G-quadruplexとその機能解明
株式会社同仁化学研究所 成田 侑介
G-quadruplex(G4)はDNAやRNAの高次構造の一種でグアニンに富む核酸配列で形成され、4つのグアニンが四量体を作った面(G-カルテット)が2面以上重なった構造体である。ヒト細胞の約2,300種類のmRNA中にはG4が約3,800カ所形成されることが予測されており、mRNA中に存在するG4の役割はこれまで未解明だった。しかし近年の研究でG4は、ゲノムの安定性や遺伝子発現の調節に重要な役割を果たすことが分かってきている1)2)。

図1 グアニン4重鎖の特殊高次構造4)
G4特異的に結合する化合物をグリオーマ幹細胞にさらすとDNA損傷が起き、最終的にアポトーシスが誘導されることが分かり、G4が新たながん治療の標的となる可能性が示唆されている3)。
また、新たにG4とストレス顆粒の関連についても塩田らから報告されている。ストレス顆粒は神経変性疾患の創薬ターゲットとして注目されている。そのストレス顆粒の形成時にG4が核となり、制御因子となることが分かった5)。
ストレス顆粒は、細胞の様々なストレスに応答して形成する膜のないオルガネラ(非膜オルガネラ)である。細胞が低酸素や異常な蛋白質の蓄積及びウイルスへの感染などのストレス状態になった際に、細胞質内のmRNAや蛋白質が、相分離現象※により集合して生じる構造体である。ストレス顆粒の形成は、ストレス環境下で細胞損傷を防御するストレス適応機構であると考えられている。そのため、ストレス顆粒の形成異常や異常が、癌、神経変性疾患、ウイルス感染などの様々な疾病に関与することが報告されている。ストレス顆粒がこれら難治性疾患に対する新たな治療標的となる可能性が示されている。
塩田らはG4構造に特異的に結合するタンパク質としてDNAPTP6を見出した。タンパク質ドメイン解析により、DNAPTP6は2つの大きな天然変性領域(IDR)を含むことがわかった。IDRを持つタンパク質は三次元構造を柔軟に変化させながら、複数の弱い非共有結合を介して相分離を引き起こす。DNAPTP6は濃度が高くなると球状の液滴を形成し、さらに液滴同士が融合する現象を観測された。そのため、DNAPTP6 は液-液相分離を引き起こすタンパク質であることが分かった。
一方で、G4 自体も高い自己集合性を有し、G4が核となるRNA で相分離現象を引き起こすことが知られている。興味深いことに、G4を持つRNA はDNAPTP6 の相分離現象を促進することが分かった。相分離によって形成された液滴が融合することでストレス顆粒の一部が形成された。さらには、神経細胞でのDNAPTP6の発現量を抑えると、ストレス顆粒が形成されにくくなり、神経細胞の機能低下と細胞死が引き起こされた。DNAPTP6は、ヒト骨格筋芽細胞においてリボソームRNAの合成や酸化ストレス下における翻訳調節に関与することが報告されており、神経細胞における機能は不明であったが、その役割の一端が明らかとなった。
本報告は、G4が神経細胞においてストレス顆粒の形成において重要な役割を果たし、神経変性疾患の発症と関連している可能性を示唆している5)。
G4の研究は現在、生命科学の魅力的な分野の1つとなっており、今回主に紹介した神経変性疾患やがんを含む様々な疾病への新しい治療法や予防策の開発ターゲットとして注目されている。
今後、G4の生物学的プロセスや疾患メカニズムへの影響の解明が更に進み、多くの疾患の原因究明に貢献することを期待する。

図2 タンパク質がストレス顆粒を形成するプロセス5)
※相分離:液-液相分離(liquid-liquid phase separation: LLPS) は細胞内でRNA やタンパク質などの高分子が局所的に集まり、水と油のように細胞質から分離して液滴を形成する現象。
【参考文献】
- Balasubramanian S, Neidle S. "G-quadruplex nucleic acids as therapeutic targets." Chem Biol. 2009, 345-53.
- がん化学療法センター, “グアニン4重鎖を標的としたがん創薬”,
https://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/department/molecular_biotherapy/research/002.html
(閲覧日:2024年1月12日) - Nakamura et al.,” Targeting glioma stem cells in vivo by a G-quadruplex-stabilizing synthetic macrocyclic hexaoxazole” Sci Rep, 2017, 3605.
- V. J. Sahayasheela et al., "Mitochondria and G-quadruplex evolution: an intertwined relationship", Cell Press, Trends Genet., 2022, 39(1), 15-30.
- Sefan Asamitsu et al.,” RNA G-quadruplex organizes stress granule assembly through DNAPTP6 in neurons” Science Advances, 2023, 9.
Fig.1 was adapted from Reference 4). Copyright © 2022, V. J. Sahayasheela et al. / CC BY 4.0
Fig.2 was adapted from Reference 5). Copyright © 2023, S. Asamitsu et al. / CC BY-NC