高齢化社会に伴い、今日では健康維持・増進を目的とした予防医学的研究、特に生活習慣病と食品に関する研究が盛んに行われている。中でも、生体内で産生される活性酸素種(ROS)を消去できる抗酸化食品(および食品成分)への関心が高まっている。本稿では、食品由来抗酸化成分の細胞および生体内活性に関して紹介する。
ROS は脂質や DNA 等の様々な生体内構成成分の酸化・変性(酸化ストレス)を惹起し疾患の発症や健康障害を招くことが知られている 1, 2, 3, 4)。食生活の乱れによる肝臓への過剰な脂質の取り込みは酸化ストレスおよびそれに伴う細胞障害を招く。その結果脂肪肝等の肝疾患へと進展する。果実等に含まれるビタミン C(VC)や甲殻類等に含まれるアスタキサンチン(ATX)は共に抗酸化活性を有する食品成分であり、これらが脂肪肝に対して細胞レベルで有効性を示すことが報告されている1)。Yang らはヒト肝がん由来細胞である HepG2 にオレイン酸を投与した脂肪肝細胞モデルを用いて、VC 及び ATX 処置により ROS の減少および細胞障害が抑制されることを明らかとした。驚くべきことに、これら食品由来抗酸化成分は ROS の減少のみならず、脂肪酸分解に関与する遺伝子発現を促進することで脂肪滴(中性脂質を多く含む細胞小器官)を減少させることも明らかとなった。
一方、酸化ストレスは血糖値を下げるインスリンの働きを妨げ、糖尿病の発症に促進的に寄与することが知られている。Wang らは抗酸化活性成分ポリフェノールを含む桑の実(Morus alba L.)の抽出物が、ストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスの血中グルコース量を減少させ、さらに生体内の防御機構である抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を活性化することを報告している 2)。同様に、ポリフェノールを含むキマメ(Cajanus cajan)抽出物に関してもアロキサン誘発糖尿病モデルラットの血中グルコース量を減少させることが報告されている 3)。
興味深いことに、キマメは抽出方法の違いにより抗酸化活性だけでなく高血圧症に関与するアンジオテンシン I 変換酵素(ACE)の阻害活性を示すことから 4)、幅広い生体内活性を有することが示唆された。
このように、食品由来抗酸化成分は様々な生体内活性を有しており、食品機能を評価する際には第一選択として抗酸化活性を評価するケースが多い。一方で、抗酸化活性評価法はこれまでに様々な方法が開発されており、抗酸化活性を正しく評価するために複数の分析手法を用いることが増えてきている。実際、本稿で紹介した食品成分の抗酸化活性は 1, 1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)法を含めた複数手法を用いて評価している例が多く、抗酸化活性を多角的に評価することが重要視されつつある。
本稿では、食品由来抗酸化成分の様々な生体内活性や多角的な抗酸化活性評価の重要性に関して紹介してきた。今後、食品由来抗酸化成分の様々な機能が明らかとなることで、食品が生活習慣病に対する予防医学的アプローチの一つとなることが期待される。