金沢大学大学院自然科学研究科生命科学専攻 平山 直紀
金沢大学理学部 本浄 高治
FTPとArchie
この連載の第5回でも触れたように、パソコン通信上では、個人や団体が自作したさまざまなフリーウェア(対価を求めないソフト)やシェアウェア(開発コスト程度の費用負担のみを求めるソフト)が紹介されており、ユーザーは興味あるものをダウンロードして利用することができる。パソコン通信でできることが、それよりも巨大な組織(?)であるインターネットでできないわけがない。世界を股にかけたインターネットでは、パソコン通信よりもはるかに多くのフリーウェアやシェアウェアが提供されている。そこで今回は、インターネット上の各所に存在するこれらのフリーウェアやシェアウェアをダウンロードする方法について紹介する。
これも以前紹介したことなのだが、インターネットでは初期の頃からマシン間でのファイルのやりとりが行われており、そのための規則としてFTP(File Transfer Protocol)というものが用意されている。ここから転じて、今ではファイル転送サービス自体がFTP1)と呼ばれている。そういうわけで、ファイル転送のためには送り側、受け側の双方のマシンに対してアカウント(利用権)が必要となるはずである。しかし、フリーウェアやシェアウェアを提供する側はそのソフトを多くの人に使って欲しいので、この場合の利用に限ってアカウントを不要にしている場合が多い。身元を明確にする必要がないという意味で、このようなサービスをanonymous FTP(アノニマス=匿名)と呼んでいる2)。
現在、インターネット上におけるソフトの提供は、大きく分けて2通りの方法で行われている3)。一つは作者が自分や友人のWedページ上で紹介する方法4)で、希望者がページ上にある“ダウンロード”や“FTP”と書かれた文字なりボタンなりをマウスでクリックすることにより、ファイルの転送が行われる。この場合、転送作業は必然的にすべてWWWブラウザを通じて行われることになり、ダウンロードする側はほとんど何も意識せずに目的を果たすことができるので、この方法については特に紹介しない。ただし、この方法では、目的のソフトのあるWebページにたどり着くまでがひと仕事である5)。
もう一つの方法(こちらの方がより有効で一般的)は、パソコン通信で適当なフォーラム・SIGからファイルをダウンロードする場合とよく似た形態のものである。供給側はFTPサーバと呼ばれるFTP専用のマシン6)を用意し、供給するソフト7)を適当に分類してそれぞれのディレクトリに収めておく。希望者は、必要なソフトを選んでダウンロードすることになる。
FTPサーバからのダウンロードも、WWWブラウザを用いて行うことが可能である。ブラウザの「メニュー」から「場所を指定して開く」または「アドレスを開く」を選択し、目的とするファイルのURLを入力すればよい。ファイル名までわかっている場合には
ftp://######.####.##.##/$$$/$$$/$$$/&&&&&&.&&&
(####−サーバ名、$$$$−ディレクトリ名、&&&&−ファイル名)と入力すれば、接続後直ちにダウンロードが始まる。ファイル名がはっきりわからない場合は
ftp://######.####.##.##/$$$/$$$/$$$/
まで入力すると、そのディレクトリに含まれているファイルの一覧8)が画面に出るので、目的ファイルの名のところをクリックすればOKである。ディレクトリ名もわからないときは、
ftp://######.####.##.##/pub/
あるいは
ftp://######.####.##.##/
とだけ入力し、出てきた画面をクリックして下層のディレクトリへとたどっていけばよい。(とりあえずはpub9)付きから試していただきたい。)
実を言うと、WWWブラウザによるFTPは割と効率が悪い。FTPの場合、目的のソフトとそのマニュアルが別のファイルになっていることがしばしばあり、ソフト自体がいくつかのファイルに分かれていることさえある。この方法では、1個ずつダウンロードしていくしかない。また、この方法は事実上anonymous FTPのみ、しかもそのうちのいくつかの類型のものしかサポートしていない10)。(もっとも、多くの場合はそれで大丈夫である。)そこで、頻繁にFTPを活用する人には、FTP専用のソフト(FTPクライアント)の利用をお勧めする。代表的なフリーウェアやシェアウェアとしては、Windows用のWS-FTP(シェアウェア・非商用ではフリーウェア)やWinFTP(フリーウェア)、Mac用のFetch(シェアウェア)などがある。これらのソフトでは、一回の命令で多数のファイルを転送することができ、anonymous以外のFTPでもセキュリティの心配はほとんどない。接続もサーバ名(+ディレクトリ名)の入力のみで可能である。(ソフト自体がFTP専用なので、頭に“ftp://”を付ける必要はないし、付けてはならない。)
