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脂肪滴と様々なオルガネラとの接触

Lipid droplets contact with various organelles

加藤 裕紀
宮崎大学医学部機能生化学
特任助教
西頭 英起
宮崎大学医学部機能生化学
教授

Abstract
 Lipid droplet is the important storage organelle responsible for lipid and energy homeostasis. Its structure is surrounded by the phospholipid monolayer containing specific proteins, and encloses neutral lipids.  Lipid droplets formed from the endoplasmic reticulum associate with a various types of organelles via membrane contact sites. It is revealing that these contacts between lipid droplets and other organelles are quite dynamic and are contribute to the cycle of lipid droplet swelling and contraction. Synthesis and degradation of lipid droplets, as well as interactions with other organelles are closely related to the cellular metabolism and are also important for buffering lipid toxicity.

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1.はじめに

 脂肪酸などの脂質は、細胞膜およびシグナル伝達メディエータの重要な構成要素であるとともに、エネルギー貯蔵の観点からも必須の分子である。長い間、脂肪の単なる細胞質内封入体と認識されてきた脂肪滴は、脂質およびエネルギー恒常性において重要な機能を持つオルガネラとして、近年特に注目されている 1, 2。その脂肪滴は、様々なタンパク質を内包したリン脂質単分子層で囲まれた中性脂質からなる独特の微細構造を持つ。脂肪滴は、生合成による増大とリパーゼによる脂肪の分解消費、または選択的自食作用(リポファジー)を繰り返す極めて動的なオルガネラである。栄養過多な状態で貯蔵された脂質は、栄養飢餓時のエネルギー生産または膜形成におけるリン脂質合成のために動員される。 また、脂質毒性を緩衝したり酸化ストレスからの防御においても重要な役割を担う。このような脂肪滴は、小胞体からその構成成分を供給されて生合成され、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、リソソーム、核などほとんどのオルガネラと接触し、その相互作用によりお互いのオルガネラの機能を調節、維持している。本総説では、脂肪滴と他のオルガネラの接触およびそこで繰り広げられる物質の授受が、細胞の代謝に重要な役割を果たすことを紹介する。

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2.脂肪滴の形成

 近年多くの研究により脂肪滴生合成のメカニズムが明らかにされつつあるが、未だ不明な点も多い。脂肪滴生合成の最初のステップは中性脂質(主にトリアシルグリセロール[TAG]とステロールエステル)の合成である。これらはそれぞれ、脂肪酸のジアシルグリセロールまたはステロール(コレステロールなど)へのエステル化から生じる。それぞれの段階には異なる酵素反応が関与しており、そのほとんどの酵素(コレステロール O- アシルトランスフェラーゼやジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼなど)は小胞体に局在している(図 1)。これらの酵素によって合成された TAG が小胞体の脂質二重膜間に蓄積することで直径が 30 〜 60 nm のレンズと呼ばれる脂肪滴の初期構造が形成される(図 13。この中性脂質レンズが小胞体全体に形成されるのか、あるいは特定の部位だけで形成されるのかは不明である。 近年、蛍光タンパク質を融合した TAG 合成酵素の遺伝子導入により、生細胞でのレンズ形成のメカニズムを時空間的に解析することが可能になった4。拡大した中性脂質レンズは、COPU 小胞のように小胞体から被覆タンパク質によって出芽する(図 15。 一方 in vitro の実験では、内容物量の増大に伴う膜表面張力によって出芽可能であることも示されている 6, 7。つまり、中性脂質を親水性の細胞環境に曝露することによる表面張力という物理的エネルギーが、球状の脂肪滴の出芽に重要であることを示唆する。生理的条件下で脂肪滴出芽の全てが細胞質側に向かって起こることは、小胞体内腔側と細胞質側の張力の不均衡が厳密に制御されていることを示す。実際、小胞体膜貫通型の fat storage-inducing transmembrane (FIT) タンパク質の欠損により、脂肪滴の出芽が抑制され、小胞体内腔側膜に埋め込まれた中性脂質レンズが蓄積する 3。また、 Perilipin や Seipin の欠損細胞は、脂肪滴出芽の遅延を示すことから、これらの分子は脂肪滴形成に必須の分子と考えられるが 4, 8, 9、その詳細な分子メカニズムについては未解明な点も多い。
 出芽後、脂肪小滴同士の融合、小胞体膜との架橋を介した脂肪小滴への TAG の転移、または直接脂肪小滴表面での TAG 合成により、脂肪滴は拡大する(図 1)。形成された脂肪滴は、不可逆的に独立しているわけではなく、COPT 被覆小胞複合体構成要素によって、小胞体膜と再接触(図 2)することが可能になるが、なぜ小胞体との特異的な接触が可能なのかについては不明である。 網羅的解析により脂肪滴局在タンパク質群が同定され、複数の手法によって解析された共通の分子として、 100〜 150 のタンパク質が構成因子であることが示されている10-14。それらの中には、Perilipin タンパク質群の他にも、膜輸送やタンパク質分解のような脂肪滴とは一見無関係な機能を有するタンパク質も存在しており、このことは脂肪滴の多様な生理的機能を示唆する。これらの脂肪滴局在タンパク質には、小胞体膜から脂肪滴膜に移動するタイプ(クラスT)と細胞質から脂肪滴表面に動員されるタンパク質(クラスU)に分類される。多数のタンパク質群がどのようにして脂肪滴に運ばれ、その挙動および機能に影響するかについては、今後の解析が必要である。

