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硫化水素研究用試薬およびキット

 近年、毒ガスとして知られている硫化水素(H2S)が、血管拡張や細胞保護、インスリン分泌や神経伝達調節など様々な生理活性を示す(Fig. 1)ことが明らかにされ、一酸化窒素(NO)や一酸化炭素(CO)に続く第 3 のガス状シグナル分子として注目されています。

 生体内に存在する硫化水素は、主に L- システインを基質としてシスタチオニンβ- シンターゼ(CBS)やシスタチオニンγ- リアーゼ(CSE)、3- メルカプトピルビン酸サルファトランスフェラーゼ(3-MST)と呼ばれる酵素類によって産生され、生理活性を示すと共に、システイン側鎖の SH 基に付加した結合型硫黄として生体内に貯蔵されると考えられています。硫化水素は、NO や CO と同様にガス状分子として認知されていますが、その pKa は約 7 であり、生理的 pH では約 80 %が硫化水素イオン(HS)の状態で存在します(Fig. 2)。また、硫化水素イオンは生体内で様々な結合形態や構造をとるため、その作用機序の詳細は未だ不明であり、硫化水素を中心とした硫黄の生体内機能の解明が待ち望まれています(概要はドージンニュース 146 号「生理活性物質としての硫化水素」および 148 号「硫化水素による膵 B 細胞保護」をご参照ください)。

 小社では現在、このような研究背景の中、硫化水素研究に有用な試薬およびキットの開発を行っております。ご興味、ご要望などありましたら、お気軽に小社までお問合せください。

硫化水素ドナー Na2S

<特長>
 ・硫化水素研究用として規格化
 ・秤量しやすい粉末タイプ

 硫化ナトリウム(Na2S)は、硫化水素研究には欠かせない硫化水素ドナーであり、硫化水素ナトリウム(NaHS)と共に汎用されています。しかしながら、現在用いられている硫化ナトリウムは、有機合成用のため数百〜数十 g という大きな容量で、一つのボトルにペレットの状態で販売されています。硫化水素研究において必要となるのは mg オーダーであるため、購入した硫化ナトリウムの多くは無駄となる他、長期保存による劣化の問題が生じます。また、メーカーあるいは製造ロットによって純度や組成が異なるため、実験の再現性に影響を及ぼすことが懸念されます 1)。 そこで小社では、硫化水素研究用の硫化ナトリウムを開発しております。本試薬は秤量しやすい粉末タイプです。またメチレンブルー法による分析によって規格化し、品質を管理しておりますので、硫化水素研究用として安心してご使用いただけます。

加水分解性徐放型 硫化水素ドナー

 硫化ナトリウム(Na2S)や硫化水素ナトリウム(NaHS)は、最も一般的な硫化水素ドナーとして硫化水素研究に用いられています。しかしながら、水に溶解するとすべて硫化水素(イオン)に変換されるため、一過性の硫化水素刺激しか与えることができません。そのため、近年数多くの徐放型の硫化水素ドナーが開発されてきております。 GYY4137 は、P. K. Moore らによって開発された徐放型の硫化水素ドナーであり、加水分解によって持続的に硫化水素を放出する試薬です(Fig. 42)。そのため、硫化ナトリウムや硫化水素ナトリウム添加のような一過性の刺激では観察されない細胞応答を引き起こすことが確認されています 2, 3)。このような硫化水素ドナーを用いることでより詳細な硫化水素の生体内機能解析や新規の薬剤開発につながることが期待されます。

還元物質応答性 硫化水素ドナー

 硫化水素研究において、硫化水素の量や発生速度はその生理活性を決める重要な因子となります。しかし現在、一般的に硫化水素ドナーとして使用されている硫化ナトリウム(Na2S)や硫化水素ナトリウム(NaHS)は、水溶液中に添加するだけで硫化水素を生成するため、硫化水素の発生量や発生時間を制御することは困難です。

  M. Xian らが開発した硫化水素ドナーは、生体内に存在する還元物質(グルタチオンやシステインなど)に応答して硫化水素を発生する新規の硫化水素ドナーで、その構造の違いによって硫化水素の発生時間と発生量が異なります(Fig. 54, 5)。これらドナーの硫化水素発生機構は、生体内の硫化水素産生メカニズムに基づいており、パーサルファイドを経由して硫化水素を発生します。そのため、化合物自体の毒性が低く、硫化水素研究を行う上で大変興味深い化合物だと考えられます。

