はじめに
グルタチオン(γ-L-glutamyl-L-cysteinylglycine) は生体内に存在するトリペプチドで、glutathione peroxidase、glutathione S-transferase およびthiol transferase 等の酵素基質として抗酸化や薬物代謝などに関与しています。グルタチオンは通常、生体内で還元型(GSH)として存在していますが、酸化ストレスなどの刺激によって還元型(GSH)から酸化型(GSSG) に変換されるため、GSH とGSSG の比率が酸化ストレスの指標として注目されています。
本キットには、GSH のマスキング剤が含まれており、このマスキング剤をサンプルに添加することで、サンプル中のGSH を隠蔽することができます。
その後、酵素リサイクリング法を用いたDTNB (5,5’-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)) の発色 (λmax = 412 nm) を測定することでGSSG のみを定量でき、別途測定した総グルタチオン量からGSSG 量を差し引くことで、GSH 量を求めることが可能です。本キットでの総グルタチオンの測定範囲は0.5 ~ 50 μmol/l、GSSG の測定範囲は0.5 ~25 μmol/l です。
図1.GSSG/GSH Quantification Kit の測定原理
キット内容
Enzyme solution | 50 μl ×1 |
Buffer solution | 60 ml ×1 |
Standard GSH | ×1 |
Masking reagent | 20 μl ×1 |
Coenzyme | ×2 |
Substrate (DTNB) | ×4 |
Standard GSSG | ×1 |
保存条件
本キットは 0 ~ 5℃で保存し、充分室温に戻してからご使用ください。
必要なもの ( キット以外)
機器
-
- プレートリーダー(405 nm あるいは 415 nm フィルター)
- 20 μl と200 μl の可変式マルチチャンネルピペット
- 15 ml コニカルチューブ
-
- 96 ウェルプレート
- インキュベーター
- ディスポーザブルシリンジ
試薬
-
- 5- スルホサリチル酸(SSA)
-
- エタノール
- 本キットには5- スルホサリチル酸は含まれておりませんのでご注意下さい。
使用上の注意
- キットの中の試薬類は、充分室温に戻してから使用してください。
- Masking reagent には催涙性、刺激臭があります。開封ならびに溶液調製はドラフト内で行ってください。
- 正確な測定値を得るために、1 つの測定試料につき複数(n=3 以上)のウェルを使用してください。
- Enzyme/coenzyme working solution を加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグを少なくするため、マルチチャンネルピペットを使用してください。
- 測定試料は、検量線範囲内に入るように数段階で希釈したものを調製してから測定してください。
- 本キットにはガラス製容器及びアルミキャップを使用しております。保護手袋を着用するなど取扱いにはご注意ください。
- 調製した working solution は保存できませんのでご注意ください。
測定試料 前処理例
組織 (100 mg)
- 5% SSA 水溶液 0.5 ~ 1 ml 中で組織をホモジナイズする。
- 8,000 x g で10 分間遠心する。
- 上清を新しいチューブに移す。
- 純水にてSSA 濃度が0.5% になるように希釈したものを測定試料とする。
血漿
- 抗凝固剤を加えた血液( ヘパリン処理済) を、1,000 x g で10 分間4℃にて遠心する。
- 上清を新しいチューブに移し、半量の 5% SSA を加える。
- 8,000 x g で10 分間4°Cにて遠心する。
- 上清を新しいチューブに移し、純水にてSSA 濃度が0.5% になるように希釈したものを測定試料とする。
赤血球
- 抗凝固剤を加えた血液(ヘパリン処理済)を、1,000 x gで10分間4℃にて遠心した後、上清を捨てる。
- 4 倍量の5% SSA 水溶液で溶血する。
- 8,000 x g で10 分間4°Cにて遠心する。
- 上清を新しいチューブに移す。
- 純水にてSSA 濃度が0.5% になるように希釈したものを測定試料とする。
細胞 (1x107 cells)
- 200 x g で10 分間4°Cにて遠心した後、上清を捨てる。
- 300 μl のPBS で洗浄し、再度、200 x g で10 分間4°Cにて遠心した後、上清を捨てる。
- 10 mmol/l のHCl を80 μl 加え、凍結と溶解を2 回繰り返し、細胞膜を破壊する。
- 5% SSA 水溶液を20 μl 加え、8,000 x g で10 分間遠心する。
- 上清を新しいチューブに移し、純水にてSSA 濃度が0.5% になるように希釈したものを測定試料とする。
- 測定試料中のSSA 濃度が1% を超えると測定に影響を与えるため、SSA 濃度は0.5% となるように希釈してください。
溶液調製
200 μmol/l GSH standard solution
