新しいタンパク質分解機構 GOMED
株式会社同仁化学研究所 平川 哲央
ゴルジ体は小胞体から送られてくる様々なタンパク質を修飾し、適切な場所へ輸送するオルガネラであることから細胞の郵便局と呼ばれ、重要な役割を担っている1)。近年、このゴルジ体に関して新しいタンパク質分解機構が発見された。オートファジーと似ているものの、機能面や、関与するタンパク質などが異なることから、この機構は Golgi membrane-associated degradation(GOMED) pathway と名付けられ現在盛んに研究が行われている。本稿ではこの GOMED と、小社試薬を用いた新しい解析法について紹介したい2)。
オートファジーは主にマクロオートファジー、ミクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジーと 3 つに分けられる。その中のマクロオートファジー(以降、オートファジーと呼ぶ)は、隔離膜が出現して伸びていき、不要物が袋状の二重膜(オートファゴソーム)に包まれ、その後リソソームと融合(オートリソソーム)し分解、といった流れをとる。GOMED も同様の機構を辿るが、隔離膜の起源が異なり、オートファジーは小胞体膜、GOMED はゴルジ体膜から隔離膜が形成される。

GOMED の生体内の機能については様々な報告がなされており、オートファジーとは異なる役割で生体の恒常性維持に役立っている。例えば、低血糖時、更なる血糖の分解を防ぐために GOMED が誘導され過剰なインスリンを分解する3)。また、脳においては鉄の蓄積を防ぎ、オートファジーとは異なった機構で神経細胞の状態を維持している2)。他にも、虚血性心疾患や心不全から心臓を保護する役割を担っていたり4)5)、赤血球成熟過程におけるミトコンドリア除去に関与したりしている6)。
もともと、オートファジーは電子顕微鏡により初めて発見され、その構造体の観察には透過型電子顕微鏡(TEM) や走査電子顕微鏡(SEM)などが使用されている。現在、GOMED のみを特異的に検出する方法はまだ開発されていないが、既知の検出方法などを組み合わせることによりオートファジーとの区別は可能である。例えば光学顕微鏡による蛍光像と電子顕微鏡像を相関させ、画像を重ね合わせる光-電子相関顕微鏡法(CLEM) を用い、オートファジー構造にのみ局在する LC3 タンパク質を赤色蛍光タンパク質 mCherry で標識し発現させると、電子顕微鏡で観察された構造が、オートファジーであるか、GOMED であるか見分けることが可能となる。
また、オートファジーを観察する別の手法としてリソソームに局在する Lamp1 タンパク質に緑色蛍光タンパク質 GFP を標識し発現させる方法がある。リソソームは直径 100-500 nm の小さな構造体だが、オートリソソームを形成する際は直径 300-1000nm 程の大きさとなり、この大きさの違いによりオートファジーが起きているかどうかを判断できる。ここに Lamp1-GFP と mCherry-LC3 を組み合わせることで、オートファジーは緑色と赤色の混色、GOMED は緑色の単色として観察できる。他にもまた、GOMED のみを確認したい場合にはオートファジーに必要な Atg5 タンパク質をノックアウト(KO)した細胞を用いる手法も有効である。
小社から販売しているオートファゴソーム検出蛍光色素 DAPGreen 及び DAPRed と、オートリソソーム検出蛍光色素 DALGreen を組み合わせた解析も報告されている。DAPGreen はオートファジーや GOMED の初期段階から緑色の蛍光で検出されるのに対し、DAPRed は中間段階(オートファゴソーム生成の少し前)の構造を赤色の蛍光で検出することができる。つまり DAPGreen と DAPRed を併用すれば、初期段階の構造は緑色として、中間段階以降の構造は赤色と緑色の混色にて検出可能となっている。さらに、DALGreen はオートリソソームのみを緑色蛍光で検出できるので DAPRed と組み合わせて用いると、中間段階は赤色、後期段階は赤色と緑色の混色で検出できる。このように、これら 3 種類の蛍光プローブを用いることで、オートファジーの詳細や、Atg5 KO 細胞を用いることにより GOMED の動態を解析することが可能となった2)7)。

今回 GOMED の役割や検出方法に関して紹介したが、まだその全容は明らかになっていない。将来さらに研究が進み、多くの疾患治療へ繋がることを期待するとともに、小社試薬が少しでも研究の一助となるよう、今後も製品開発を進めていく。
[謝辞]
DAPGreen、DAPRed、DALGreen を開発するにあたり甚大なるご協力を賜りました東京医科歯科大学の清水重臣教授(執筆時)、鳥居暁准教授、兵庫県立大学 桜井一助教に深く感謝致します。
【参考文献】
- A. Doerr., “Microscopy matures, and so does the Golgi”, Nat. Methods, 2006, 3, 496.
- H. Tajima-Sakurai et al., “An Overview of Golgi Membrane-Associated Degradation(GOMED)and Its Detection Methods”, Cells, 2023, 12, 2817.
- H. Yamaguchi et al., “Golgi membrane-associated degradation pathway in yeast and mammals”, EMBO J., 2016, 35, 1991-2007.
- T. Saito et al., “An alternative mitophagy pathway mediated by Rab9 protects the heart against ischemia”, J. Clin. Investig., 2019, 129(2), 802-819.
- M. Tong et al., “Alternative Mitophagy Protects the Heart Against Obesity-Associated Cardiomyopathy”, Circ. Res., 2021, 129, 1105-1121.
- S. Honda et al., “Ulk1-mediated Atg5-independent macroautophagy mediates elimination of mitochondria from embryonic reticulocytes”, Nat. Commun., 2014, 5, 4004.
- H. Tajima-Sakurai et al., “Development of small fluorescent probes for the analysis of autophagy kinetics”, iScience, 2023, 26, 107218.