はじめに
近年、体内の抗酸化力低下が様々な疾患の発症や健康障害に関与していることが示唆されており、抗酸化活性を有する食品 (抗酸化食品) への期待が増えています。島村ら1)は安定ラジカルであるDPPH (2,2-Diphenyl-1-picrylhydrazyl) を用いた抗酸化活性評価法が、測定施設間差の少ない方法であることを報告しています。DPPH Antioxidant Assay Kitは上記測定法に準拠した抗酸化活性を簡便に測定できる製品です。本キットでは測定対象の抗酸化活性を抗酸化物質Troloxを基準としたTrolox等価活性 (Trolox-Equivalent Antioxidant Capacity: TEAC) として測定します。本キットに含まれるDPPHおよびTroloxはエタノールに溶かすだけで使用でき、煩雑な秤量操作や吸光度調整が不要です。また、96穴マイクロプレート対応ですので、多検体の測定が可能です。
図1. DPPH Antioxidant Assay Kit測定原理
内容
100 tests | 500 tests | |
DPPH Reagent | x 1 | x 5 |
Trolox Standard | 1 mg x 1 | 1 mg x 5 |
Assay Buffer | 11 ml x 1 | 55 ml x 1 |
保存条件
- 0–5oCで保存してください。
必要なもの (キット以外)
-
- エタノール (99.5%)
- プレートリーダー (517 nm付近の吸収フィルター)
- 96穴 マイクロプレート
- 10 ml メスフラスコ
-
- インキュベーター (25℃)
- マルチチャンネルピペット
- マイクロピペット
- 超音波洗浄機
使用上のご注意
- キット中の試薬は室温に戻してからご使用ください。
- DPPH Reagent及びTrolox Standardは各1本につき100 tests相当量になります。
- 輸送中の振動等により、内容物がアシストチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、ご注意ください。
- 正確な測定値を得るために、一つの測定試料につき複数 (n=3以上) のウェルをご使用ください。
溶液調製
DPPH working solutionの調製
- DPPH Reagent 1本に1 ml程度のエタノールを加え、超音波で60秒処理する。
- 調製した溶液全量を10 mlメスフラスコに移す。
- チューブに再度1 ml程度のエタノールを加え、超音波で60秒処理する。
- 下図例①のようにエタノール溶液に着色が見られる際には、2および3の操作を再度行い、例②のようにチューブ内のエタノール溶液が着色しなくなるまで繰り返す。
- DPPHは溶けづらいため、超音波処理を推奨しています。
- 溶け残りが測定に影響を与える恐れがあります。必ずチューブ内に溶け残りがないことを確認してください。
- 超音波処理の際、水面に垂直にして入れるとチューブの底に空気がたまり十分に超音波処理ができず、DPPH溶け残りの原因となります。
下図例④の様にチューブを水面に対して斜めから入れ空気を抜きながら超音波処理を行ってください。
- 溶液を移した10 ml メスフラスコにエタノールを加え10 mlに定容する。
- DPPH working solutionは保存できません。その日のうちにお使い下さい。
Trolox Standard solutionの調製
- Trolox Standard 1本に1 ml程度のエタノールを加えボルテックスや超音波を用いて内容物を完全に溶解させる。
- 1で調製した溶液全量を10 ml メスフラスコに移し (適宜洗いこみを行う) 、エタノールで10 mlに定容する。
- 2で調製した100 μg/ml Trolox Standard solutionを80, 60, 40, 0 μg/mlの濃度になるようにエタノールで希釈する。
- Trolox Standard solutionは保存できません。その日のうちにお使い下さい。
図2. Trolox Standard solution 希釈調製例
予備実験
- 本キットではTroloxおよびサンプルがDPPHラジカルを50%消去する濃度 (50%阻害濃度: IC50) を基にTEACを算出します。
- 測定サンプルのIC50を算出する際には必ずプロットした回帰線 (X軸: サンプル濃度、Y軸: ラジカル消去率) に直線性がある最適濃度域で行う必要があります。
- はじめて測定されるサンプルの場合は、IC50を算出するための最適濃度域予測のため必ず以下をご検討下さい。
- 表1. 各ウェルに加える溶液
図3. プレートレイアウト例 (n=3の場合)
- Blank 1: サンプルの全発色、Blank 2: サンプル溶媒ブランク
- サンプルに着色が見られる場合には別途サンプルブランクを希釈ごとにご準備ください。
サンプルブランク組成: サンプル 20 μl + Assay Buffer 80 μl + エタノール 100 μl
最適濃度域の確認
- 溶液添加の順番は本測定に最適化されています。マニュアルに沿った順番で溶液を添加し測定してください。
- サンプルの最高濃度を基準に10倍希釈を繰り返し、4種類以上の広い濃度域でサンプルを準備する。
- 調製したサンプルを各ウェルに20 μlずつ入れる。
- Blank 1およびBlank 2のウェルにサンプルの抽出・希釈に使用した溶媒を20 μlずつ入れる。
- 揮発による影響を避けるため、2および3の操作後は速やかに4の操作に進んでください。
- 各ウェルにAssay Buffer 80 μlを加える。
- Blank 2のウェルにエタノール100 μlを加え、ピペッティングでよく混ぜる。