Standard GSH のバイアルに0.5% SSA 水溶液 2 ml を加えて溶解する。
- バイアル瓶は減圧になっているので、シリンジで0.5% SSA 水溶液を加えてから開封してください。
- 冷凍保存(-20℃ ) してください。2 ヶ月保存できます。
100 μmol/l GSSG standard solution
Standard GSSG のバイアルに0.5% SSA 水溶液 2 ml を加えて溶解する。
- バイアル瓶は減圧になっているので、シリンジで0.5% SSA 水溶液を加えてから開封してください。
- 冷凍保存(-20℃ ) してください。2 ヶ月保存できます。
Masking solution
エタノール 180 μl を、Masking reagent のバイアルに加え、ピペッティングを行い、混合する。
- Masking reagent は催涙性、刺激臭があるため、開封ならびに溶液調製はドラフト内で行なってください。
- Masking reagent は黄色~赤褐色に着色している場合があります。
- 輸送中の振動等により内容物がチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、よく振り落としてご使用ください。
- Masking solution は冷蔵保存(0-5℃ ) してください。2 ヶ月保存できます。
- 溶解後に冷蔵保存する際は、エタノールが揮発しないようパラフィルムなどを用いて密栓してください。
Substrate working solution
- Substrate(DTNB) のバイアル1 本にBuffer solution 1.2 ml を加えて溶解する。
- 確実に溶解してください。超音波やボルテックスミキサーのご使用をおすすめします。
- 2. に進むと溶液の保存はできません。保存する場合、1. の溶液を冷凍保存(-20℃ ) してください。2 ヶ月保存できます。
- 15 ml コニカルチューブに1) の溶液全量を移して、Buffer solution 2.4 ml を加える(総量: 3.6 ml)。
- 96-well マイクロプレート1 枚分を調製する場合、Substrate を2 本使用してください(総量: 7.2 ml)。
Enzyme/coenzyme working solution
- チューブ内のEnzyme solution を数回ピペッティングした後、20 μl を15 ml コニカルチューブに取り、Buffer solution 4 ml で希釈する。
- チューブ内壁やキャップに酵素溶液が付着していることがありますので、開封前にそれらを振り落としてからご使用ください。希釈後の溶液は手で軽く振り混ぜてからご使用ください( ボルテックスミキサーのご使用はお控えください)。
- 4. に進むと溶液の保存はできません。保存する場合、冷蔵保存(0-5℃ ) してください。2 ヶ月保存できます。
- 新しい15 ml コニカルチューブに1) の溶液 2.4 ml を移す。
- Coenzyme のバイアル1 本に、純水2.4 ml を加えて溶解する。
- バイアル瓶は減圧になっているので、シリンジで純水を加えてから開封してください。
- 溶液で保存する場合、4. には進まず3. の溶液を冷凍保存(-20℃ ) してください。2 ヶ月保存できます。
- 2. の15 ml コニカルチューブに 3. の溶液全量を移して、Buffer solution 2.4 ml を加える(総量: 7.2 ml)。
測定方法
1. 測定用サンプルの調製
- GSSG とGSH の測り分けを行なう場合、測定試料はあらかじめ、同一のものを2 つ(200 μl × 2 本) 準備する。
- GSSG 測定用:測定試料 200 μl をマイクロチューブに入れ、Masking solution を4 μl 加えて、ボルテックスミキサーを用いて混合する[Sample (GSSG)]。
- 総グルタチオン測定用:測定試料 200 μl を準備する[Sample (GSH)]。
- 測定試料中のグルタチオン濃度が分からない場合、測定試料を希釈したものを数種類調製してから測定してください。
2. GSSG standard solution の調製
- 100 μmol/l GSSG standard solution 100 μl と0.5% SSA 水溶液300 μl を混合して25.0 μmol/l のGSSG 溶液を調製する。さらに順次2 倍希釈していき、標準液(25.0, 12.5, 6.25, 3.13, 1.57, 0.78, 0 μmol/l) とする。
- 調製した各濃度のGSSG standard solution 200 μlにMasking solution 4 μl を加えて、ボルテックスミキサーを用いて混合する。
3. GSH standard solution の調製
200 μmol/l GSH standard solution 100 μl と0.5% SSA 水溶液300 μl を混合して50.0 μmol/l のGSH 溶液を調製する。
さらに順次2 倍希釈していき、標準液(50.0, 25.0, 12.5, 6.25, 3.13, 1.57, 0 μmol/l) とする。
4. 測定
