はじめに
ミトコンドリアはエネルギー産生の場として知られ、細胞内で重要な機能を持つオルガネラの一つです。近年では、アルツハイマー病やパーキンソン病の原因の一つに不良化したミトコンドリアの蓄積が報告され、マイトファジーがその中で重要な役割をもった機構であることが明らかになってきています。マイトファジーは酸化ストレスやDNA 損傷等により不良化したミトコンドリアを選択的に除去するシステムであり、不良ミトコンドリアはオートファゴソームにより隔離され、リソソームと融合し消化されます。
Mtphagy Dye は細胞内の正常なミトコンドリアに集積し、化学結合により固定化されますが、その状態では蛍光強度は低くなっています。一方、マイトファジーが誘導されミトコンドリアがリソソームと融合すると、Mtphagy Dye の蛍光強度が増大します。初めてMtphagy Dye をご使用の際は、リソソーム染色試薬(Lyso Dye) が同梱されたMitophagy Detection Kit(品コード:MD01)にてリソソームとの共染色により、マイトファジーを検出することをお勧めします。
図1 Mtphagy Dye によるマイトファジー検出機構
内容
Mtphagy Dye | 5 μg x 3 |
保存条件
遮光、0-5 ℃にて保存してください。
必要なもの
- Dimethyl sulfoxide (DMSO)
- Hanks’ HEPES buffer or serum-free medium
- Micropipettes
溶液調製
100 μmol/l Mtphagy Dye DMSO stock solution の調製
Mtphagy Dye 5 μg を含むチューブに50 μl のDMSO を加えピペッティングにより溶解する。
- 調製後は-20 ℃で保存してください。調製後1 か月間安定です。
100 nmol/l Mtphagy Dye working solution の調製
最終濃度が100 nmol/l になるようにMtphagy Dye DMSO stock solution をHanks’ HEPES buffer または血清不含培地で希釈する。
- 本色素は血清成分と干渉するため、血清不含培地またはHanks’ HEPES buffer で希釈してください。
操作
- 固定化した細胞では、Mtphagy Dye がミトコンドリアに集積することができません。また染色後に細胞を固定化すると、リソソームと融合したミトコンドリアは酸性に保たれず、Mtphagy Dye の蛍光は増大しません。
- 細胞をディッシュに播種し培養する。
- 培地を除去後、Hanks’ HEPES buffer または血清不含培地で2 回洗浄する。
- 調製した100 nmol/l Mtphagy Dye working solution を添加し、37 ℃で30 分間インキュベートする。
- 上澄みを除去後、Hanks’ HEPES buffer または血清不含培地で2 回洗浄する。
- マイトファジー誘導刺激剤を含む培地を加え37 ℃で適切な時間インキュベートし、蛍光顕微鏡にて誘導を確認する。
- Mtphagy Dye とLysosome の共局在を観察する場合は、観察の30 分前に1 μmol/l Lyso Dye working solution(品コード:MD01 に同梱)を加え37 ℃で30 分間インキュベートする。
- 上澄みを除去後、Hanks’ HEPES buffer または血清不含培地で2 回洗浄し、蛍光顕微鏡にて観察する。
実験例
Parkin発現HeLa細胞を用いたcarbonyl cyanide m-chlorophenyl hydrazone (CCCP)によるマイトファジー誘導
- μ-slide 8 well (Ibidi)に細胞を播種し37℃、CO2インキュベーターにて一晩培養した。
- HilyMax [Code#:H357]を用いてParkinプラスミドを細胞に導入し、さらに一晩培養した。
- Hanks’ HEPES bufferで2回洗浄後、100 nmol/l MitoBright Deep Red(※)を含む100 nmol/l Mtphagy Dye working solutionを添加し30分インキュベートした。
- Hanks’ HEPES buffer で2回洗浄後、10 μmol/l CCCP含む培養培地で24時間培養した。
- 蛍光顕微鏡でマイトファジーが起きていることを確認後、CCCP含有培地を取り除き、1 μmol/l Lyso Dye working solutionを加え30分インキュベートした。
- Hanks’ HEPES bufferで2回洗浄後、共焦点レーザー顕微鏡でMtphagy Dye、Lyso Dye、MitoBright Deep Red(※) が染色されている事を確認した。
図2 Parkin 発現HeLa 細胞(上段写真)と未発現HeLa 細胞(下段写真)を用いたマイトファジー観察
A, E) Mtphagy Dyeの蛍光画像、B, F) Lyso Dyeの蛍光画像、
C, G) MitoBright Deep Red(※)の蛍光画像、D, H)共染色蛍光画像
- Mtphagy Dye: 561 nm (Ex)、LP 650 nm (Em)
- Lyso Dye: 488 nm (Ex)、502-554 nm (Em)
- MitoBright Deep Red(※): 640 nm (Ex)、656-700 nm (Em)
※ MitoBright Deep Redは現在販売しておりません。
滞留性を高めた改良品 MitoBright LT Deep Red (製品コード:MT12)をご参照ください。
蛍光特性
Mtphagy Dye の励起、蛍光スペクトル
![]() |
λex:530 nm <推奨フィルター> |
Mtphagy Dye は特許取得済の化合物です。
よくある質問/参考文献
MT02: Mtphagy Dye
Revised Nov., 27, 2024