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3.脂肪滴との膜接触

 生合成中に形成される小胞体との膜架橋に加えて、脂肪滴は殆どの種類のオルガネラと会合する(図 2)。近年の革新的な顕微鏡技術と蛍光プローブの開発により、マルチ蛍光イメージングを用いたオルガネラ間接触に関する画期的な研究結果が報告された 15。 6 種類のオルガネラを同時に時空間的に観察することで、一つの脂肪滴は小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、リソソーム、ペルオキシソームとの間で複数のオルガネラと接触し、その接触面は特徴的かつ動的な分布を示すことが示された。これらの接触は、脂質、代謝産物およびイオンの交換やオルガネラの分裂と輸送に不可欠である 15-17。しかし、脂肪滴-オルガネラ接触部位について、架橋複合体を形成する分子の正体、それらの調節機構と機能については未解明な部分が多く残されており、現在の細胞生物学研究におけるホットトピックスの一つといえる。

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4.脂肪滴-小胞体間接触

 酵母では、脂肪滴は小胞体膜と連続したままで、細胞質へ遊離しない 18)。一方、哺乳類細胞においては、一旦分離するにもかかわらず、約 85%もの脂肪滴が小胞体と再接触する(図 2図 3A15)。また、がん細胞の電子顕微鏡トモグラフィー解析では、ほとんどの脂肪滴が小胞体と複数の接触面を有することが示されている 19)。ヒト細胞における BSCL2 遺伝子(Seipin)の欠失は、脂肪滴-小胞体間の接触を阻害し、多くの脂肪滴が小胞体から完全に分離する。しかし、別の研究では脂肪滴-小胞体接触において Seipin 以外の分子の関与も示唆されている 4)。他の架橋分子として、 DGAT2、 Ice2、 RAB18 および SNARE タンパク質(Syntaxin18、 USE1、 BNIP1)などが報告されている 20-22)。しかし、これらはいずれもその欠失細胞で必ずしも脂肪滴の架橋が消失するわけではないことから、脂肪滴-小胞体接触の分子メカニズムは、細胞の種類と環境に依存すると考えられ今後の詳細な解析が待たれる。

