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細胞外小胞、エクソソームの特性と機能

Properties and Functions of Extracellular Vesicles / Exosome

下田 麻子
京都大学
工学研究科高分子化学専攻
博士研究員
秋吉 一成
京都大学
工学研究科高分子化学専攻
教授

Abstract
 Extracellular vesicles(EVs), such as exosomes and microvesicles, play important roles in cell-cell communication including cellular signaling, cell proliferation, immune modulation, and cancer metastasis. EVs are released by all types of cells and found in various body fluids. The functions and components of EVs rely on the status of their original cells or tissues. In this review, we would like to introduce the current advances of EV studies.

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1. はじめに

 我々ヒトを含む多細胞生物は様々な種類の細胞から構成されており、その機能を維持するために絶えず細胞間でコミュニケーションを取っている。細胞から細胞へと情報を伝える方法としては、細胞同士が接着することにより刺激を伝達する機構やホルモン、細胞増殖因子、サイトカインなどを細胞が分泌することで近くの細胞、又は離れた組織へと運ぶ方法などが良く知られている。 近年、これらに加え、細胞がタンパク質や核酸などの情報伝達物質を含む脂質二重膜で囲まれた数十〜数百ナノメートルのサイズの小胞(細胞外小胞)を細胞外へと分泌し、生理学的ならびに病理学的なプロセスに重要な役割を果たしていることがわかってきた1)
 初めて細胞由来の小胞が発見されたのは 1940-1960 年代であり、血漿の高速遠心分離により得られる 50 nm 程度の血小板由来の小さな膜小胞(platelet dust)が血液凝固を促進することが報告された 2)。その後、1980 年代に Johnstone らがヒツジの網状赤血球の成熟過程で不要となったタンパク質を分泌する 100 nm 前後の分泌顆粒をエクソソームと命名したのが細胞外小胞の歴史の始まりである 3)。この時は単なる細胞の老廃物を排出するための道具と認識されていたが、1990 年代には免疫細胞由来のエクソソームが免疫調節機能を持つことや、内部に micro RNA(miRNA)が存在し、他の細胞へと運ばれることが発見され、細胞外小胞は新たな細胞間コミュニケーションツールとして注目されるようになった。
 現在までにあらゆる細胞が細胞外小胞を分泌し、様々な体液中(血液、尿、唾液、母乳など)に存在することが報告されている。由来の細胞によりその機能も異なり、がんの転移、ウイルスやバクテリアの感染の媒介、疾患マーカー、組織修復など多岐にわたっている 4, 5)。一方で、細胞外小胞の分類法や回収方法、細胞への取り込みのメカニズムなど未だ曖昧な点も多く、多くの課題が残されているのが現状である。本稿では、細胞外小胞の基本的な性質やその機能、疾患の治療や診断への応用に向けた最新の動向について紹介する。

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2.細胞外小胞の種類と分類 1, 6)

 国際細胞外小胞学会(International Society for Extracellular Vesicles; ISEV)7)は “細胞から放出される核を持たない(複製できない)脂質二重膜で囲まれた粒子” を細胞外小胞と定義している。細胞外小胞は産生機構の違いから @エクソソーム、Aマイクロベシクル、Bアポトーシス小胞に分類されている(図 1)。

 エクソソームは 50-150 nm 程度のサイズのエンドサイトーシス過程で形成されるエンドソーム膜由来の小胞であり、主な構成成分は脂質、タンパク質、核酸(micro RNA, messenger RNA, DNA)である。一般的に多くのエクソソームには後期エンドソームに含まれる多胞体(multivesicular body:MVB)関連タンパク質(ALIX,TSG101)や熱ショックタンパク質(HSP70,HSP90)、膜貫通タンパク質ファミリーのテトラスパニン(CD9, CD63 ,CD81)が多く含まれているため、これらをエクソソームマーカーとしているが、細胞の種類により発現量は異なるため、あくまでもひとつの目安として考えられている。最近の報告では、Zhang らがエクソソームをさらに細かくサイズで分離し、〜 35 nm の粒子を exomere、60-80 nm の粒子を small-exosomes、90-120 nm の粒子を large-exosomes と命名し、それぞれタンパク質、脂質、核酸、N 型糖鎖の発現パターンが異なることを示している 8)
 マイクロベシクルは 100-1,000 nm と幅広いサイズの小胞とされ、細胞膜から直接出芽して細胞外へと分泌される点がエクソソームと異なる。産生機構は異なるものの、構成成分やサイズ共にエクソソームと共通するものが多く、完全に分離するのは難しいのが現状である。一方、アポトーシス小胞はアポトーシスを起こした細胞がマイクロベシクルと同様に膜から出芽される粒子であるが、マイクロメートルオーダーであり、2,000×g 程度の低速遠心で分離されるため、他の 2 つとは区別がしやすい。細胞外小胞を培養細胞や血液などの体液から回収する方法は表 1 に示すように様々な手法が報告されている 9)。細胞外小胞は単一ではなくヘテロな集団であることから、特定のタンパク質や脂質成分を持つ微粒子を単離したい場合を除いては、現時点ではサイズや密度で分離する超遠心法が標準的な手法として受け入れられている。

