はじめに
バイオフィルムは、微生物とその代謝物である細胞外多糖から構成される集合体で、あらゆる環境に存在しています。医療器具内の細菌汚染やう蝕・歯周病の感染症はバイオフィルムが要因とされており、様々な分野でバイオフィルムの関与が指摘されています。バイオフィルムの中へは抗生物質等が浸透しにくく、バイオフィルムに生息する微生物に対する薬剤効果が低減するため、バイオフィルムによる汚染は深刻な問題となっています。そのためバイオフィルム形成阻害能を有する薬剤や食品成分の探索が注目を集めています。
Biofilm Viability Assay Kitはバイオフィルム内の生菌の代謝活性を測定することで、バイオフィルム内微生物に対する薬剤効果を確認するキットです。エネルギー代謝活動に関与する補酵素であるNADH(NADPH)はmediatorを介してWSTを有色のformazanへと還元します。この還元能を利用することで微生物の代謝活性を検出します。蓋に固定されたペグにバイオフィルムを形成させるため、洗浄・発色操作によりバイオフィルムが剥がれることがなく、多検体を簡便に測定することが可能です。
図1 Biofilm Viability Assay Kiyの測定原理
キット内容
96 tests | |
WST Solution | 1 ml1 x 1 |
Electron Mediator Reagent | 0.12 ml x 1 |
96-peg Lid | x 1 |
96-well Plate | x 10 |
保存条件
0–5 ℃で保存してください。
必要なもの (キット以外)
- プレートリーダー(450 nmの吸光フィルター)
- インキュベーター(37 ℃)
- 20–200 μlのマルチチャンネルピペット
- 100–1000 μl、20–200 μlマイクロピペット
- コニカルチューブ
- 生理食塩水
- 安全キャビネット
使用上のご注意
- キットの中の試薬は、室温に戻してからご使用ください。
- キットには滅菌済みの96-well Plateが10枚添付されています。開封後は使用時まで滅菌状態を保ち、各工程 で新しい96-well Plateをご使用ください。
- 還元剤が存在するとWSTが還元されて発色し、バックグラウンドが上昇することがあります。
- 還元能のある薬剤を用いる場合は、薬剤自身による発色の有無を確認してください。
- 気泡は測定値のバラツキの原因となりますので、ご注意ください。
- バイオフィルム形成のための培地や培養時間および発色に要する時間は微生物種や代謝活性により異なります (表1参照)。
- 菌種によっては安全キャビネット内でご使用ください。
操作
バイオフィルム薬剤感受性試験
-
1. 96-well Plate①の各ウェルに菌懸濁液180 μlを入れ、96-peg Lidを被せてインキュベーター内で37℃で培養する(ペグ上にバイオフィルムが形成される)。
- バイオフィルム形成用培地、インキュベート時間は微生物種に依存します。バイオフィルム形成条件はB601 Biofilm Formation Assay Kitにてご確認ください
-
2. 96-well Plate②、96-well Plate③の各ウェルに滅菌 生理食塩水200 μlを、96-well Plate④の各ウェルに被験物質を含む培地 200 μlを入れる。
- 被検物質調製用培地は微生物種に依存します。
3. 96-well Plate②、96-well Plate③に手順(1)の96-peg Lidを順次浸して洗浄する※。続けて96-well Plate④に 96-peg Lidを被せてインキュベーター内で37℃で培養する。
- 洗浄の際は、96-peg Lidを緩やかに生理食塩水に浸し、 激しい振とうは避けてください。
-
4. 滅菌コニカルチューブ内でWST solution 990 μlと Electron mediator reagent 110 μlを混合し、Mueller- Hinton broth(MHB)培地を20.9 ml加えて、発色試薬とする。
5. 96-well Plate⑤、96-well Plate⑥の各ウェルに滅菌生 理食塩水200 μlを、96-well Plate⑦の各ウェルに手順(4) で調製した発色試薬200 μlを入れる。
6. 96-well Plate⑤、96-well Plate⑥に手順(3)の96- peg Lidを順次浸して洗浄する※1。続けて96-well Plate⑦に 96-peg Lidを被せてインキュベーター内で37℃で培養 する※2。
- 洗浄の際は、96-peg Lidを緩やかに生理食塩水に浸し、激しい 振とうは避けてください。