WWWブラウザを利用しているときはほとんど意識されていないのだが、anonymous FTPといえどもIDとパスワードの入力は求められている。IDとしては通常“anonymous”を用いることになっており、多くのFTPクライアントでもデフォルト11)の設定ではこうなっている。ただし、まれに“ftp”を要求するFTPサーバがあるので、その場合はそのように入力しなければならない。一方パスワードの方は、匿名だから保有しているわけがないのだが、通例メールアドレスを(完全な形で)入力するのがマナーとされている12)。FTPクライアントの所定の欄にきちんと記入してデフォルト設定しておこう。なお、これは当たり前のことなのだが、anonymousではない(本来の)FTPを行う場合には、対応する自分のIDとパスワードを入力しなければならない。
このようにしてダウンロードしたファイルは、パソコン通信の場合と同様、圧縮あるいはエンコードされている場合が多い。したがって、解凍・デコード用のソフトを用いてこれを実行型のファイルにする必要があるのだが、WWWブラウザやFTPクライアントの多くはこれらの作業を自動的に処理してくれるようにできている。(もちろん、そのためのソフトは必要である。)設定上の問題で自動処理されないこともあるが、その場合は、あきらめて手動でやればよい。
さて、anonymous FTPは確かに便利であるが、大きなFTPサーバになると、込み入ったディレクトリ構造の中に非常に多くのファイルが収められているので、目的のファイルを探し出すのがひと仕事である。そこで多くのFTPサーバでは、各ディレクトリに“ls-lR”13)というような名前のテキストファイルを用意して、そのディレクトリおよびそれより下層のディレクトリ内のファイルリストを収めている。したがって、一番上のディレクトリにある“ls-lR”ファイルの中身を見れば、どのファイルがどの位置に収められているかがすべてわかる。
ところが、さらに困ったことに、欲しいファイルがどこのFTPサーバにあるのか自体がわからない場合も非常に多い。おおむねジャンル別にフォーラムやSIGが構成されているパソコン通信の場合とは異なり、インターネット上では各FTPサーバが個々に幅広いジャンルを網羅している。したがってこの場合、あらゆるFTPサーバの“ls-lR”ファイルをコレクションしておくより他にファイル検索法はないことになるが、そのようなことを個人レベルで行うのは事実上不可能である。この問題を解決するための手段として、Webページにサーチエンジンがあるように、anonymous FTPにおいても検索システムが構築されており、Archie(“アーキー”または“アーチ”)という名前が付けられている。各地のArchieサーバ14)はそれぞれ数十〜数百のFTPサーバのファイルリストを定期的に集めてデータベース化しており、検索したい人は、検索用のソフト(Archieクライアント15))を用いて、目的のファイルがどこにあるか探すことができる。フリーウェアやシェアウェアのArchieクライアントとしてはWindows用のWSArchie(フリーウェア)やMac用のarchie(シェアウェア)などが知られている。
Archieで見つけだされたファイルは、当然FTPでダウンロードされる運命にある。それならば、Archieクライアントに初めからFTP機能を付け加えておいた方がはるかに便利だということになる。そのようなソフトとして、Mac用ではすでにAnarchieというシェアウェアが公開されており、Windows95用にもfpArchieというβ版ソフト(正式版ではシェアウェアになるらしい)が用意されている。
最後に、FTPを利用してファイルを手に入れる際の注意事項をいくつか紹介する。
〈1.接続時間はできるだけ短く〉
FTPサーバは多くの人が利用するので、いつまでも回線を専有すると他人の迷惑になる。また、一度にアクセスできる本数を制限しているサーバも多い。「とりあえず接続してから考えよう」などというのは論外である。
〈2.ネットワーク的に近いサーバから〉
よく使われるフリーウェアやシェアウェアは、いろいろなFTPサーバの中に入っている。また、人気のあるFTPサーバに関しては、その中身を完全コピーしたサーバが各所に用意されている。(“ミラーサイト”16)と呼ばれる。)所要時間を短縮するためにも、またネットワーク資源を有効に活用するためにも、できるだけネットワーク的に近い17)FTPサーバからダウンロードすべきである。
〈3.大きなファイルは夜中に〉
インターネットはFTPだけのために存在しているわけではない。(もちろんWWWだけのためでもない。)FTPサーバのあるようなところでは、そもそもインターネットが盛んに活用されているので、ビジネスタイムに回線を専有するような作業はできるだけ避けるべきである。なお、外国のサーバの場合、向こうでは“現地時間”で仕事をしていることを忘れないように。
〈4.ウィルスに注意!〉
パソコン通信の場合と比べて、インターネットの場合は組織によって運営されているわけではないので、多少ウィルス感染の危険性が高くなる。見慣れないソフトをダウンロードする場合には十分注意していただきたい。
この連載も、次回でいよいよ最終回となる。次回は、インターネットで利用できるその他のサービスなどについて紹介してみたい。