※印刷が必要ない項目は、タイトルバーを閉じるを押して省略できます。

はじめに

近年、硫化水素(H2S)が、血管拡張や細胞保護、インスリン分泌や神経伝達調節など様々な生理活性を示すことが明らかにされ、一酸化窒素 (NO) や一酸化炭素 (CO) に続く第3のガス状シグナル分子として注目されています。硫化水素は、NOやCOと同様にガス状分子として認知されていますが、生理条件下では約80%が硫化水素イオン(HS-)の状態で存在します。また、硫化水素イオンは生体内でパースルフィドやポリスルフィド、タンパク質結合硫黄など様々な構造をとるため、その作用機序の詳細は未だ不明な点が多く残されています。
硫化ナトリウムや硫化水素ナトリウムは、最も一般的な硫化水素ドナーとして硫化水素研究に用いられています。しかし、水に溶解すると瞬時にすべて硫化水素(イオン)に変換されるため、一過性の硫化水素刺激しか与えることができません。
GYY4137は、P. K. Mooreらによって開発された徐放型の硫化水素ドナーであり、加水分解によって持続的に硫化水素を放出する試薬です1)。そのため、硫化ナトリウムや硫化水素ナトリウム添加のような一過性の刺激では観察されない血圧降下作用や抗がん作用などの効果を示すことが確認されています2-5)


図1. GYY4137の加水分解による硫化水素放出

内容

-SulfoBiotics- GYY4137 10 mg x 1

保存条件

0~5°Cにて保存してください。

使用上のご注意

  • 本試薬は中性バッファーや培地に添加すると有毒な硫化水素を発生します。
  • ご使用になる前に、MSDSをご参照ください。

使用方法

  1. 本試薬3.8 mgを秤量し、超純水 0.5 mlを添加した後、ピペッティングによって溶解し、20 mmol/l GYY4137 Stock Solutionとする。
    • この溶液を少量小分けし、-20°C以下で保存してください。約2ヶ月間は安定です。
  2. 20 mmol/l GYY4137 Stock Solutionを実験に応じて中性バッファーや培地などに希釈して使用してください。
    • 中性バッファーや培地に添加すると同時に硫化水素の放出が開始されます。

実験例

GYY4137のPBS中における硫化水素放出

  1. 20 mmol/l GYY4137 Stock Solution 10 μlをPBS 2 mlに添加して100 μmol/l GYY4137(PBS) 溶液とした後、密栓して室温でインキュベートした。
  2. 各時間で溶液を分取し、メチレンブルー法によって硫化水素量を測定した。

 

GYY4137はPBS中で持続的にゆっくりと硫化水素を放出することが確認された。


図2. GYY4137(100 μmol/l)のPBS中における硫化水素放出パターン

参考文献

  1. L. Li, M. Whiteman, Y. Y. Guan, K. L. Neo, Y. Cheng, S. W. Lee, Y. Zhao, R. Baskar, C-H. Tan, and P. K. Moore, "Characterization of a Novel, Water-Soluble Hydrogen Sulfide-Releasing Molecule (GYY4137): New Insights Into the Biology of Hydrogen Sulfide", Circulation, 2008, 117, 2351.
  2. M. Whiteman, L. Li, P. Rose, C-H. Tan, D. B. Parkinson, and P. K. Moore, "The Effect of Hydrogen Sulfide Donors of Lipopolysaccharide-Induced Formation of Inflammatory Mediators in Macrophages", Antioxid. Redox Signal., 2013, 19, 1749.
  3. Z. W. Lee, J. Zhou, C-S. Chen, Y. Zhao, C-H. Tan, L. Li, P. K. Moore, and L-W. Deng, "The Slow-Releasing Hydrogen Sulfide Donor, GYY4137, Exhibits Novel Anti-Cancer Effects In Vitro and In Vivo", PLos One, 2011, 6, e21077.
  4. L. Li, B. Fox, J. Keeble, M. Salto-Tellez, P. G. Winyard, M. E. Wood, P. K. Moore, and M. Whiteman, "The complex effects of the slow-releasing hydrogen sulfide donor GYY4137 in a model of acute joint inflammation and in human cartilage cells", J. Cell. Mol. Med., 2013, 17, 365.
  5. Z. Liu, Y. Han, L. Li, G. Meng, X. Li, M. Shirhan, M. T. Peh, L. Xie, S. Zhou, X. Wang, Q. Chen, W. Dai, C-H. Tan, S. Pan, P. K. Moore and Y. Ji, "The hydrogen sulfide donor, GYY4137, exhibits anti-atherosclerotic activity in high fat fed apolipoprotein E-/- mice", Br. J. Pharmacology, 2013, 169, 1795.

SB06: -SulfoBiotics- GYY4137
Revised Apr., 12, 2023