はじめに
アンジオテンシン変換酵素 (ACE) は、血圧調節メカニズムの一つであるレニン-アンジオテンシン系においてアンジオテンシンⅠから昇圧作用を有するアンジオテンシンⅡを生成します。また同時に降圧ペプチドであるブラジキニンを分解するなど、血圧上昇に大きく関与している酵素です。近年、高血圧予防を目的とした数多くの機能食品(特定保健用食品)が販売されるなど、ACE 阻害作用を有する食品成分が注目を集めています。
従来、ACE 阻害活性は合成基質Hippuryl-His-Leuから切り出されてくる馬尿酸を酢酸エチルで溶媒抽出後、濃縮乾固し、再溶解して228 nmの吸光度を測定することで算出されます。しかし、酢酸エチルのような有害な有機溶媒を用いることと、操作が煩雑であり測定誤差が生じやすい方法であるため改良が望まれていました。
ACE Kit - WSTは3-Hydroxybutyryl-Gly-Gly-Gly(3HB-GGG) から切り出されてくる3-Hydroxybutyric acid(3HB)を酵素法により検出します。96穴マイクロプレート対応ですので、一度に多検体の測定が可能です。また、有害な有機溶媒は使用しませんので、安全で迅速・簡便であり再現性の高い測定方法です。
図1 ACE Kit - WST の測定原理
キット内容
50 tests | 100 tests | |
Substrate buffer | 1 ml × 1 | 1 ml × 2 |
Enzyme A | × 1 | × 2 |
Enzyme B | × 1 | × 2 |
Enzyme C | × 1 | × 2 |
Coenzyme | × 1 | × 2 |
Indicator solution | 5 ml × 1 | 5 ml × 2 |
保存条件
0 ~ 5 ℃で保存してください。本キットは未開封で 6 ヶ月間は安定です。
必要なもの ( キット以外 )
- プレートリーダー (450 nm フィルター )
- 96 穴マイクロプレート
- 2-20 μl、20-200 μl、100-1000 μl のマイクロピペット
- インキュベーター (37 ℃ )
- マルチチャンネルピペット
- ディスポーザブルシリンジ (1 ml)
使用上の注意
- 本キットにはガラス製容器を使用しております。保護手袋をご着用頂くなど取扱いにはご注意ください。
- 正確な測定値を得るために、1 つのサンプルにつき複数(n=3 以上 ) のウェルをお使いください。
- サンプル物質が水溶性でない場合、DMSO またはエタノールに溶解してストック溶液を調製し、その後バッファーなどで希釈してください。その場合、DMSO またはエタノールは 1% 以下になるようにしてください。
- クエン酸や酢酸を含むサンプルなど酸性が強い場合、Substrate Buffer 中の基質が沈殿し、発色しなくなることがあります。中和してpH 5以上で測定してください。
- アスコルビン酸を含むサンプルは、Indicator solution を還元し、正誤差を与える場合があります。アスコルビン酸は 0.01% 以下で測定してください。
- 不溶性の固体物質を含むサンプルは遠沈または濾過して測定してください。 固体物質は吸光度測定に影響します。
溶液調製
Enzyme working solution
Enzyme B 1本に純水 2 ml を加えて Enzyme B 溶液を調製する。次に Enzyme A 1 本に、Enzyme B 溶液 1.5 ml を加えて Enzyme working solution を調製する。
- Enzyme A, B は凍結乾燥品のため瓶内部が減圧になっています。減圧のまま開封すると中身が飛散する 恐れがありますので、必ず純水または Enzyme B 溶液をシリンジで注入し、溶解後開封してください。
- 必ず Enzyme B を先に純水 2 ml で溶解し、その 1.5 ml を用いて Enzyme A を溶解してください。 順番を間違えると発色が低くなります。
- Enzyme working solution は、-20 ℃の冷凍保存で 2 週間、冷蔵保存で 3 日間使用できます。
Indicator working solution
Enzyme C および Coenzyme 各 1 本に純水 3 ml を加えて Enzyme C 溶液および Coenzyme 溶液を調製する。 Indicator solution に、Enzyme C 溶液と Coenzyme 溶液を 2.8 ml ずつ加えて Indicator working solution を 調製する。
- Enzyme C および Coenzyme は凍結乾燥品のため瓶内部が減圧になっています。減圧のまま開封すると 中身が飛散する恐れがありますので、必ず純水をシリンジで注入し、溶解後開封してください。
- Indicator working solution は、-20 ℃の冷凍保存で 2 週間、冷蔵保存で 3 日間使用できます。
プロトコルの選択
2種類のプロトコルを準備しています。実験系に応じてお選びください。