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3. 細胞外小胞のイメージング手法

 体内での細胞外小胞の挙動を追跡するには、@蛍光色素、A発光プローブ、B放射性同位元素または MRI 造影剤を用いたラベリングが重要である(図 210)

 最も多く使用されているのは@の蛍光色素であり、その種類も豊富である。細胞外小胞の脂質二重膜を染める試薬として Rhodamine B(R18)、DiI、DiO、DiD、PKH67、PKH26 といった多くの色素があり、これらは細胞外小胞を回収後に混合するだけという簡便な方法であることから良く用いられている。しかし、標識後に未反応の色素を除く作業によりサンプルロスが生じることや細胞外小胞同士または色素同士の凝集でミセルを形成してしまうといった問題点もある。CFSE(carboxyfluoresce in diacetate succinimidyl ester)は膜透過性の蛍光色素であり、細胞内のエステラーゼにより CFSE のアセテート基が切断され、蛍光性となり、活性エステル基が細胞内タンパク質と共有結合することで安定的に蛍光が観察できることから、上述の脂溶性色素と同様に用いられている。Jones らのグループは高分解能フローサイトメーターおよびナノトラッキング法を用いた粒子径測定による検討で、CFSE による染色とサイズ排除クロマトグラフィーによる未反応の色素の除去が最も細胞外小胞のラベリングに適していると報告している 11)
 蛍光色素に代わるより高感度な標識としてAの発光プローブは細胞外小胞の体内動態の観察に適していると考えられている。Takahashi らは発光レポータータンパク質 Gaussia luciferase(gLuc)とエクソソーム移行性タンパク質 lactadherin の融合タンパク質を発現したプラスミド DNA をマウスのメラノーマ細胞へと導入することで gLuc 標識細胞外小胞を得ることに成功している 12)。また、メラノーマ細胞および他の種類の細胞から回収した gLuc 標識細胞外小胞をマウスへ静脈注射投与すると、マクロファージに取り込まれることで速やかに血中から消失することを明らかにしている 13)。 Lai らは、gLuc と PDGFR(Platelet-derived growth factor receptor)の膜貫通ドメインを融合させ、得られた gLuc 標識細胞外小胞の体内動態を観察し、全身投与により腫瘍へと運ばれることを示した 14)。 Hikita らは、高感度で長時間安定に発光する深海エビ由来のルシフェラーゼ NanoLuc(R)(Nluc)とエクソソームマーカーである CD63 の融合タンパク質を発現させた細胞を作製し、Nluc 標識細胞外小胞の産生量や in vitro での細胞への取り込み、in vivo での組織分布を高感度で検出することを報告した15)
 臓器や組織の深部での細胞外小胞の分布を観察するにはBの放射性同位体または MRI 造影剤を用いた標識が有効である。 Hwang らは脳血流の測定に良く用いられる 99mTc-HMPAO を用いて細胞外小胞を標識し、脳血流シンチグラフィにて臓器への分布を調べている。その結果、フリーの 99mTc-HMPAO が脳へと集積したのに対し、 99mTc-HMPAO 標識細胞外小胞は主に肝臓へと取り込まれ脳への集積は見られず、また表面の物性への影響もほとんどないことを示した 16)。磁気共鳴画像(MRI:magnetic resonance imaging)検査も画像診断に有用であり、造影剤の 1 つである USPIO(ultrasmall superparamagnetic iron oxide particles)は血中安定性が高く、転移リンパ節の診断への有効性が示されている。細胞外小胞を回収後に USPIO を内包させる方法や 17)、細胞へと取り込ませてから USPIO 内包細胞外小胞を回収する方法 18)などが報告されているが、半減期が長いため細胞外小胞が分解された後もシグナルが残ることや、観察に比較的多くの細胞外小胞を必要とするなどの短所もある。実験の目的に応じて標識法を選択することが重要である。