- 発色に要する時間は、微生物種や被検物質により異なります。
- 発色試薬の菌汚染にご注意ください。
-
7.96-peg Lidを取り外し、マイクロプレートリーダーで 450 nmの吸光度を測定する。
実験例
Minocyclineによるバイオフィルム薬剤感受性試験実験例:Staphylococcus aureus
- 培養した菌懸濁液をMHB培地で約107 CFU/mlとなるように希釈し播種用菌液とした。
- 96-well Plate①の各ウェルに播種用菌液180 μlを入れた。96-peg Lidを被せ、37℃で24時間インキュベートした。
- 96-well Plate②の各ウェルにMHB培地180 μlを入れた。手順(2)の96-peg Lidを被せ、37℃で72時間インキュベートした。
- 96-well Plate③、96-well Plate④の各ウェルに滅菌生理食塩水200 μlを入れた。MHB培地で1000 μg/ml Minocycline (被検物質)を調製し、フィルター滅菌濾過した。96-well Plate⑤上でMHB培地と1000 μg/ml Minocycline を用いてMinocyclineの 2 倍希釈系列(各ウェルに200 μl)を調製した。(1000, 500, 250, 125, 62.5, 31.2, 15.6, 7.8, 3.9, 1.95, 0.98, 0 μg/ml)
- 手順 3 の96-peg Lidを96-well Plate③、96-well Plate④に順次浸して、2回洗浄した。続けて96-well Plate⑤に96-peg Lidを被せ、37℃で24時間インキュベートした。
- 滅菌コニカルチューブ内でWST solution 990 μlとElectron mediator reagent 110 μlを混合し、MHB 培地を20.9 ml加えて、発色試薬とした。
- 96-well Plate⑥、96-well Plate⑦の各ウェルに滅菌生理食塩水200 μlを入れた。96-well Plate⑧の各ウェルに発色試薬200 μlを入れた。
- 手順 5 の96-peg Lidを96-well Plate⑥、96-well Plate⑦に順次浸して、2回洗浄した。続けて96-well Plate⑧に96-peg Lidを被せ、37℃で24時間インキュベートした。
- 96-peg Lidを取り外し、マイクロプレートリーダーを用い2–24時間インキュベート時の450 nmの吸光度を測定した。
- ※発色試薬のみの吸光度を測定し、ブランクとして差し引いた。
図2 S. aureusバイオフィルム薬剤効果
-
MinocyclineのS. aureusバイオフィルムに対するMBEC(最小バイオフィルム撲滅濃度)が約1000 μg/mlであることが確認できた。
菌種 | 菌希釈培地 | 接種菌濃度 [CFU/ml] |
培養時間 [h] |
被検物質希釈用培地 | 培養雰囲気 |
Pseudomonas aeruginosa | Brain heart infusion broth | 106 | 24 | MHB | 好気条件下 |
Escherichia coil | Brain heart infusion broth | 107 | 24+72 | MHB | 好気条件下 |
Staphylococcu mutans | TSB+2%Sucrose | 107 | 24+72 | TSB+2%Sucrose | 嫌気条件下 |
Porphyromonas gingivalis | Enriched BHI | 107 | 24+72 | Enriched BHI | 嫌気条件下 |
Enriched BHI:hemin 5 μg/ml、 menadione 0.5 μg/mlを含むenriched BHI broth(3.7% brain heart infusion、0.5% yeast extract、0.05% cysteine)
図3 S. mutansバイオフィルム薬剤効果
-
4-Isopropyl-3-methylphenol の S. mutans バイオ フィルムに対する MBEC(最小バイオフィルム 撲滅濃度)が約 250 μg/ml であることが確認で きた。
参考文献
- T. Tsukatani, et al., J. Microbiol. Biotech. Food Sci., 2016, 6, 677–680
本キットは福岡県工業技術センター生物食品研究所との共同開発品です。
よくある質問/参考文献
B603: Biofilm Viability Assay Kit
Revised Jul., 23, 2024