- Protocol 1 ACE 阻害活性の有無を確認する
- n=3 にて 14 samples(50 tests), 28 samples(100 tests) 測定できます。
操作の詳細は 2 ページを参照。
- Protocol 2 IC50 を測定する
- n=3 にて 2 samples(50 tests), 4 sample(100 tests) 測定できます。操作の詳細は 4 ページを参照。
Protocol 1
ACE 阻害活性の有無を確認する
サンプル溶液調製
1サンプルあたり 100 μl 準備する。
- 100 μl に満たない場合は、純水で希釈してください。
- サンプルが着色している場合は 1 サンプルあたり 150 μl 準備する。
操作
サンプルに着色がない場合
表1および図2参照
- サンプル溶液を sample のウェルへ 20 μl 加える。
- 純水を blank 1 のウェルへ 20 μl, blank 2 のウェルへ 40 μl を加える。
- 各ウェルに Substrate buffer を 20 μl 加える。
- sample 及び blank 1 のウェルに Enzyme working solution を 20 μl 加える。
- Enzyme working solution はウェル壁面に残りやすです。マイクロプレートを軽く叩き、 すべての溶液が混合されたことを確認してください。
- Enzyme working solution を加えるとすぐに 3-Hydroxybutyric acid(3HB) の生成が始まりますので、 ウェル間のタイムラグをできるだけ少なくするためにマルチチャンネルのピペットをお使いください。
- 37 ℃で 60 分間インキュベートする。
- 各ウェルに Indicator working solution を 200 μl 加える。
- 室温で 10 分間インキュベートする。
- プレートリーダーで 450 nm の吸光度を測定する。
-
表 1 各ウェルに必要なサンプル及び試薬の添加量
-
図2 プレートレイアウト例(n=3 の場合)
< ACE 阻害活性の評価>
-
ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %) を下記の計算式により求める。
ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %)=
[(Ablank 1 - Asample) / (Ablank 1 - Ablank 2)] x 100
-
図3 ACE 阻害活性の評価
サンプルに着色がある場合
表 2 および図 4 参照
- サンプル溶液を sample 及び sample blank のウェルへ 20 μl 加える。
- 純水を blank 1 のウェルへ 20 μl, blank 2 のウェルへ 40 μl、sample blank のウェルへ 240 μl 加える。
- Substrate buffer を sample、blank 1 及び 2 のウェルへ 20 μl 加える。
- sample 及び blank 1 のウェルに Enzyme working solution を 20 μl 加える。
- Enzyme working solution はウェル壁面に残りやすいです。マイクロプレートを軽く叩き、 すべての溶液が混合されたことを確認してください。
- Enzyme working solution を加えるとすぐに 3-Hydroxybutyric acid(3HB) の生成が始まりますので、 ウェル間のタイムラグをできるだけ少なくするためにマルチチャンネルのピペットをお使いください。
- 37 ℃で 60 分間インキュベートする。
- Indicator working solution を sample、blank 1 及び 2 のウェルへ 200 μl 加える。
- 室温で 10 分間インキュベートする。
- プレートリーダーで 450 nm の吸光度を測定する。
-
表2 各ウェルに必要なサンプル及び試薬の添加量
-
図 4 プレートレイアウト例(n=3 の場合)
<ACE 阻害活性の評価>
-
ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %) を下記の計算式により求める。
ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %)=
[{Ablank 1 - (Asample - Asample blank)} / (Ablank 1 - Ablank 2)] x 100
-
図 5 ACE 阻害活性の評価
Protocol 2
IC50 を測定する
サンプル溶液調製
サンプル溶液を純水で希釈する。
例) 希釈率:1( 希釈なし ), 1/5, 1/52 , 1/53 , 1/54 , 1/55 , 1/56
![]() 図 6 Sample solution 調製例 |
操作
