第16回フォーラム・イン・ドージン開催報告


RNA干渉−その可能性−


第16回フォーラム・イン・ドージンの様子 第16回のフォーラム・イン・ドージンが12月2日、熊本市の鶴屋ホールで開催された。今年は「RNA干渉−その可能性−」と題して、多比良先生(東大院工)、宮岸先生(東大院医)、桑原先生(産総研)、野村先生(九大院理)、西原先生(創価大工)、小原先生(東京都臨床医学研)、落谷先生(国立がんセンター)、横田先生(東京医科歯科大)の8名の講演が行われた。当日は朝からあいにくの雨模様であったが、延べ参加者数は地元の大学を中心に約130名と例年より多く、RNAiへの関心の高さが窺われた。多比良先生の基調講演に続き、遺伝子機能解析への応用、さらには臨床応用など、RNAiの可能性や課題などその広がりと深さについての熱心な議論があった。多比良門下の宮岸、桑原両先生はそれぞれ、siRNA発現ライブラリーを用いた機能遺伝子探索と、non-coding RNAによる神経新生について話された。野村先生と西原先生は、それぞれ線虫とショウジョウバエの違いはあるものの、RNAi の糖鎖機能の解析への応用について講演された。
 最後に臨床の立場から小原先生、落谷先生、横田先生がそれぞれ、HCV、転移性がん、神経疾患のsiRNAによる治療の可能性について議論された。臨床応用を考えると、vivoでのデリバリーが重要な課題のようである。

第16回フォーラム・イン・ドージンの様子 ヒトの遺伝子の数は思いのほか少なく、DNAの殆どは遺伝子をコードしない意味のない不要なジャンク領域だと思われていたのが、実はその大半がRNAに転写され遺伝子発現の調節を行っているらしい。これは、ワトソン・クリックによるDNA二重ラセン構造の発見から僅か50年余りしか経っていないが、その間に起こった生物学上の発見でもとりわけ大きなインパクトを持っている。
 生命についての我々の理解はまだまだ遠く及ばない。今回のテーマであるRNAiは、その新しい生物学を産みだす原動力になっている。そういった大きな潮流のなかにある今こそ、このテーマを取り上げるのに相応しい気がしていたが、今回はこの分野で世界的に活躍されている多比良先生に演者の先生方の選定もお願いした。多忙を極める同先生の快諾が得られた段階で、半ばフォーラムの成功は約束されたようなものであったが、開催地熊本という不利な条件になか、学術的に質の高い内容にするには、演者の先生方の顔ぶれが特に重要である。その意味で今回も、お世話いただいた山本先生(熊大院医薬)、多比良先生のおかげで非常に充実した内容になったと思っている。また、参加者の反応も総じて良かったせいか、来年のテーマにはRNAの続編という声も聞かれた。恐らく今回の内容だけでは、新しく起こっている生物学の潮流を十分伝えきれなかったのではないか。non-coding RNAの役割については、次回のテーマとしても検討する必要があるかも知れないと感じた。このフォーラムは15年前、小社が現在の地に移転したのをきっかけに細々と始めたが、その頃の要旨集を見ると、生物学の進歩には隔世の感がある。

尚、要旨集をご希望の方は小社カスタマーサービス部までご連絡 下さい。 (佐々本 一美)


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