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4. 細胞外小胞と細胞との相互作用

 細胞から分泌された細胞外小胞が受け手側の細胞へどのように情報を伝え、生理学的または病理学的機能変化をもたらすのかを解明するには、細胞との相互作用メカニズムを知ることが鍵となる。微粒子と細胞の相互作用にはそのサイズ、表面分子の種類が大きく影響する。細胞表層には多くのレセプターや接着因子が存在しており、細胞外小胞にも由来細胞が有するそれらの因子が受け継がれていることから、細胞と細胞外小胞との相互作用には様々な経路が考えられている。
 一般的には、細胞内への取り込み経路については、膜融合や各種エンドサイトーシス(ファゴサイトーシス、マクロピノサイトーシス、受容体またはラフト介在エンドサイトーシスなど)が関連していることがわかっており、どの経路で細胞と相互作用するかについては、やはりエクソソーム表面分子あるいは受け手側の細胞膜表面分子に依存する 19)。細胞接着分子であるテトラスパニンや ICAM-1(Intercellular Adhesion Molecule 1)、インテグリンなどは細胞外小胞の受容体介在エンドサイトーシスに重要な役割を果たしていることが知られている。Hoshino らはがん細胞由来のエクソソームに発現しているインテグリンの種類により転移の臓器特異性を予測できることを報告している 20)。他にもフィブロネクチンとヘパラン硫酸プロテオグリカン、マクロファージや樹状細胞に発現する膜貫通タンパク質 TIM-4 とリン脂質のホスファチジルセリンなど多くの分子が同定されている21)
 我々は細胞外小胞表層の糖鎖の機能に関する研究を進めている。細胞膜表面の脂質およびタンパク質表面を覆う糖鎖は細胞の増殖、接着、分化などの生体応答やタンパク質や脂質の機能調節といった様々な生命現象に重要な役割を担っており、細胞外小胞表層の糖鎖もこれらの現象に関連していることが考えられる 22)。しかし、細胞外小胞研究においてタンパク質や核酸の構造よりも複雑な構造を持つ糖鎖についての議論はこれまでにほとんどされてこなかった。筆者らは糖鎖とレクチンの相互作用を利用するレクチンアレイに注目し、細胞外小胞の構造を壊すことなく簡便かつ高感度に表層糖鎖のパターンを解析することに成功した。脂肪由来ヒト間葉系幹細胞由来細胞外小胞の表層糖鎖をレクチンアレイにて解析したところ、シアル酸認識レクチンと特に強く結合し、細胞表面にあるシアル酸認識レクチンである Siglec(sialic acid-binding immunoglobulin-type lectin)を発現する細胞に取り込まれることを明らかにした(図 323)。現在、様々な種類の細胞由来の細胞外小胞について解析を行っており、細胞内取り込みへの関与のみならず、細胞外小胞の多様性における糖鎖の役割やタンパク質や核酸に代わるバイオマーカーとしての利用についても検討を進めている。

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5. 細胞外小胞による疾患の診断

 がん細胞由来細胞外小胞に特異的な miRNA やタンパク質に関する研究は年々増大しているが、これを疾患の診断マーカーとして応用する試みが盛んに行われている。患者への負担をなるべく少なくし、がんを早期発見するために血液や尿などの体液で診断するリキッドバイオプシーが注目されているが、この診断法に細胞外小胞が有用である。2008 年に Taylor らは卵巣がんに特異的なマーカーとして 8 種類の miRNA が血清中の細胞外小胞中に含まれることを確認した 24)。この報告を皮切りに血清、血漿、尿、脳脊髄液などのあらゆる体液サンプルから得られる細胞外小胞に含まれる miRNA が肺がん、大腸がん、すい臓がん、子宮頸がん、膠芽腫といった様々ながんにおいて診断マーカーとなりうることがわかっている25)。日本でも落谷らのグループが 2014 年に EcoScreen 法と呼ばれる血液中のがん細胞由来の細胞外小胞を分離することなく短時間で高感度に検出できる手法を開発した。この手法はエクソソームマーカーとがんに特異的なマーカーの 2 種類に対する抗体を固定化した光増感剤ビーズを用いることでがんの早期診断を可能とするものである 26)。また、馬場らのグループは、従来法では効率的な回収が困難であった尿中の細胞外小胞を、酸化亜鉛からなるナノサイズのワイヤで 1 mL の尿から 99%以上を捕捉する新規手法の開発に成功した。この方法を用いることで、様々ながん患者の尿由来細胞外小胞中の miRNA を高感度に検出が可能となり、がん特異的な miRNA を発見している 27)。現在、miRNA のみならず細胞外小胞に含まれる脂質やタンパク質の発現レベルががん患者で高い値を示すことも報告されている 28)