サンプルに着色がない場合
表 3 および図 7 参照
- 調製したサンプル溶液を sample のウェルへ 20 μl 加える。
- 純水を blank 1 のウェルへ 20 μl, blank 2 のウェルへ 40 μl を加える。
- 各ウェルに Substrate buffer を 20 μl 加える。
- sample 及び blank 1 のウェルに Enzyme working solution を 20 μl 加える。
- Enzyme working solution はウェル壁面に残りやすいです。マイクロプレートを軽く叩き、 すべての溶液が混合されたことを確認してください。
- Enzyme working solution を加えるとすぐに 3-Hydroxybutyric acid(3HB) の生成が始まりますので、 ウェル間のタイムラグをできるだけ少なくするためにマルチチャンネルのピペットをお使いください。
- 37 ℃で 60 分間インキュベートする。
- 各ウェルに Indicator working solution を 200 μl 加える。
- 室温で 10 分間インキュベートする。
- プレートリーダーで 450 nm の吸光度を測定する。
- ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %) を下記の計算式により求める。
ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %)= [(Ablank 1 - Asample) / (Ablank 1 - Ablank 2)] x 100
-
表 3 各ウェルに必要なサンプル及び試薬の添加量
-
図7 プレートレイアウト例(n=3 の場合)
<IC50 の算出方法>
-
- サンプルの濃度に対して、阻害活性値をプロットし阻害曲線を描かせる。
- 阻害率 50% に相当するサンプル濃度を読む。
- 反応時のサンプルの終濃度は、調整時のサンプル濃度の 1/3 であるので、阻害曲線から求めた濃度の 1/3 が、IC50 となる。
-
図 8 阻害曲線
サンプルに着色がある場合
表 4 および図 9 参照
- 調製したサンプル溶液を sample 及び sample blank のウェルへ 20 μl 加える。
- 純水を blank 1 のウェルへ 20 μl, blank 2 のウェルへ 40 μl、sample blank のウェルへ 240 μl 加える。
- Substrate buffer を sample、blank 1 及び 2 のウェルへ 20 μl 加える。
- sample 及び blank 1 のウェルに Enzyme working solution を 20 μl 加える。
- Enzyme working solution はウェル壁面に残りやすです。マイクロプレートを軽く叩き、 すべての溶液が混合されたことを確認してください。
- Enzyme working solution を加えるとすぐに 3-Hydroxybutyric acid(3HB) の生成が始まりますので、 ウェル間のタイムラグをできるだけ少なくするためにマルチチャンネルのピペットをお使いください。
- 37 ℃で 60 分間インキュベートする。
- Indicator working solution を sample、blank 1 及び 2 のウェルへ 200 μl 加える。
- 室温で 10 分間インキュベートする。
- プレートリーダーで 450 nm の吸光度を測定する。
- ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %) を下記の計算式により求める。
ACE 阻害活性値 ( 阻害率 %)= [{Ablank 1 - (Asample - Asample blank)} / (Ablank 1 - Ablank 2)] x 100
-
表4 各ウェルに必要なサンプル及び試薬の添加量
-
図9 プレートレイアウト例(n=3 の場合)
<IC50 の算出方法>
-
- サンプルの濃度に対して、阻害活性値をプロットし阻害曲線を描かせる。
- 阻害率 50% に相当するサンプル濃度を読む。
- 反応時のサンプルの終濃度は、調整時のサンプル濃度の 1/3 であるので、阻害曲線から求めた濃度の 1/3 が、IC50 となる。
-
図10 阻害曲線
参考文献
- Le Hoang Lam, T. Shimamura, K. Sakaguchi, K. Noguchi, M. Ishiyama, Y. Fujimura and H. Ukeda, Anal. Biochem., 2007, 364, 104.
- Le Hoang Lam, T. Shimamura, S. Manabe, M. Ishiyama and H. Ukeda, Anal. Sci., 2008, 24, 1057.
よくある質問/参考文献
A502: ACE Kit - WST
Revised Dec., 08, 2023