株式会社同仁化学研究所 野口 克也

 目的とする遺伝子の発現状態を可視化する技術としてレポータージーンアッセイが広く用いられている。レポータージーンの中でもβ-ガラクトシダーゼを発現する遺伝子(lacZ)は古くから使用されており、染色試薬である 5-Bromo-4-chloro-3-indolyl β-D-galactopyranoside(X-gal)を用いることにより、lacZ 発現細胞を青く染色することができる。しかし、細胞を固定化処理する必要があり、生細胞に適用することはできない。また、比色であるために他の色素との重ね合わせが難しく、組織試料において一細胞レベルでの検出は困難である。そこで、本トピックスでは上記の課題を克服した新規蛍光プローブSPiDER-β Gal-1 について紹介する。
 SPiDER-β Gal-1 は浦野らによって開発された新規 β-ガラクトシダーゼ検出用蛍光プローブであり、β-ガラクトシダーゼと反応すると細胞内タンパク質と共有結合し、強い蛍光を発する。そのため、反応により生成された蛍光色素が細胞外へ拡散しない、という優れた特長を有している 1。この特性により、 lacZ 発現細胞を一細胞レベルで特異的に蛍光検出することが可能となっている(図 1)。

 また、この蛍光プローブは、生細胞だけでなく生きた組織にも適用でき、キイロショウジョウバエの幼虫脂肪体組織 1やマウス膵臓組織における lacZ 発現細胞の検出 2にも使用されている(図 2)。浦野らの報告によれば、SPiDER-β Gal-1 でラベル化したマウス脳スライスの神経細胞をそのまま電気生理学的実験に用いることも可能である。

 SPiDER-β Gal-1 は、生細胞や生きた組織だけでなく固定化処理した細胞や組織にも使用することができるため、蛍光免疫染色との併用も可能であり、幅広い実験系に利用することができる 3
 近年、レポータージーンアッセイにおいて GFP 等の蛍光タンパク質を用いることが多いが、通常一つのタンパク質に対して一つの蛍光タンパク質を発現させる。そのため発現量の少ないタンパク質にラベル化した場合、感度不足となる場合がある。一方、β-ガラクトシダーゼは酵素であるため、SPiDER-β Gal-1 と組み合わせれば蛍光シグナルを増幅することができ、高感度化することが可能である。
 最近小社では、この蛍光プローブを用いた細胞老化マーカー(senescence-associated β-galactosidase;SA-β-gal)検出への応用を試み、その有用性を確認している。本プローブを用いれば、一般的な X-gal 染色法に比べ、高感度かつ短時間で SA-β-gal を検出することができ、またフローサイトメーターを用いた老化細胞の定量解析にも有用である。
 このように優れた特長を有する新規 β-ガラクトシダーゼ検出プローブ SPiDER-β Gal-1 の登場により、今後新たな知見が得られ、生命科学の発展に寄与するものと思われる。
※ 本文記載の SPiDER-β Gal-1 は、現在小社で SPiDER-β Gal(メーカーコード : SG02)として販売しております。

品名 容量 希望納入価格(¥) メーカーコード
β-ガラクトシダーゼ検出蛍光 SPiDER-β Gal 20μg x3 42,000 SG02
老化細胞検出キット Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal 10 assays 38,000 SG03

[参考文献]

1) T. Doura, M. Kamiya, F. Obata, Y. Yamaguchi, T. Y. Hiyama, T. Matsuda, A. Fukamizu, M. Noda, M. Miura and Y. Urano, “Detection of LacZ - Positive Cells in Living Tissue with Single-Cell Resolution.”, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 2016, 55, 9620.

2) H. Omori, S. Ogaki, D. Sakano, M. Sato, K. Umeda, N. Takeda, N. Nakagata and S. Kume, “Changes in expression of C2cd4c in pancreatic endocrine cells during pancreatic development.”, FEBS Lett., 2016, 590, 2584.

3) 堂浦智裕, 神谷真子, 浦野泰照, “生体組織中の lacZ 発現細胞のライブ蛍光検出”, 実験医学, 2016, 34(19), 3197.

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