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6. 細胞外小胞の医療応用

 細胞外小胞の生物学的機能に関する研究は近年急速に進展し、数多くの論文が報告されている。由来細胞の種類に応じて、細胞外小胞の機能が生体にとって正に制御されるのか、または負に制御されるのかが決まってくる。例えば、最も多く研究が行われているがん細胞由来の細胞外小胞においては、細胞外小胞に含まれる炎症性サイトカインや miRNA により、薬剤耐性、がんの転移や血管新生を促すことによる腫瘍の増大といった負の作用を引き起こすことがわかっている29)。また、骨髄由来免疫抑制細胞の活性化やエフェクター T 細胞のアポトーシス誘導による腫瘍の増大など免疫系の細胞への働きも報告されている。活性化 T 細胞に発現する免疫チェックポイント分子の 1 つである PD-1(programmed cell death-1)のリガンド PD-L1(programmed death-ligand 1)は腫瘍細胞で発現が増大することで免疫回避しているが、最近 Chen らはこの PD-L1 が腫瘍細胞由来細胞外小胞として分泌され、CD8 陽性 T 細胞の機能を抑制することで腫瘍の増大を引き起こすことを報告している 30)。一方で、正に制御される機能についても多くの研究が行われている。例えば、母乳由来の細胞外小胞に含まれる miRNA は乳児の免疫システムの発達に重要な役割を示すことが報告されている 31)。さらには、哺乳類のみならず果物や野菜といった食物からも“細胞外小胞様のナノ粒子”が分泌され、内部に機能性の miRNA やタンパク質を含有していることもわかってきた。ショウガ由来のナノ粒子はアルコール誘導性肝障害の抑制効果が見られ、またグレープフルーツ由来のナノ粒子に標的細胞へのターゲティング能を付与することで薬物送達のキャリアとしても有用であることが示されている 32)。これらの他にも様々な興味深い機能が報告されているが、最近の総説を参照していただきたい 33), 34)
 細胞外小胞を用いた治療法についての可能性も示唆されている。細胞外小胞の内部へ超音波照射やエレクトロポレーション法で抗がん剤、生理活性物質、siRNA などを内包させ目的の細胞へと送達するナノキャリアとしての応用研究が行われている 35)。回収した小胞をそのまま用いるだけでは内包効率や細胞選択性が十分ではないことがほとんどであることから、細胞外小胞の表面の改変技術などの取り組みも行われており、今後の発展が期待される 36)。一方で、新たながん免疫ワクチンとして悪性のメラノーマや非小細胞肺がん、大腸がんに対する治療ではすでに第 1, 2 相臨床試験が行われており、安全性や有効性が確認されている 37)。珠玖らのグループは、細胞傷害性 T 細胞由来の細胞外小胞が、がん由来の間葉系間質細胞に選択的に取り込まれアポトーシスを誘導し、結果としてがんの浸潤と転移を抑制することを見出しており、臨床を目指した研究を進めている 38)
 また、間葉系幹細胞は骨、脂肪、軟骨、神経などのあらゆる細胞への分化能を持つ細胞であり、特に再生医療分野で注目されている。間葉系幹細胞が分泌する細胞外小胞も同様の効果が見られると考えられることから、最近注目されている。組織(腎臓、肝臓、皮膚、角膜)損傷モデルで細胞の増殖、血管新生、再構築などが見られているほか、T 細胞、B 細胞、NK 細胞などの免疫担当細胞の機能を調節する機能も報告されている 39), 40)。しかし、細胞外小胞が多様性を示すのと同様に、間葉系幹細胞も由来する組織や分化の度合いにより構成成分も機能も変化するため更なる条件検討が必要とされる。

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7. おわりに

 ここ 10 数年の間に細胞外小胞に関する研究はその機能の多様さからライフサイエンスの幅広い分野で注目されている。しかし、単離法や分類法、品質管理や適切な保存方法などの明確な定義はなく、今後の研究成果が期待される。現在様々なデータベースが公開されており 41)、昨年には ISEV により世界中の研究者がまとめた細胞外小胞の基本的なガイドラインも更新された(MISEV2018) 42)。細胞外小胞の基本的な機能の解析から実際の医療への応用を実現するために、医工連携による研究が必要であると考えられる。

著者プロフィール
氏名 下田 麻子(Asako SHIMODA)
所属 京都大学 工学研究科高分子化学専攻
〒615-8530
京都府京都市西京区京都大学桂
京都大学工学研究科附属桂インテックセンター 302 号室
Tel:075-383-2153
出身学校 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
学位 博士(学術)
専門分野 生体機能高分子、細胞外小胞
氏名 秋吉 一成(Kazunari AKIYOSHI)
所属 京都大学 工学研究科高分子化学専攻
〒615-8510
京都府京都市西京区京都大学桂 A3- 317
Tel:075-383-2589  Fax:075-383-2590
出身学校 九州大学大学院工学研究科
学位 博士(工学)
専門分野 生体機能高分子、バイオインスパイアード材料、糖鎖工学、
人工細胞工学、DDS

 

    
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