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はじめに

鉄は、生体内で最も多く存在する遷移金属元素であり、様々な生理活性を示すことが報告されています。近年、タ ンパク非結合型の鉄イオン ( 自由鉄 ) としての存在が注目されており、その高い反応性は細胞損傷や細胞死にも関与 していることが示唆されています。自由鉄は安定な化学種である鉄 (II) イオン及び鉄 (III) イオンとして存在しますが、 生細胞内において、細胞内還元的環境、水溶性、トランスポーターの存在等を考慮すると鉄 (III) イオンよりも鉄 (II) イオンの挙動を知ることが重要であると考えられています。 Mito-FerroGreen は、FeS クラスターやヘム合成の場として知られるミトコンドリア内の鉄 (II) イオンと選択的に反 応し強い蛍光 (λex : 505 nm, λem : 535 nm) を発する試薬であり、細胞内鉄 (II) イオンのライブセルイメージングに 利用することが可能です。


図1 Mito-FerroGreen によるミトコンドリア鉄 (II) の検出


図2 Mito-FerroGreen の励起、蛍光スペクトル


図 3 Mito-FerroGreen の金属イオン選択性
*Bpy; 2,2'-Bipyridyl

内容

Mito-FerroGreen 50 µg x 2

保存条件

  • 遮光、-20oCにて保存してください。

必要なもの

  • Dimethyl sulfoxide (DMSO) または Ethanol
  • HBSS
  • 無血清培地
  • マイクロピペット

溶液調製

5 µmol/L Mito-FerroGreen working solution の調製方法

Mito-FerroGreen 50 µg を含むマイクロチューブに 53 µL の DMSO を加えピペッティングにより溶解し、 1 mmol/L MitoFerro-Green 溶液を調製する。調製した溶液を HBSS で希釈し 5 µmol/L working solution とする。

  • 1 mmol/L Mito-FerroGreen DMSO 溶液及び 5 µmol/L working solution は不安定なため、細胞試料に添加する直前 に調製し、直ちに染色に供して下さい。試薬溶液は分解によりバックグラウンドが上昇するため、余った試薬溶液 は使用しないで下さい。
    尚、DMSO の代わりに Ethanol も使用可能です。この場合、Ethanol 溶液は冷凍で 2 週間の 保存安定性を確認済みです。
  • 希釈に用いる HBSS は無血清培地に変更可能です。( 血清入りの培地はバックグラウンド上昇の原因となるため、使用できません。)

操作

  1. 細胞をディッシュに播種し、37°C、5% CO2 インキュベーター内で培養する。
  2. 培地を取り除き、HBSS または無血清培地 で3 回洗浄する。
  3. 調製した5 μmol/L Mito-FerroGreen working solution を添加し、37°C、5% CO2 インキュベーター内に 30 分間静置する。
  4. 溶液を取り除き、HBSS または無血清培地で3 回洗浄する。
  5. 刺激剤を含む培地を添加し、37°C、5% CO2 インキュベーター内に静置する。
    • 刺激の条件に応じてインキュベート時間を設定して下さい。
  6. 細胞を蛍光顕微鏡で観察する。
    • 5 μmol/L Mito-FerroGreen working solution と刺激剤の添加順序を入れ替えても測定可能です。実験系に応じて添加順序を入れ替えてください。

実験例 1

MergeMito-FerroGreenを用いたミトコンドリアの鉄(II)の検出

  1. μ-スライド 8ウェル(ibidi社製)にHeLa細胞(2.0×104 cells/well)を播種し、37°C、5% CO2 インキュベーター内で一晩培養した。
  2. HBSS 200 μLで3回洗浄し、培地成分を取り除いた。
  3. 調製した5 μmol/L Mito-FerroGreen working solution 200 μL を添加し、37°C、5% CO2 インキュベーター内に 30分間静置した。
  4. 溶液を取り除き、10 mmol/L となるようにHBSS で調製したdeferoxamine mesylate salt (sigma社) 溶液 200 μLを細胞に添加し、37°C、5% CO2 インキュベーター内に 30分間静置した。
  5. 溶液を取り除き、HBSS 200 μLで3回洗浄した後、無血清培地 200 μLを添加した。
  6. 10 mmol/L となるように超純水で硫酸アンモニウム鉄(II)溶液を調製した。
  7. 10 mmol/L 硫酸アンモニウム鉄(II)溶液 2 μL をウェルに添加し(終濃度 100 μmol/L) 、溶液を均一にするため、ウェル内の溶液全量を一度マイクロピペットで吸い上げ、再び同じウェルにゆっくり戻した。
    • 硫酸アンモニウム鉄(II)を添加する際は操作7の様に行って下さい。マイクロチューブなどに予め無血清培地で100 μmol/L 硫酸アンモニウム鉄(II)溶液を調製し細胞に添加する方法では、ボルテックスやピペッティングによる混合操作で沈殿が生じる可能性がございます。
  8. 37°C、5% CO2 インキュベーター内に 1時間静置した後、溶液を取り除き、 HBSS 200 μL で3回洗浄した。
  9. 細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。


図4 Mito-FerroGreenを用いたミトコンドリアの鉄(II)の検出

Ex/Em = 488 nm/ 500-550 nm
A 未処理のHeLa 細胞
B 硫酸アンモニウム鉄(II) 処理のみ
C 硫酸アンモニウム鉄(II) 及び Deferoxamine 処理

実験例 2

ミトコンドリア染色試薬との共染色

  1. μ-スライド 8ウェル(ibidi社製)にHeLa細胞(2.0×104 cells/well)を播種し、37°C、5% CO2 インキュベーター内で一晩培養した。
  2. HBSS 200 μLで3回洗浄し、培地成分を取り除いた。
  3. 終濃度 5 μmol/L Mito-FerroGreen 及び 終濃度 200 nmol/L MitoBright Deep Red (Dojindo, MT08) となるように調製したHBSS溶液 200 μL を添加し、37°C、5% CO2 インキュベーター内に 30分間静置した。
  4. 溶液を取り除き、HBSS 200 μLで3回洗浄した後、無血清培地 200 μLを添加した。
  5. 10 mmol/L となるように超純水で硫酸アンモニウム鉄(II)溶液を調製した。
  6. 10 mmol/L 硫酸アンモニウム鉄(II)溶液 2 μL をウェルに添加し(終濃度 100 μmol/L) 、溶液を均一にするため、ウェル内の溶液全量を一度マイクロピペットで吸い上げ、再び同じウェルに戻した。
    • 硫酸アンモニウム鉄(II)を添加する際は操作6の様に行って下さい。マイクロチューブなどに予め無血清培地で100 μmol/L 硫酸アンモニウム鉄(II)溶液を調製し細胞に添加する方法では、ボルテックスやピペッティングによる混合操作で沈殿が生じる可能性がございます。
  7. 37°C、5% CO2 インキュベーター内に 1時間静置した後、溶液を取り除き、 HBSS 200 μL で3回洗浄した。
  8. 細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。


図5 ミトコンドリア染色試薬との共染色

Mito-FerroGreen (5 μmol/L) Ex/Em = 488 nm/ 500-550 nm
MitoBright Deep Red (200 nmol/L) Ex/Em = 640 nm/ 656-700 nm
A Mito-FerroGreen
B MitoBright Deep Red
C Merge

 

本製品は、岐阜薬科大学薬化学研究室 永澤秀子先生、平山祐先生のご指導の下、製品化しました。 

M489: Mito-FerroGreen
Revised Aug., 22, 2023