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5.脂肪滴と核膜接触

 脂肪滴は、小胞体膜から出芽して細胞質側に形成されるが、小胞体膜から繋がる核の内膜から脂肪滴が生合成されることはないと考えられてきた。しかし、出芽酵母を用いた実験から、核の内膜と外膜の脂質組成が異なること、さらに脂質合成を担う酵素が核内膜にも存在することが示された。このことは、これまで内膜の脂質は小胞体から繋がる外膜から受動的に送り込まれるものと予想されていた説を覆すものである。更に、特殊な検出方法により、核の内膜と外膜を分離して蛍光イメージングすることで、内膜から脂肪滴が放出されることが示された 23)。この核内脂肪滴は、遺伝子発現を介して脂質代謝を担う(図 2)。これらの研究は、核の内膜にも脂肪滴を生合成する能力が備わっていることを明確に証明しているが、出芽酵母の遺伝子変異体を用いた特殊な状況での表現型であることから、より生理的条件での解析が期待される。一方、哺乳類では、肝細胞の核内に脂肪滴が存在することがすでに示されており、この核内脂肪滴は PML body と接触することで脂肪酸エステルを合成することに寄与している(図 224)

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6.脂肪滴-ミトコンドリア接触

 栄養欠乏の条件下では、脂肪分解またはリポファジーによって脂肪滴から放出された脂肪酸が、β酸化およびクエン酸サイクルによるエネルギー産生のためにミトコンドリアによって消費される。これらの脂肪酸の授受は、脂質毒性軽減の観点から、おそらく膜接触部位で起こると予想される。この仮説を支持する実験結果として、脂肪滴-ミトコンドリア接触は、培養細胞の栄養欠乏や骨格筋運動によるエネルギー消費によって増加する 15, 25-28)。この両オルガネラ膜の空間的近接によって、細胞質に遊離脂肪酸を放出することを防ぎ、脂肪毒性あるいは予期せぬ脂質シグナル伝達を防止することが可能になる 23, 26)。一方、褐色脂肪細胞では、脂肪滴に接触するミトコンドリアと遊離型のミトコンドリアを比較することで、上記と反対の現象も報告されている。すなわち、脂肪滴接触型ミトコンドリアはβ酸化を減少させ、反対に ATP 合成を増大させ、TAG 合成に必要な局所的脂肪酸活性化のために ATP を供給する。これによって、接触型ミトコンドリアは脂肪滴の生合成を促す 29)。この脂肪滴接触型ミトコンドリアは著しく伸長していることから(図 2図 3B)、脂肪滴接触面には、ミトコンドリアの分裂/融合ダイナミクスを制御する分子機構が備わっていると考えられる。このような接触面形成の分子機構として、PLIN5 (Perilipin ファミリー)の過剰発現がミトコンドリアを劇的に脂肪滴周辺に動員することから、両オルガネラ間の架橋分子の一つと考えられる 29, 30)。褐色脂肪細胞では、PLIN1 と mitofusin2(Mfn2)の結合も両オルガネラ架橋に関係するが 31)、Mfn2 はミトコンドリアの融合に必須の分子であるため、 Mfn2 欠損細胞における脂肪滴-ミトコンドリア接触の減少は、ミトコンドリアダイナミクスの変化による可能性も否定できない。

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7.脂肪滴-ペルオキシソーム接触

 脂肪滴と同様に、ペルオキシソームは脂質およびエネルギー代謝において中心的な役割を果たす。酵母のペルオキシソームは脂肪酸β酸化の唯一の場であり、ヒトではほとんどの β酸化がミトコンドリアで起こるが、ペルオキシソームは超長鎖脂肪酸と分岐脂肪酸のβ酸化に必須のオルガネラである。このように、 β酸化に不可欠なペルオキシソームを機能阻害させたマウスでは、肝臓に肥大した脂肪滴が蓄積する 32)。ペルオキシソームが脂肪滴と接触することは脂肪酸代謝の観点から合理的であるが、その分子メカニズムは不明である 15)。炭素飢餓に曝された酵母では、ペルオキシソームが脂肪滴との接触を増大させ、 pexopodia と呼ばれる突起を脂肪滴内へと浸潤させ、脂肪滴膜はペルオキシソーム脂質二重膜の外側リン脂質と融合する(図 2)。これにより、ペルオキシソームに局在する酵素が脂肪滴に貯蔵されている TAG に直接作用するか、またはタンパク質輸送を促進することを可能にしていると考えられる 32)

