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楠 仁美 |
宮田 哲 |
[ Summary ]
Nonenzymatic glycation has been proposed as one of the major mechanisms via which hyperglycemia mediates diabetic microangiopathy. In fact, several studies demonstrated that the formation of advanced glycation end products (AGEs) was accelerated in diabetic patients. It is therefore important to clarify the pathway involved in the formation of AGEs. In vitro experiments had shown that 3-deoxyglucosone (3-DG) was a highly reactive intermediate and a potential precursor of AGEs detected in vivo such as pyrraline and imidazolone compound. In addition, several lines of evidence have suggested the possibility that free 3-DG per se affects cell functions in vascular tissues. Thus, it seems important to determine 3-DG level in vivo for elucidating the mechanisms underlying diabetic complications . We here report a specific assay of 3-DG in blood samples. Since it was difficult to detect free 3-DG as the substance was unstable, we attempted to convert 3-DG to a stable compound, 2-(2,3,4-trihydroxy butyl)benzo[g]quinoxaline, by reacting with 2,3-diaminonaphthalene. The derivative had a characteristic UV absorbance and fluorescence, making it possible to use the results of HPLC analysis at a later stage. This specific determination of 3-DG seems a good tool to investigate mechanisms of diabetic complications.
キーワード:3-deoxyglucosone、グリケーション、糖尿病合併症、HPLC
糖尿病細小血管症は、持続する高血糖のために発症進展する病態
で、多くの糖尿病患者の予後を決定している。その成因の一つとし
て、蛋白質の糖化反応(メイラード反応)の関与が指摘され、糖化
反応終末産物(AGEs: advanced glycation end products)と糖尿病性腎症などの糖尿病合併症との関連について報告がなされてき
た。つまり、AGEsで修飾された組織蛋白質は、本来の構造や機能
に変化をきたし、さらにAGEs修飾蛋白質が細小血管構成細胞に作
用してサイトカインなどの分泌を介して組織障害を誘引することが
提唱されている。このAGEs形成に至る糖化反応後期段階では、反
応性の高い中間体が生成することが知られており、3- deoxyglucosone(3-DG)はその代表的物質の一つである。この
中間体が、再び蛋白質と反応することによってAGEs形成を促進す
る。AGEsの中で糖尿病患者の血中濃度増加や腎組織に蓄積してい
ることが確かめられたpyrraline1)やイミダゾロン化合物
2)は3-DGと蛋白質の反応で形成する3) 。また、3-DGは、これらのAGEs形成を介して血管組織を傷害するだけではなく、freeの3-DG自体が
直接、血管壁構成細胞に作用する可能性も指摘されている。その作
用機序の一つとして、細胞内の抗酸化酵素を不活性化することに
よって細胞内酸化ストレスを惹起することなどが示唆されている
4)。
これらの研究成果を考慮すると、生体内の3-DGを定量すること
が、糖尿病血管合併症の成因解析に必須と考えられたが、3-DGの
ようなジカルボニル化合物は非常に不安定であったことがその定量
を困難にしていた。そこで、今回紹介するように3-DGをまず安定
な誘導体に変換し、それを定量する方法を導入することによって生
体由来サンプルの3-DG特異的定量を可能にした。
3-DGを2,3-diaminonaphthaleneと反応させると安定な2- (2,3,4-trihydroxybutyl)benzo[g]quinoxaline(Fig.1)が形成する。この安定誘導体は特異的な吸光度特性および蛍光特性を有するので、UV検出器あるいは蛍光検出器によって検出できる。生体 由来サンプルの場合は、他の物質との分離を要するので、HPLCやgas chromatographyなどを利用して定量することになる 6,7)。以下に、我々の採用しているHPLCを利用した標準的な定量法を 述べる。
