はじめに
乳酸は、細胞内の主要な代謝経路の 1 つである解糖系の代謝産物です。乳酸は、筋疲労や高乳酸血症におけるバイオマーカーとして用いられていますが、その他にも、細胞内代謝経路の変化をモニタリングするためのマーカーのひとつとしても利用されています。また、最近の代謝研究では、乳酸が組織やがん細胞における TCA サイクルの
主要な炭素源として大きく寄与しているということが報告されています1)。
Lactate Assay Kit-WST は、解糖系代謝産物である乳酸を定量することができるキットです。WST ホルマザンの発色を測定することで細胞培養液中の乳酸を定量するのに最適化されており、乳酸濃度 0.02 mmol/l から測定することができます。また、96 ウェルマイクロプレートに対応しているため、多検体測定が可能です。
図 1 Lactate Assay Kit-WST の測定原理
キット内容
50 tests | 200 tests | |
Dye Mixture | x 1 | x 1 |
Lactate Standard (10 mmol/l) | 150µl x 1 | 600 µl x 1 |
Enzyme Solution | 12 µl x 1 | 48 µl x 1 |
Assay Buffer | 5.5 ml x 1 | 11 ml x 2 |
Reconstitution Buffer | 550 µl x 1 | 2.2 ml x 1 |
保存条件
0-5℃ で保存して下さい。
必要なもの ( キット以外 )
- プレートリーダー (450 nm の吸光フィルター )
- 96 well マイクロプレート
- インキュベーター (37℃)
- 20-200 µl のマルチチャンネルピペット
- 1000 µl、200 µl、20 µl マイクロピペット
使用上のご注意
- キットの中の試薬類は、室温に戻してからご使用下さい。
- Enzyme Solution は酵素懸濁液です。静置しておくと酵素が沈殿しますので、ピペッティングにより均一な懸濁液にしてご使用下さい。
- 正確な測定値を得るために、1 つの測定試料につき複数 (n=3 以上 ) のウェルをご使用下さい。
- Working solution をサンプルに加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグによる測定誤差を少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用ください。
- 測定試料は、検量線範囲内に入るように希釈したものを数種類調製し、測定に用いて下さい。
- 本キットにはガラス製容器およびアルミ製シールキャップを使用しております。取扱いに際しては、保護手袋を着用いただくなど、ご注意下さい。
- 本品は細胞培養上清中の乳酸の定量に最適化されています。細胞内乳酸濃度を測定する場合、細胞溶解液の調製および Lactate standard solution の調製には 0.1% Triton 水溶液をご使用下さい (使用例は製品 HPに掲載しています )。
溶液調整
Dye Mixture stock solution の調製
Dye Mixture のバイアル瓶に Reconstitution Buffer を全量加えて溶解する。
- Dye Mixture stock solution は Reconstitution Buffer が入っていた瓶に移し、遮光下、冷蔵保存 (0-5℃) して下さい(4 ヶ月間安定 )。
Working solution の調製
- コニカルチューブに Dye Mixture stock solution を加え、Assay Buffer で希釈する。
- 操作 1. で調製した溶液に Enzyme Solution を加える。
- Working solution 調製における各溶液使用量は、表 1 を参照して下さい。
- Working solution は光に不安定であるため、使用直前に調製し、調製後はアルミホイルで覆うなどして遮光して下さい。また、調製後の Working solution は保存できません。
24 well分 | 48 well分 | 96 well分 | |
Dye Mixture stock solution | 250 µl | 500 µl | 1 ml |
Assay Buffer | 2.25 ml | 4.5 ml | 9 ml |
Enzyme Solution | 5 µl | 10 µl | 20 µl |
操作
1. 測定用サンプルの調製
細胞培養上清測定試料を準備する (Sample)。
- 測定試料は、検量線範囲内 (0 ~ 1 mmol/l) に入るように超純水で希釈したものを数種類調製してから測定して下さい。
- 培地に血清を含む場合、バックグラウンドが高くなります。バックグラウンドコントロールとして、使用した血清入り培地のみの測定試料を準備することをお勧めします。
- 測定試料は 1 well あたり 20 µl 必要です。
2. Lactate standard solution の調製
10 mmol/l Lactate Standard 50 µl を超純水 450 µl で希釈し、1 mmol/l Lactate standard solution を調製する。さらに順次 2 倍希釈していき、標準液 (1, 0.5, 0.25, 0.125, 0.0625, 0.0313, 0.0157, 0 mmol/l) とする ( 図 2 参照 )。
- 細胞溶解溶液中 Lactate 濃度を測定する場合、Lactate standard solution の調製は、超純水の代わりに、0.1% Triton 水溶液をご使用下さい。
図 2 Lactate standard solution の調製方法
3. 測定
- Lactate standard solution および Sample を 20 µl ずつ、各ウェルに入れる ( 図 3 参照 )。
- 正確な測定値を得るために、1 つの測定試料につき複数(n=3 以上 ) のウェルをご使用下さい。
- Working solution 80 µl を各ウェルに入れる。
- Working solution を加えると直ちに発色が始まります。
各ウェル間のタイムラグを少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
- Working solution を加えると直ちに発色が始まります。
- 37℃ で 30 分間インキュベートする。
- インキュベートする際は、溶液の揮発を防ぐため、マイクロプレート用シール等をご使用下さい。
- プレートリーダーを用いて 450 nm の吸光度を測定する。
- 測定試料 (Sample) 中の Lactate 濃度を検量線より求める。
- これにより求められた値は、調製した測定試料溶液中の Lactate濃度です。希釈前の試料中に含まれる Lactate 濃度は、得られた測定値と試料の希釈倍率より算出して下さい。
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1 2 3 4 5 6 A 0 mmol/l Lactate Sample 1 B 0.0157 mmol/l Lactate Sample 2 C 0.0313 mmol/l Lactate Sample 3 D 0.0625 mmol/l Lactate Sample 4 E 0.125 mmol/l Lactate Sample 5 F 0.25 mmol/l Lactate Sample 6 G 0.5 mmol/l Lactate Sample 7 H 1 mmol/l Lactate Sample 8 図 3 Lactate standard solution とサンプルのプレートレイアウト例 (n=3)
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図 4 Lactate 検量線の例
実験例
2-Deoxy-D-glucose による解糖系阻害評価
- HeLa 細胞 (1×104 cells/well、10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycin を含む MEM 培地 ) を 96 wellプレートに播種し、37℃、5% CO2 インキュベーターで一晩培養した。
- 培地を吸引除去し、培地で目的の濃度に調製した 2-Deoxy-D-glucose 溶液 100 µl を加えた。
- 37℃、5% CO2 インキュベーターで一晩培養した。
- 1.5 ml マイクロチューブに細胞培養上清を 20 µl 取り、超純水で 8 倍希釈したものを調製した。
- Lactate standard solution を調製し、標準液を調製した (Lactate standard solution の調製参照 )。
- 調製した測定試料および Lactate standard solution を 20 µl ずつ、96 well プレートに入れた。
- 調製した Working solution 80 µl を各ウェルに加えた。
- 37℃ で 30 分間インキュベートした。
- プレートリーダーを用いて 450 nm の吸光度を測定し、測定試料中 Lactate 濃度を検量線より求めた。
図 5 2-Deoxy-D-glucose による解糖系阻害評価
解糖系阻害剤である 2-Deoxy-D-glucose 濃度に依存して、Lactate 濃度が減少することを確認した。
参考文献
- S.Hui, et al., Nature, 2017, 551, 115.
よくある質問/参考文献
L256: Lactate Assay Kit-WST
Revised May., 24, 2023