硫化水素研究用 サルフェン硫黄ドナー類

 硫化水素の細胞内機能を議論する上で、硫黄原子が連結したパーサルファイドやポリサルファイドのようなサルフェン硫黄は欠かせない存在となってきております。このようなサルフェン硫黄は、硫化水素の産生や貯蔵、放出だけでなく、スルフヒドリル化などのタンパク質内チオールをターゲットとしたシグナル伝達にも関与していることが示唆されており6)、硫化水素に関連する研究分野は大きな広がりを見せつつあります。木村らは、実際に脳内で硫化水素からポリサルファイドが生成することを発見し、このポリサルファイドが脳内の神経伝達を増強していることを明らかにしています 7)。また石井らは、ポリサルファイドである四硫化ナトリウムが転写因子である Nrf2 のスルフヒドリル化を介して酸化ストレスに対する高い細胞保護機能を発揮することを示しています 8)
 現在、小社ではこのような幅広い硫化水素関連の研究に対応するため、硫化水素研究用のポリサルファイドを開発しております(Fig. 6)。有機合成用として三硫化ナトリウムや四硫化ナトリウムは市販されていますが、メーカーやロットによって品質が異なります(Fig. 7)。小社では、硫化水素研究用として高品質のポリサルファイドをご提供いたします。

* A社製品は緑がかった黄土色粉末で、水に溶解すると多くの不溶物(不純物) が観察された。

サルフェン硫黄検出用蛍光プローブ

 硫黄原子が連なって結合したサルフェン硫黄は、硫化水素の生体内プールとして存在するだけではなく、タンパク質の S- スルフヒドリル化を介したシグナル伝達に寄与していることが明らかとなり、近年非常に注目されてきております。M. Xian らが開発した蛍光プローブ SSP2 は、サルフェン硫黄と特異的に反応して強い蛍光を発する試薬であり、サルフェン硫黄の蛍光検出や細胞内動態の解析に有用です(Fig. 8,99)。現在、小社では SSP2 よりも高感度な蛍光プローブ SSP4 の製品化を検討しております。

* 10 μM SSP2(PBS)に三硫化ナトリウム(終濃度 100μM )添加(Ex: 482 nm, Em: 515 nm)

硫化水素 生体硫黄マップと試薬選択ガイド

硫化水素関連製品群をマップで紹介しています。お役立てください。


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[参考文献]

1) R. Greiner, Z. Palinkas, K. Basell, D. Becher, H. Antelmann, P. Nagy and T. P. Dick, Antioxid. Redox Signal., 2013, 19, 1749.

2) L. Li, M. Whiteman, Y. Y. Guan, K. L. Neo, Y. Cheng, S. W. Lee, Y. Zhao, R. Baskar, C-H. Tan and P. K. Moore, Circulation, 2008, 117, 2351.

3) Z. W. Lee, J. Zhou, C-S. Chen, Y. Zhao, C-H. Tan, L. Li, P. K. Moore and L-W. Deng, PLos One, 2011, 6, e21077.

4) Y. Zhao, H. Wang and M. Xian, J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 15.

5) Y. Zhao, S. Bhushan, C. Yang, H. Otsuka, J. D. Stein, A. Pacheco, B. Peng, N. O. Devarie-Baez, H. C. Aguilar, D. J. Lefer and M. Xian, Chem. Biol., 2013, 8, 1283.

6) B. D. Paul and S. H. Snyder, Nat. Rev. Mol. Cell. Bio., 2012, 13, 499.

7) Y. Kimura, Y. Mikami, K. Osumi, M. Tsugane, J. Oka and H. Kimura, FASEB J., 2013, 27, 2451.

8) S. Koike, Y. Ogasawara, N. Shibuya, H. Kimura and K. Ishii, FEBS Lett., 2013, 587, 3548.

9) W. Chen, C. Liu, B. Peng, Y. Zhao, A. Pacheco and M. Xian, Chem. Sci., 2013, 4, 2892

 

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