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GlutathioneS-transferase(GST)活性をイメージングするための新規蛍光プローブ

株式会社同仁化学研究所 大内 雄也

 GlutathioneS-transferase (GST)は、毒物や薬物、生理活性物質などに、抗酸化物質の一つであるグルタチオンを付加する反応を触媒する酵素である。この反応はグルタチオン抱合と呼ばれ、解毒、代謝、酸化ストレス応答やシグナル伝達などに深く関与していることが知られている。また、この酵素は癌細胞に多く発現していることから重要な癌マーカーとして、また癌治療のターゲットタンパク質として注目されている。さらに GST はその酵素活性だけではなく、細胞内局在によって細胞機能をコントロールしていることが最近報告され、細胞内イメージングの必要性が示唆されている。
  GST 活性の一般的な検出法として 2,4-Dinitrochlorobenzene(CDNB)を用いた方法が知られている。CDNB は、 GST の良好な基質となりグルタチオンと効率よく反応する。この反応によって生成するグルタチオン抱合体は 340 nm の吸収をもつため、この吸光度変化を観察することによって酵素活性を測定することができる。しかしながら本手法は、比色法のため感度が低い、細胞内イメージングには適用できない、CDNB とグルタチオンが酵素非依存的に反応する、などの問題がある。一方で蛍光基質を用いた手法も報告されている。Monochlorobimane(mBCl)は、それ自体無蛍光であるが、グルタチオンと反応すると蛍光を発する。蛍光法を用いているため CDNB よりも高感度であり、 GST 活性の細胞内イメージングに用いた例も報告されている 1)。しかし、CDNB と同様に酵素非依存的な反応が進行する、短波長励起のため細胞へのダメージが大きい、などの問題があり満足のいく方法とは言えない。
 そこで本トピックでは、GST 活性の細胞内イメージングに適用できる新規の蛍光プローブについて紹介したい。
 Fujikawa らは、PeT(photoinduced electron transfer)機構に基づいた GST 活性特異的な蛍光プローブの開発に成功している 2)。まず彼らは、CDNB や mBCl の抱える“酵素非依存的な反応”という問題を解決するため、種々の基質化合物の評価を行い、3,4-Dinitrobenzanilide(NNBA)が GST 酵素依存的にグルタチオンと反応する特異的な基質となることを見出している。そして、この構造を蛍光色素(フルオレセイン)に組み込むことにより GST 特異的な蛍光プローブ DNAF を開発している。この蛍光プローブは、その構造内の 3,4-Dinitrobenzamide 基が GST の基質として働くと共に PeT アクセプターとなる。そのため、蛍光プローブ自身は無蛍光であるが、GST によってグルタチオンが Dinitrobenzamide 基の 4 位の部位に付加されるとPeTが解消され、30 倍以上の強い蛍光を発する。さらに蛍光色素の部分を疎水性の高い蛍光色素(TokyoGreen)に変えた DNAT-Me によって細胞内の GST 活性イメージングに成功している。胆管癌細胞 (HuCCT1)は GST 活性が高く、種々の抗癌剤に対する耐性を有していることが知られている。特に核内に存在する GSTP (GSTのPi isoform)は、非常に活性が高く薬物耐性の大きな要因と考えられている。DNAT-Me を用いたイメージングでは、核内に強い蛍光が観察されており、核内に存在する高活性の GSTP の存在を明らかにしている。
 一方、Zhang らは GSH/GST 反応によるスルホアミド結合の開裂反応に着目し、新規の蛍光プローブの開発を試みている 3)。強い蛍光を発する蛍光色素 Coumarin、Rhodamine、Cresyl Violet のアミノ基に、強い電子吸引基である 2,4-Dinitrobezenesulfonyl (DNs)基を導入したこれらの蛍光プローブ (DNs-Coum, DNs-AcRh, DNs-CV)は、それ自体は無蛍光である。しかしながら、 GST によって GSH が反応するとスルホアミド結合の開裂が生じ、DNs 基が蛍光色素から脱離する。その結果、元の蛍光色素である Coumarin、Rhodamine、Cresyl Violet が生成し、強い蛍光を発するのである。驚くべきはその蛍光強度比であり、GSH/GST 反応によって Coumarin では 71倍、Rhodamine では 110倍、Cresyl Violet では 580 倍もの蛍光増加が確認されている。これらの蛍光プローブは GST の良好な基質となると共に酵素非依存的な反応がほとんど生じないため、有効な GST 特異的蛍光プローブと言える。特に Cresyl Violet を蛍光色素とする DNs-CV は、反応性および特異性、さらに細胞透過性の面で優れており、細胞内イメージングに適している。実際に DNs-CV を GST 発現細胞に適用したところ、 GST 活性由来の強い蛍光が観察され、この蛍光プローブが GST 活性のイメージングに応用できることを示している。
 以上のように、これらの蛍光プローブはこれまで達成しえなかった GST 活性の特異的な検出や細胞内イメージングを可能にしている。GST の細胞内機能は酵素活性のみならず、その細胞内局在が重要となってきており、このような蛍光プローブを用いた GST 活性の細胞内イメージングは新しい研究ステージを切り開くものと期待される。

Fig1

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参考文献


1) K. Briviba, G. Fraser, H. Sies and B. Ketterer, Biochem. J., 1993, 294, 631.

2) Y. Fujikawa, Y. Urano, T. Komatsu, K. Hanaoka, H. Kojima, T. Terai, H. Inoue and T. Nagano, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 14533.

3) J. Zhang, A. Shibata, M. Ito, S. Shuto, Y. Ito, B. Mannervik, H. Abe and R. Morgenstern, J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 14109.

 

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