- GSSG、GSH standard solution、Sample (GSSG) あるいはSample (GSH) を40 μl ずつ、各ウェルに入れる。
- 正確な測定値を得るために、1 つの測定試料につき複数 (n=3 以上) のウェルを使用してください。
- Buffer solution 60 μl を 各ウェルに入れる。
- 37℃で1 時間インキュベートする。
- インキュベートする際は、サンプルの揮発を防ぐため、マイクロプレート用ウェルキャップ等を用いてください。
- Substrate working solution 60 μl を各ウェルに加える。
- Enzyme/coenzyme working solution 60 μl を各ウェルに加える。
- Enzyme/coenzyme working solution を加えることによって発色反応が開始されます。
ウェル間の反応のタイムラグを抑えるためにマルチチャンネルピペットを使用してください。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 A 0 μmol/l GSSG Sample 2 (GSSG) 0 μmol/l GSH Sample 2 (GSH) B 0.78 μmol/l GSSG Sample 3 (GSSG) 1.57 μmol/l GSH Sample 3 (GSH) C 1.57 μmol/l GSSG Sample 4 (GSSG) 3.13 μmol/l GSH Sample 4 (GSH) D 3.13 μmol/l GSSG Sample 5 (GSSG) 6.25 μmol/l GSH Sample 5 (GSH) E 6.25 μmol/l GSSG Sample 6 (GSSG) 12.5 μmol/l GSH Sample 6 (GSH) F 12.5 μmol/l GSSG Sample 7 (GSSG) 25.0 μmol/l GSH Sample 7 (GSH) G 25.0 μmol/l GSSG Sample 8 (GSSG) 50.0 μmol/l GSH Sample 8 (GSH) H Sample 1 (GSSG) Sample 9 (GSSG) Sample 1 (GSH) Sample 9 (GSH) 図3.Standard solution とサンプルのレイアウト例 (n=3) - Enzyme/coenzyme working solution を加えることによって発色反応が開始されます。
- 37℃で10 分間インキュベートする。
- Kinetic method で測定を行なう場合、マイクロプレートリーダーの測定モードをKinetic とし、吸光度の変化速度( Δ A/min) を求めます。発色開始後10 分間は、吸光度は直線的に上昇するため、グルタチオン濃度はKinetic method( 反応停止無しで、 発色後 5 分間の吸光度を測定)
あるいはPseudo-end point method のどちらでも求めることができます。
- Kinetic method で測定を行なう場合、マイクロプレートリーダーの測定モードをKinetic とし、吸光度の変化速度( Δ A/min) を求めます。発色開始後10 分間は、吸光度は直線的に上昇するため、グルタチオン濃度はKinetic method( 反応停止無しで、 発色後 5 分間の吸光度を測定)
- 405 nm もしくは415 nm のフィルターを使い、マイクロプレートリーダーで各ウェルの吸光度を測定する。
- 測定試料[Sample (GSSG)] 中のGSSG 濃度をGSSG 検量線より求める。
- 測定試料[Sample (GSH)] 中の総グルタチオン(GSH+GSSG) 濃度をGSH 検量線より求める。
図5.GSSG 検量線の例
図6.GSH 検量線の例
なお、測定試料中のグルタチオンの濃度は以下の計算式から求めます。
Pseudo-end point method: グルタチオン (GSH, GSSG) = (O.D.sample - O.D.blank) / 検量線の傾き Kinetic method: グルタチオン (GSH, GSSG) = ( 傾きsample - 傾きblank) / 検量線の傾き
- O.D. blank はGSSG およびGSH が含まれないウェル(図3 の A1 ~ A3 またはA7 ~ A9)の値を用いてください。
- この計算式によって求められた値は、調製した測定試料溶液中のグルタチオンの濃度です。
希釈前の試料中に含まれるグルタチオン濃度は、得られた測定値と試料の希釈倍率より算出してください。
- 求めた総グルタチオン(GSH+GSSG) 濃度とGSSG 濃度より、下式を用いてGSH 濃度を算出する。
GSH 濃度 = 総グルタチオン濃度 - [GSSG 濃度] × 2
妨害物質
アスコルビン酸、β - メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT) のような還元物質やシステイン、またSH基と反応する化合物( マレイミド等) は測定に影響を及ぼします。これらの化合物は前処理等で除くことができませんので、測定試料中に混在させないようご注意下さい。
よくある質問/参考文献
G257: GSSG/GSH Quantification Kit
Revised Jul., 29, 2024