Topics of Chemistry

低酸素下におけるミトコンドリア-リソソーム間相互作用

株式会社同仁化学研究所 小松 恭佳

 細胞内に存在するオルガネラは、それぞれの役割を担いながら他のオルガネラと相互作用して細胞内の様々な機能を維持している。中でもミトコンドリアとリソソームは密接に関係しており、ミトコンドリアは物理的および機能的にリソソームと相互作用して細胞の代謝を調節し、細胞の恒常性を維持する。その一例として、正常な細胞にはマイトファジーと呼ばれる不良ミトコンドリア分解機構が備わっている。また、リソソームは鉄の恒常性を調節することでミトコンドリアの代謝をサポートすることが報告されている1, 2)。ミトコンドリア-リソソーム間の相互作用は細胞機能の重要な決定要因であるにも関わらず、根本的な機構はほとんど不明のままである。本稿では、最近報告された、低酸素下におけるオートファゴソーム非依存的なミトコンドリア分解(mitochondrial self-digestion)に関連したミトコンドリア-リソソーム間相互作用について紹介する3)
 ミトコンドリアの機能に重要な内膜のクリステ構造をつくるMICOS複合体の枯渇は、ミトコンドリア分裂の停止とミトコンドリア内膜組織の障害により、巨大な球状ミトコンドリア(megamitochondria)の形成をもたらす4, 5)。この巨大ミトコンドリアは特定の病理学的細胞において観察されており、様々な疾患に関連していることが報告されているが6, 7, 8)、巨大ミトコンドリアの生理学的機能についてはほとんど理解されていない。Haoらは、HeLa細胞を低酸素下に曝すとミトコンドリア融合の割合が増加し、巨大な球状ミトコンドリアが形成されることを示した(図1)

図1 正常酸素下および低酸素下におけるミトコンドリア形態3)


 巨大ミトコンドリアの形成が誘導されたHeLa細胞では、ミトコンドリアとリソソームの接触が促進することが確認され、正常酸素下の場合、リソソームと接触したミトコンドリアは分裂するが、巨大ミトコンドリアが形成される低酸素下ではリソソームがミトコンドリアに飲み込まれている様子が観察された(図2)

図2 リソソームがミトコンドリアに飲み込まれる様子3)

 Haoらはこの現象をmegamitochondria engulfing lysosome(MMEL)と名付けており、MMELにはミトコンドリア融合を介した巨大ミトコンドリアが必要であり、断片化したミトコンドリアや正常なミトコンドリアはリソソームを飲み込むことができないことを確認している。また、リソソームの酸性化を阻害した場合や、リソソーム膜タンパク質をノックダウンした場合には、低酸素下において巨大ミトコンドリアは形成されるが、MMELが減少することが分かった。これらの結果は、低酸素誘発性MMELにはミトコンドリアの融合とリソソームの成熟が必要であることを示唆している。
 低酸素状態は多くのミトコンドリアプロテアーゼを活性化し、ミトコンドリアタンパク質の分解を引き起こす(図3)。低酸素下では巨大ミトコンドリアが形成され、MMELを介してミトコンドリアとリソソームは相互作用していることが示された。この現象に対してリソソームがどのような働きをしているのか、リソソームプロテアーゼに焦点を当てて確認したところ、巨大ミトコンドリアに飲み込まれたリソソームはミトコンドリア内でリソソームプロテアーゼ(cathepsin)を活性化することが分かった。低酸素状態においてこのリソソームプロテアーゼを枯渇させた結果、ミトコンドリアタンパク質の分解が著しく阻害されることから(図3)、リソソームは低酸素下におけるミトコンドリアタンパク質の分解に寄与していることを明らかにした。この時、オートファゴソームの形成を阻害してもミトコンドリアタンパク質は大幅に減少したことから、MMELを介したリソソームによるミトコンドリアタンパク質の分解は、オートファゴソーム依存性マイトファジーとは独立して行われ、ミトコンドリアを自己消化していることを示唆した。

図3 低酸素下におけるミトコンドリアタンパク質の変化3)


 今回紹介した報告では、低酸素下におけるミトコンドリア-リソソーム間相互作用の様式が明らかとなっている。老化、がん、神経変性疾患などに関与するミトコンドリアの品質管理という点で、ミトコンドリアの自己消化は1つの重要な経路となる可能性がある。今回得られた知見から、ミトコンドリア-リソソーム間相互作用の機構解明がさらに進むことを期待している。

【参考文献】

  1. C. E. Hughes, et al., Cell, 2020, 180, 296-310.
  2. R. A. Weber, et al., Mol. Cell, 2020, 77, 645-655.
  3. T. Hao, et al., Nat. Commun., 2023, 14, 4105.
  4. F. Jian, et al., Cell Rep., 2018, 23, 2989-3005.
  5. H. Li, et al., Cell Death Differ., 2016, 23, 380-392.
  6. A. Wieczorek, et al., Clin. Exp. Hepatol., 2017, 3, 169-175.
  7. T. Wakabayashi, J. Cell Mol. Med., 2002, 6, 497-538.
  8. T. Yamada, et al., iScience, 2022, 25, 103996.
Fig. 1, 2 and 3 were reprinted from Reference 3).
Copyright © 2023, T. Hao et al. / CC BY 4.0.

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