はじめに
- Cellstain®- Double Staining Kit(セルステイン 細胞二重染色キット)は、生細胞染色用蛍光色素Calcein-AMと死細胞染色用蛍光色素 PI (Propidium Iodide) を組み合わせたもので、生細胞及び死細胞を同時に染色することができる。
Calcein-AM は、蛍光色素Calcein の四つのカルボキシル基をアセトキシメチル(AM) 化して脂溶性を高め細胞膜透過性としたものである。それ自体蛍光を示さないが、生細胞の細胞膜を浸透して細胞内に入ると、細胞内各種エステラ-ゼにより加水分解され黄緑色の強い蛍光を示すようになる。一方、PI は核酸染色色素の一つで、死細胞内に入り込み、細胞内のDNA の二重らせん構造にインターカーレートすることにより特有の強い赤色蛍光を示す。
この作用の異なる二つの色素を用いることにより、生細胞は黄緑色に、死細胞は赤色に染め分けることができる。蛍光顕微鏡下の細胞観察はもちろん、フロ-サイトメトリ-、あるいはプレートリーダーを用いた細胞数の計測への応用が可能である。
キット内容
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A 液: Calcein-AM stock solution (1 mmol/l) Calcein-AM in DMSO 50 μl x 4 vials
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B 液: PI stock solution (1.5 mmol/l) PI in H2O 300 μl x 1 vial
保存条件
冷凍にて保存してください。
蛍光特性
Calcein-AM : | λex=490 nm , λem=515 nm |
PI : | λex=530 nm , λem=580 nm |
プロトコル
【蛍光顕微鏡を使用した細胞形態観察】
以下に、HeLa 細胞を使用した場合の細胞染色の例を示すが、染色条件は、細胞の種類、濃度などの観察条件によって変わるので注意のこと。条件に応じて、細胞の固定や試薬濃度調製など最適条件を検討する必要がある。
染色溶液の調製
A 液及びB 液を室温に戻す。
5 ml のPBS(-) 溶液にA 液10 μl、B 液15 μl を入れる。これを染色溶液とする。このとき、Calcein-AM は2 μmol/l、PI は4 μmol/l の濃度となる。
細胞染色
- HeLa 細胞などの付着細胞は、トリプシン-EDTA などで剥がし、細胞の懸濁液を用意する。
- 細胞懸濁液を遠心分離する(1,000 rpm, 3 min)。
- 上清を除きPBS(−) を添加する(この時、細胞数が105 から106 cells/ml となるよう調製する)。ピペッティングなどで十分分散させる。
- 培養液中の血清などに含まれるエステラーゼによりCalcein-AM が加水分解し、バックグラウンドが上昇するので2., 3. の操作を繰り返し行い、洗浄を十分行う。
- マイクロチューブに細胞懸濁液を200 μl 入れ、さらに色素溶液を100 μl 入れる。37℃で15 min インキュベートする。
- カバーグラス上に5. の溶液を適宜乗せ、上からもう一枚のカバーグラスを重ね染色溶液を挟み込む。
- 蛍光顕微鏡にセットし、まず490±10 nm のフィルターで励起して観察すると黄緑色に染色された生細胞が観察される。また、同時に赤色に染色した死細胞も観察することが出来る。さらに、545 nm のフィルターで励起することにより赤色に染色した死細胞のみを蛍光観察することができる。
色素の最適濃度
使用するCalcein-AM 及びPI の最適濃度は、細胞の種類に大きく依存しているので、使用する細胞毎に最適色素濃度を求める必要がある。以下のようにして、それぞれの細胞毎の最適濃度を求めることを薦める。
- 目的とする細胞について、0.1% サポニン、あるいは0.1 ~ 0.5% のジギトニンで10 分間処理するか、70% エタノールで30 分間処理することにより死滅させる。0.1 ~ 10 μmol/l のPI 溶液にて染色し、細胞質を染めることなく核のみを赤色に染色する濃度域を探し出す。
- 同様の死細胞を使用し、0.1 ~ 10 μmol/l のCalcein-AM 溶液にて染色し、死細胞の細胞質を染色しない濃度域を探し出す。更にその濃度域で生細胞が十分染色することを、生細胞を使用して確認する。もし、染色が十分でなければ、濃度を高くして検討する。
注意事項
- 本キットには溶液の入ったマイクロチューブのコンポーネントが含まれています。チューブ内壁やキャップに溶液が付着していることがありますので、開封前に振り落としてご使用ください。
- Calcein-AM は湿気により加水分解する恐れがあるので、使用後はキャップをしっかり閉じ、水分の吸収に注意してください。
- 調製した染色溶液はその日のうちに使用してください。Calcein-AM が徐々に加水分解するため、バックグラウンドが上昇し観察しにくいことがあります。
- PI は発癌性の疑いがあるので下記の点を参考にして取り扱いには十分注意してください。
- 取り扱い時には手袋・保護眼鏡・マスク等を着用し、接触および吸引しないよう注意してください。
- 万一、皮膚に接触した場合は、直ちに大量の水で洗い流してください。
- 処理方法
使用した器具の洗浄液などの廃液は、各機関独自の取り扱いガイドラインに従い処理してください。あるいは下記処理方法を参考にして分解後廃棄してください。
・UV 照射や日光にさらし分解する。
・次亜塩素酸ナトリウムにより酸化分解後、中和処理する。
参考文献
- L. S. D. Clerck, C. H. Bridts, A. M. Mertens, M. M. Moens and W. J. Stevens, "Use of Fluorescent Dyes in the Determination of Adherence of Human Leucocytes to Endothelial Cells and the Effects of Fluorochromes on Cellular Function", J. Immunol. Methods, 1994, 172, 115.
- E. S. Kaneshiro, M. A. Wyder, Y.-P. Wu and M. T. Cushion, "Reliability of Calcein Acetoxy Methyl Ester and Ethidium Homodimer or Propidium Iodide for Viability Assessment of Microbes", J. Microbiol. Methods, 1993, 17(1), 1.
- N. G. Papadopoulos, G. V. Z. Dedoussis, G. Spanakos, A. D. Gritzapis, C. N. Baxevanis and M. Papamichail, "An Improved Fluorescence Assay for the Determination of Lymphocyte-Mediated Cytotoxicity Using Flow Cytometry", J. Immunol. Methods, 1994, 177, 101.
よくある質問/参考文献
CS01: -Cellstain®- Double Staining Kit
Revised Dec., 11, 2023