はじめに
正常細胞は、分裂を繰り返すことや、酸化ストレス等によりDNA に損傷を生じます。損傷DNA が修復されない場合には、不可逆的に細胞分裂を停止することにより細胞の癌化を抑制します。不可逆的な細胞分裂の停止は細胞老化と呼ばれており、老化細胞にはSA-β-gal (senescence-associated β-galactosidase) が過剰発現しています。このため、SA-β-gal は、老化マーカーのひとつとしてその判別に汎用されています 1, 2)。本製品は、SA-β-gal を簡便かつ高感度に検出するためのキットです。固定化細胞中のSA-β-gal と反応することで青色蛍光を発するため、緑や赤色の蛍光特性を持つ色素や蛍光標識抗体による免疫染色との共染色が可能です。
図1 SPiDER Blue による老化細胞の検出原理
蛍光特性
図2 β-galactosidase と反応後のSPiDER Blue の励起・蛍光スペクトル
キット内容
1 plate (6-well plate)
- SPiDER Blue 10 µl × 1
- Assay Buffer 13 ml × 1
保存条件
-20℃ にて保存してください。
必要なもの
- マイクロピペット
- PBS (-)
- Paraformaldehyde (PFA) / PBS 溶液 (4%)
溶液調製
SPiDER Blue working solution の調製
20 mmol/l SPiDER Blue をAssay Buffer で希釈し、15 µmol/l SPiDER Blue working solutionを調製する。
- SPiDER Blue working solution 2 ml を調製する場合、SPiDER Blue 1.5 µl をAssay Buffer 2 ml に加えて調製して下さい。
- 細胞によって色素の至適濃度が異なります。10~20 µmol/l の範囲を目安にご検討ください。
- SPiDER Blue working solution は保存できません。調製したその日の内にご使用ください。
操作
- 細胞をディッシュに播種し、5% CO2存在下、37°C で培養する。
- 培地を取り除き、PBS を用いて1 回洗浄する。
- 4% Paraformaldehyde (PFA) / PBS 溶液を添加し、室温で30 分間固定化する。
- 4% PFA / PBS 溶液を取り除き、細胞をPBS で1 回洗浄する。
- 調製した15 μmol/l SPiDER Blue working solutionを添加し、37℃ で30 分間静置する。
- 5% CO2 インキュベーターは使用しないで下さい。SPiDER Blue working solution のpH が酸性側に傾き、内在性のβ-galactosidase と反応することにより、バックグラウンドが上昇する恐れがあります。
- 上澄みを取り除き、PBS を用いて1 回洗浄する。
- PBS を添加し、細胞を蛍光顕微鏡で観察する。
実験例1
Doxorubicin 処理で老化誘導したA549 細胞中のSA-β-gal の蛍光イメージング
- A549 細胞 (1 × 106 cells/dish, 10% fetal bovine serum, 1% penicillin-streptomycin を含むDMEM 培地) を10 cm ディッシュに播種し、37℃、5% CO2 インキュベーター内で一晩培養した。
- 培地を取り除き、無血清培地で1 回洗浄後、無血清培地で希釈した0.2 μM Doxorubicin (DOX) を添加し、37℃、5% CO2 インキュベーター内で3 日間培養した。
- 培地を取り除き、無血清培地で1 回洗浄後、 10% fetal bovine serum, 1% penicillin-streptomycin を含むDMEM 培地を添加し、37℃、5% CO2 インキュベーター内でさらに3 日間培養した。
- Trypsinで剥離したDOX 処理あり、なしのA549 細胞懸濁液 (10% fetal bovine serum, 1% penicillin-streptomycin を含むDMEM 培地) を1 × 105 cells/ml に調製し、μ-slide 8 well plate (ibidi 社) に200 μl/well ずつ播種し、37℃、5% CO2 インキュベーター内で一晩培養した。
- 上澄みを取り除き、PBS で1回洗浄後、4% Paraformaldehyde (PFA) / PBS 溶液を添加し、室温で30 分間固定化した。
- 上澄みを取り除き、細胞をPBS で1 回洗浄した。
- Assay Buffer で調製した15 μmol/l SPiDER Blue working solution を加え、 37℃で30 分間インキュベートした。
- 上澄みを取り除き、PBS で1 回洗浄後、PBS を加え共焦点レーザー顕微鏡 (40 倍率) で観察した。
図3 SA-β-gal の蛍光イメージング画像
CTRL: 通常培養条件、DOX: 老化誘導条件
検出波長: 405 nm (Ex), 400–500 nm (Em)
実験例2
継代継代により老化誘導したWI-38 細胞中のSA-β-gal の蛍光イメージング
- 継代数4 回および継代数12 回のWI-38 細胞(1 × 106 cells/dish、10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycin を含むMEM 培地)をそれぞれ10 cm ディッシュに播種し、37℃、5%CO2 インキュベーターで一晩培養した。
- Trypsinで剥離したWI-38 細胞懸濁液 (10% fetal bovine serum, 1% penicillin-streptomycin を含むMEM 培地) を1 × 105 cells/ml に調製し、μ-slide 8 well plate (ibidi 社) に200 μl/well ずつ播種し、37℃、5% CO2 インキュベーター内で一晩培養した。
- 上澄みを取り除き、PBS で1回洗浄後、4% Paraformaldehyde (PFA) / PBS 溶液を添加し、室温で30 分間静置した。
- 上澄みを取り除き、細胞をPBS で1 回洗浄した。
- Assay Buffer で調製した15 μmol/l SPiDER Blue working solution を加え、 37°Cで30 分間インキュベートした。
- 上澄みを取り除き、PBS で1 回洗浄後、PBS を加え共焦点レーザー顕微鏡 (40 倍率) で観察した。
図4 SA-β-gal の蛍光イメージング画像
P=4: 継代数4 回、P=12: 継代数12 回
検出波長: 405 nm (Ex), 400–500 nm (Em)
参考文献
- Dimri, G. P. et al., Cell Biology, 1995, 92, 9363–9367.
- Park, A. M. et al., J. Biol. Chem., 2018, 293(41), 15815-15826.
よくある質問/参考文献
SG07: Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER Blue
Revised Sep., 02, 2024