はじめに
Glutathione (γ-L-glutamyl-L-cysteinylglycine) は哺乳動物に存在するトリペプチドで、glutathione peroxidase、glutathione S-transferase および thiol transferase 等の酵素基質として関与しています。また、glutathione は酸素ラジカル捕捉能があり、アスコルビン酸と同様の抗酸化作用が認められています。
Glutathione は、図1 に示した酵素リサイクリング法によって高感度に検出されます。5,5’-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid) (DTNB) はジスルフィドを分子内に含有し、glutathione を酸化すると同時に自身は5-mercapto-2-nitrobenzoic acid に還元されます。この 5-mercapto-2-nitrobenzoic acid の吸光度(λmax= 412 nm) を測定することによりglutathione を定量できます。
Total Glutathione Quantification Kit は96 穴マイクロプレート用キットです。30 分以内で、高感度にサンプル中のtotal glutathione 濃度を求めることができます。
図1 Total Glutathione Quantification Kit の測定原理
キット内容
Substrate(DTNB) | x 2 |
Enzyme Solution | 50 μl x 1 |
Coenzyme | x 2 |
Buffer Solution | 50 ml x 1 |
Standard GSH | x 1 |
必要なもの ( キット以外)
- プレートリーダー(405 nm or 415 nm フィルター)
- 96 穴マイクロプレート
- 20 μl と200 μl のマルチチャンネルピペット
- インキュベーター
- 5- スルホサリチル酸(SSA)
使用上の注意
- キットの中の試薬類は、室温に戻してからお使いください。
- 正確な測定値を得るために、1 つの測定試料につき複数( 例えばn=3 以上) のウェルをお使いください。
- Substrate working solution を加えるとすぐに発色が始まりますので、ウェル間のタイムラグを少なくするためにマルチチャンネルのピペットをお使いください。
- Glutathione の濃度が高いと検量線の範囲を超える場合がありますので、数段階に希釈した測定試料溶液を用いて測定を行ってください。
- 本キットで GSSG のみの測定はできません。GSSG の濃度を測定する場合は、GSSG/GSH Quantification Kit( コード: G257) をご使用ください。
- 本キットにはガラス製容器及びアルミキャップを使用しております。保護手袋を着用するなど取扱いにはご注意ください。
妨害物質
妨害物質アスコルビン酸、β - メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT) のような還元物質やシステイン、また SH基と反応する化合物( マレイミド等) は測定に影響を及ぼします。これらの化合物は前処理等で除くことができませんので、測定試料中に混在させないようご注意ください。
測定前処理
細胞、赤血球、血漿、組織に関する前処理例は、小社HPの「はじめての酸化ストレスマーカー測定プロトコル 11 ページ」をご参照ください。
溶液調製
Substrate working solution
Substrate のバイアル 1 本に Buffer Solution 1.2 ml を加えて溶かす。
Buffer Solution に確実に溶解していることを確認してください。溶解し難い場合には、超音波やボルテックスミキサーを使用してください。溶解後 -20°C保存で 2 ヶ月使用できます。
Enzyme working solution
Enzyme Solution を数回ピペッティングした後、20 μl 取り、Buffer Solution 4 ml で希釈する。
チューブ内壁やキャップに酵素溶液が付着していることがありますので、軽く遠心してから開封してください。
希釈後 4℃保存で 2 ヶ月使用できます。
Coenzyme working solution
Coenzyme のバイアルに、純水 1.2 ml を加えて溶解する。
瓶内部は減圧になっていますので、シリンジで純水を加えてから開封してください。溶解後 -20°C保存で2 ヶ月使用できます。
GSH standard solution
0.5% SSA 2 ml を、Standard GSH のバイアルに加えて溶解する(200 μmol/l GSH standard solution)。
瓶内部は減圧になっていますので、シリンジで SSA を加えてから開封してください。溶解後 -20°C保存で 2 ヶ月使用できます。
操作
- GSH standard solution の調製
図2 のように、各チューブに0.5% SSA 100 μl を入れておく。200 μmol/l GSH standard solution 100 μl を加え混合した後、100 μl を次のチューブに移す。同様に順次希釈し標準液とする。
図2 GSH standard solution の調製例 - 各ウェルにCoenzyme working solution 20 μl、 Buffer Solution 120 μl およびEnzyme working solution 20 μl を入れる。
- 37°Cで5 分間インキュベーションする。
- GSH standard solution もしくは測定試料を20 μl ずつウェルに入れる(GSH standard solution と測定試料のレイアウトの例を図3 に示す。n=3 とした場合 24 検体測定することができる)。
-
- 37°Cで 10 分間インキュベートする。
- Substrate working solution を20 μl 加え、室温で10 分間インキュベートする。
- 405 nm もしくは 415 nm のフィルターを使って、マイクロプレートリーダーで各ウェルの吸光度を測定する。
- 測定試料中のGSH の濃度を検量線より求める。
- Substrate working solution 添加後30 分は、吸光度は直線的に上昇します。低濃度域を測定したい場合は、GSH standard solution を25 μmol/l から順次希釈した標準液を用いて検量線を作成してください。また、インキュベーションは、20 〜30 分間行ってください。図4, 5 は、それぞれkinetic method とpseudo-end point method で作成した検量線の例です。
図3 GSH standard solution と測定試料のレイアウトの例(n=3 の場合)
図4 kinetic method による検量線の例
図5 pseudo-end point method による検量線の例
(10 分間の発色量)
Total glutathione (GSH and GSSG) 濃度の計算
測定試料中のtotal glutathione の濃度※ は以下の計算式により求められます。
Pseudo-end point method:
Total glutathione (GSH + GSSG) = (O.D.sample − O.D.blank) / 検量線の傾き
Kinetic method:
Total glutathione (GSH + GSSG) = ( 傾きsample − 傾きblank) / 検量線の傾き
- これらの計算式によって求められた値は、調製した測定試料溶液中のtotal glutathione 量になります。
参考文献
- G. L. Ellman, Arch. Biochem. Biophys., 1959, 82, 70.
- O. W. Griffith, Anal. Biochem., 1980, 106, 207.
- M. E. Anderson, Methods in Enzymol., 1985, 113, 548.
- M. A. Baker, G. J. Cerniglia, and A. Zaman, Anal. Biochem., 1990, 190, 360.
- C. Vandeputte, I. Guizon, I. Genestie-Denis, B. Vannier and G. Lorenzon, Cell Biol. Toxicol., 1994, 10, 415.
よくある質問/参考文献
T419: Total Glutathione Quantification Kit
Revised Nov., 27, 2023