検体(血清、血漿など)1mlに内部標準として0.005% 2,3- pentanedione 0.05 mlを加えた後、6%過塩素酸1mlを加えて脱蛋白する。遠心(3000rpm、20分間)によって得た上清に飽 和炭酸水素ナトリウム2mlを加えて中和した後0.1% 2,3- diaminonaphthalene 0.1 mlと4℃でover nightで反応させる。それに酢酸エチル4mlを加えて反応生成物を抽出し、蒸発乾固し た後0.2mlメタノールにて再溶解したものをHPLC解析に供する (Fig.2)。
HPLCカラムはTSK ODS-80TM4.6×250 mmを使用した。移動相として、A液(50
mMリン酸:アセトニトリル:メタノール=70:15:15)およびB液(50 mMリン酸:アセトニトリル:メタノール=20:40:40)を作製し、30分から35分にかけて溶
液Bを0%から100%に増量させるgradient法を用いた。流速は 1.0 ml/分、検出波長UV268
nm、蛍光検出では503 nm(励起波長271 nm)で分離した。
UVおよび蛍光のいずれの検出においてもFig.3に示すように同
じ溶出時間に単一ピークが出現した。このラット血漿由来のピー
クが本当に3-DG由来であるかを確認する目的でこのピークを分 取しGC/MSにて解析したところ、Fig.4に示すように2-(2,3,4- trihydroxybutyl)benzo[g]quinoxalineの構造を示唆するものであ
り、3-DG標準物質を誘導体化した検体から分取したパターンと一
致した。
種々の既知濃度の3-DG標準液を作製し、上記に従ってHPLC を行う。3-DG由来誘導体のピーク高と内部標準由来のピーク高 の比は、元の3-DG濃度と正比例する(Fig.5)。この検量線を利 用して、検体中の3-DG由来ピーク高と内部標準のピーク高の比 から検体の3-DG濃度を求める。従って、検量線を得るための既 知濃度3-DG標準液の誘導体化反応およびHPLC解析は、実験ご とに測定検体と同時に行う必要がある。
3-DGはグルコースと蛋白質の非酵素的糖化反応により形成され る以外に、フルクトース経由の産生経路も存在する。糖尿病患者 においては、血中グルコースの増加とともにポリオール経路を介 したフルクトース形成も増加するため3-DG産生は亢進状態にあ ると考えられる。一方、生体内には3-DGを非活性物質に代謝す る防御機構が存在し、中でもアルデヒド還元酵素の重要性が指摘 されている。これに関連して、糖尿病ラットを用いた実験で、こ のアルデヒド還元酵素自身が糖化を受けてその活性が低下してい ることが報告されている8)。このように糖尿病では、3-DGの産生 亢進と代謝低下により組織内3-DG濃度は上昇することが考えら れる。今回紹介した方法を用いて測定した我々の結果でも糖尿病 患者の血清3-DG値は、コントロール群に比較して有意な上昇を 認めている(Fig.6)。現在、糖尿病合併症の発症・進展と3-DG濃 度の関連および3-DGの作用についての検討を続けている。
参考文献
1) S. Miyata and V. Monnier, J. Clin. Invest. 89, 1102(1992).
2) T. Niwa, T. Katsuzaki, S. Miyazaki, T. Miyazaki, Y. Ishizaki, F. Hayase, N. Tatemichi and Y. Takei, J. Clin. Invest., 99, 1272, (1997).
3) F. Hayase, R. H. Nagaraj, S. Miyata, F. G. Njoroge and V. M. Monnier, J. Biol. Chem., 264, 3758, (1989).
4) W. Che, M. Asahi, M. Takahashi, H. Kaneto, A. Okado, S. Higashiyama and N. Taniguchi, J. Biol. Chem. 272, 18453, (1997).
5) H. Yamada, S. Miyata, N. Igaki, H. Yatabe, Y. Miyauchi, T. Ohara, M. Sakai, H. Shoda, M. Oimomi, and M. Kasuga. J. Biol. Chem., 269, 20275, (1994).
6) H. Odani, T. Shinzato, Y. Matsumoto, J. Usami and K. Maeda, Biochem. Biophys. Res. Commun., 256, 89, (1999).
7) S. Lal, F. Kappler, M. Walker, T. J. Orchard, P. J. Beisswenger, B. S. Szwergold and T. R. Brown, Arch. Biochem. Biophys., 342, 254, (1997).
8) M. Takahashi, Y. B. Lu, T. Myint, J. Fujii, Y. Wada and N. Taniguchi, Biochemistry, 34, 1433, (1995).
著者紹介 | |
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氏 名 | 楠 仁美 (Hitomi Kusunoki) |
神戸大学医学部第二内科 | |
出身大学 | 高知医科大学(1992年卒) |
現在の研究テーマ | 糖尿病合併症の成因解明 |
氏 名 | 宮田 哲 (Satoshi Miyata) |
神戸大学医学部第二内科 | |
出身大学 | 神戸大学医学部(1984年卒) |
現在の研究テーマ | 糖尿病合併症の成因解明 |
連絡先 | 〒650-0017 神戸市中央区楠町7-5-1 TEL(078)382-5861 FAX(078)382-2080 |
品 名 | 容量 | 価格(¥) | メーカコード |
3-Deoxyglucosone | 10mg | 14,000 | D535 |
3-Deoxyglucosone Detection Reagents | Set | 18,500 | D536 |