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第 32 回フォーラム・イン・ドージン開催後記

「生命現象に関わる細胞外小胞の多彩な役割 ヴェールを脱ぐエクソソーム」

 新型コロナ感染拡大により今年もオンライン開催となったが、演者の先生方には熊本にお越しいただき、細胞外小胞研究の最新のご研究内容を熊本より発信していただいた。本フォーラム代表世話人の熊本大学富澤一仁先生から、「エクソソームは高い関心を持たれ、飛躍的に発展している分野である。診断・治療と高いポテンシャルを備えており、本日はこの分野をリードする落谷先生、そして若手の先生方をお迎えし、最新のご研究内容を発表していただく」と述べられ、午前のセッションがスタートした。

 最初の演者である東京医科大学落谷孝広先生は、エクソソーム研究の始まりからエクソソームの新たな定義までの概要を説明された。最新の研究では、がん細胞や疾患細胞から分泌される EV によるリキッドバイオプシー、がん転移メカニズムの解明、EV を用いたドラッグデリバリーシステムの開発、さらには間葉系幹細胞が分泌する EV の再生医療への利用等、幅広い分野への応用が期待されることを説明された。併せて当社のエクソソーム精製キットをご紹介いただきながら、大量サンプルからの単離精製技術の確立の必要性を説かれた。今後の課題として当社も取り組んでいきたい。続いて東京医科大学吉岡祐亮先生は、エクソソームを用いたリキッドバイオプシーについてご講演された。吉岡先生はエクソソームを用いた膵臓がんのバイオマーカーを開発し、ステージ I の膵臓がん患者でも従来の腫瘍マーカーである CA19-9 や CEAより精度よく診断できる可能性を示された。エクソソームは多種多様な細胞から分泌されることから、がん以外の疾患の診断への応用も期待されると締めくくられた。熊本大学押海裕之先生は、miR-192 が老化特異的な miRNA であることを発見され、老化した個体の血中 EV で上昇することを示された。老化マウスはインフルエンザ全粒子ワクチン接種後の抗体産生が低下するが、炎症性サイトカインの産生を抑制する miR-192 含有 EV を投与することで特異抗体価は若齢マウスと同程度まで回復することが観察され、miRNA を含むEVは、ワクチン効果の向上や免疫関連疾患治療の可能性を示された。

 午後のセッションは早稲田大学西田奈央先生のご講演から始まった。西田先生は、EV を介したがん細胞の組織環境内での情報伝達についてご講演された。がん細胞の環境の変化および組織構造により、分泌される EV に多種多様な変化がみられる。がん組織内のEV挙動を調べるために、がん組織および正常組織由来の組織スライスを作製し、原発腫瘍内や転移先臓器での EV の取り込みや受け渡しの観察結果を紹介された。東京医科大学プエリト・ビラ マルタ先生は、心筋細胞由来EVによる心筋繊維症治療および心筋再生への応用について講演された。心血管系疾患は、線維芽細胞の異常活性化による心筋の繊維化によって引き起こされる。Rock 阻害剤 Y-27632 処理により線維芽細胞活性化マーカーおよび細胞外マトリックスが低下すること、さらには高血圧モデル動物にEV処理することで心筋の非繊維化効果がみられ、成体心筋細胞由来の EV の利用は、心筋線維化の治療法として有望であることが示された。

 コーヒーブレークの後の京都大学下田麻子先生は、レクチン-糖鎖相互作用を利用したレクチンマイクロアレイ法を使うことで、回収してきた EV の高感度解析が可能であること、さらに EV 表面糖鎖をリモデリングすることで、培養細胞への取り込み効率やマウスでの各臓器への集積量の違いが観測されたことから、表面糖鎖のリモデリングによるドラッグデリバリーシステム(DDS)への有用性を示された。なお、蛍光染色には当社のエクソソーム膜染色色素が使われていた。東京医科大学梅津知宏先生は、キントラノオ科植物であるアセロラ由来エクソソーム様小胞が核酸医薬のDDS単体として有用であることを示された。アセロラ由来エクソソーム様小胞と核酸の複合体が、単層培養した腸管上皮細胞および血管内皮細胞層を通過したことから、小腸上皮での取り込みが可能であることが示唆され新たな DDS としての可能性を示された。

 世話人である熊本大学三隅将吾先生の閉会の挨拶では、「疾患は細胞内のコミュニケーション不足から生じていることを改めて実感した。EV は天然のデリバリーシステムとして細胞間のコミュニケーションに大きく関与している。今後 EV 研究は、診断・治療、さらには多くの応用研究に広がることを期待したい」と締めくくられた。

 最後に昨年に引き続き今年のフォーラムでも、アンケートにご回答いただいた方に景品(商品券または同仁化学研究所の選りすぐりの製品)をご用意した。皆様のご意見を今後の製品開発に取り入れていくために、製品を手に入れられた方は、ご使用後の感想、ご意見等を当社マーケティング部までお寄せいただきたい。
感想・ご意見はこちらまで

(石山宗孝)


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