- サンプルおよびBlank 1のウェルにDPPH working solution 100 μlを加え、ピペッティングでよく混ぜる。
- DPPH working solutionを加えるとすぐに反応が進行します。ウェル間のタイムラグをできるだけ少なくするためにマルチチャンネルピペットの使用を推奨しています。
- DPPH working solutionは後述する抗酸化活性測定でも使用します。マルチチャネルピペット用のリザーバーを使用される際には、揮発による濃度変化を避けるため必要量のみDPPH working solutionを入れてください。
- プレートを25oC、暗所で30分間インキュベートする。
- プレートリーダーで517 nm付近の吸光度を測定する。
- 517 nmの吸光度を測定できない場合は、500 nm以上のできるだけ近い波長で測定してください。
- 測定サンプルのラジカル消去率を下記の計算式により求める。
サンプルのラジカル消去率(%) = (ACS–AS)/ACS x 100 ACS: Blank 1–Blank 2
AS: 測定サンプルの吸光度–Blank 2もしくはサンプルブランク (着色が見られる場合) - 横軸に測定サンプル濃度、縦軸にラジカル消去率をプロットし回帰線を算出する。
- 求めた回帰線より測定サンプルのラジカル消去率50%を含む最適濃度域を確認する。
実験例
抗酸化物質の最適濃度域の確認およびIC50の算出
抗酸化物質である没食子酸の最適濃度域の確認を行った。
- まず、最高濃度1000 μg/mlを基準とし、0.001–1000 μg/mlの濃度域で回帰線を算出した。
- 得られた回帰線より10–100 μg/mlの濃度域がラジカル消去率50%を含むことが確認できたので、再度100 μg/mlを基準として5–100 μg/mlの濃度域で回帰線を算出し、IC50を求めた。
図4. 没食子酸の検討例 | |
希釈系列① : | 0.001, 0.01, 0.1, 1.0, 10, 100, 1000 μg/ml |
希釈系列② : | 5, 10, 20, 100 μg/ml |
抗酸化活性測定
- 表2. 各ウェルに加える溶液
図5. プレートレイアウト例(n=3の場合)
- Blank 1 : サンプルの全発色、Blank 2 : サンプル溶媒ブランク、Blank 3 : エタノールブランク
- サンプルに着色が見られる場合には別途サンプルブランクを希釈ごとにご準備ください。
サンプルブランク組成:サンプル 20 μl + Assay Buffer 80 μl + エタノール 100 μl
(1) Troloxおよび測定サンプルのラジカル消去率の測定
- 溶液添加の順番は本測定に最適化されています。マニュアルに沿った順番で溶液を添加し測定してください。
- 調製した0, 40, 60, 80 μg/ml Trolox Standard solutionを各ウェルに20 μlずつ入れる。
- サンプル測定用の各ウェルに予備実験で得られた最適濃度域を基に4種類以上の異なる濃度に希釈したサンプル溶液を20 μlずつ入れる。
- Blank 3にエタノール20 μlおよびBlank 1, Blank 2にサンプルの抽出・希釈に使用した溶媒を20 μlずつ入れる。
- 揮発による影響を避けるため、2および3の操作後は速やかに4の操作に進んでください。
- 各ウェルにAssay Buffer 80 μlを加える。
- Blank 2および Blank 3のウェルにエタノール100 μlを加え、ピペッティングでよく混ぜる。
- Trolox, サンプルを入れたウェルおよびBlank 1のウェルにDPPH working solution 100 μlを加え、ピペッティングでよく混ぜる。
- DPPH working solutionを加えるとすぐに反応が進行します。ウェル間のタイムラグをできるだけ少なくするためにマルチチャンネルピペットの使用を推奨しています。
- プレートを25oC、暗所で30分間インキュベートする。
- プレートリーダーで517 nm付近の吸光度を測定する。
- 517 nmの吸光度を測定できない場合は、500 nm以上のできるだけ近い波長で測定してください。
- Troloxおよび測定サンプルのラジカル消去率を下記の計算式により求める。
Troloxのラジカル消去率 (%) = (AC – AR) / AC x 100 AC: 0 μg/ml Std.の吸光度 – Blank 3
AR: 80–40 μg/ml Std.の吸光度 – Blank 3サンプルのラジカル消去率 (%) = (ACS – AS) / ACS x 100 ACS: Blank 1 – Blank 2
AS: 測定サンプルの吸光度 – Blank 2 もしくはサンプルブランク (着色が見られる場合) - 横軸にそれぞれTrolox濃度および測定サンプル濃度、縦軸にラジカル消去率をプロットし回帰線を算出する。
- 求めた回帰線よりTroloxおよび測定サンプルのIC50を求める。
図6. Trolox処理によるDPPH吸光度変化
図7. Trolox処理によるラジカル消去率変化
(2) TEACの算出
1. 試料のTroloxを基準とした抗酸化活性: TEACを次式より求める。
TEAC = TroloxのIC50 / サンプルのIC50
参考文献
- T. Shimamura et al., Anal. Sci., 2014, 30, 717–721.
本製品は、高知大学農林海洋科学部 島村智子先生のご指導の下、製品化しました。
よくある質問/参考文献
D678: DPPH Antioxidant Assay Kit
Revised Apr., 28, 2023