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8.脂肪滴-リソソーム(液胞)接触

 哺乳類細胞のリソソームも脂肪滴と相互作用する 15,33, 34)。この両オルガネラ接触を介して、脂肪滴膜表面タンパク質はオートファジーの一種であるシャペロン媒介性オートファジーにより分解される(図 233)。シャペロン媒介性オートファジーでは、 heat shock cognate 71 kDa protein(HSC70)によって認識される特殊なアミノ酸配列を持つ基質は、リソソーム表面に搬送され、 Receptor lysosome-associated membrane protein 2a(LAMP2a)を介してリソソームの内腔に転移され分解される 8)。興味深いことに、LAMP2a 欠損マウスは脂肪肝を示し、 LAMP2a 欠損線維芽細胞は、脂肪滴の増加および TAG 含有量の増加と脂肪酸酸化の減少を示す 33, 35)。すなわち、 LAMP2a は中性脂質代謝を制御する。 PLIN2 および PLIN3 は HSC70 認識配列を持ち、低栄養環境に反応して HSC70 と結合し、シャペロン媒介性オートファジーにより分解される 33, 36)。シャペロン媒介性オートファジーを欠失した細胞でのPLIN2 の蓄積は、脂肪分解とリポファジーによる脂肪酸代謝を減少させる 33)。このような報告から、シャペロン媒介性オートファジーと PLIN2 および PLIN3 との直接的相互作用が、脂肪滴-リソソーム接触の形成に寄与しており(図 2)、これが脂肪滴の代謝を制御していると考えられる。脂肪滴へのリソソームの動員は、リポファジーに関与する Rab7(GTPase)によっても調節されているが 34)、Rab7 がシャペロン媒介性オートファジーにおいて機能するかどうかは、今後の解析を必要とする。
 酵母では、液胞が後生動物のリソソームに相当する。脂肪滴は、増殖条件下では酵母細胞全体に小胞体に沿って形成され、飢餓時には核周囲小胞体-液胞接触部の周囲に出芽により生合成される(図 237)。核周囲小胞体-液胞接触膜の小胞体側の架橋分子 Mdm1 は、脂肪滴生合成において特に重要な役割を持ち、その過剰発現は脂肪滴生合成を促進する 37)。哺乳類の Mdm1 オルソログの SNX14 は、小胞体局在タンパク質であることから 38)、Mdm1(SNX14)は、脂肪滴-液胞-小胞体の 3 オルガネラ接触に関与することが推察される。さらに、Lipid droplet organization protein of 16 kDa protein(Ldo16)と Ldo45 は Seipin に結合し、核周囲小胞体-液胞間での脂肪滴生合成に関与する 39, 40)。しかし、 Ldo16、 Ldo45 が脂肪滴との架橋分子として機能するかは不明である。酵母の培養条件によって核周囲小胞体、液胞と脂肪滴の 3 オルガネラの接触形態は異なるが、いずれにしても液胞-脂肪滴間の接触は酵母における脂質代謝の中心的役割を担う場であるといえる。

9.これからの展望

 脂肪滴は、近年とくに注目を集めるオルガネラであり、脂質代謝においてのみならず様々な分野で重要な知見が次々と報告されている。その生合成過程および他のオルガネラとの接触のメカニズムについては、未だ不明な点が多く残されているが、脂肪滴の生合成に必要な分子が遺伝学的研究を中心に同定され、今後様々な生物種や環境条件下での解析が期待される。超解像顕微鏡の革新的発達に伴い、脂肪滴と他のオルガネラ接触部位に関する時空間的な解析が進みつつあり、その生理的意義についても今後明らかになるであろう。一方で、現在のイメージングは、オルガネラ局在タンパク質に比較的大きな蛍光タンパク質を融合した外来性タンパク質発現に依存するため、必ずしも生理的条件を担保しているとは言えない。その点で、近年急速に開発が進みつつある低分子オルガネラプローブは、内在性タンパク質の発現バランスを変えることなく解析が可能であり、その進化が大いに期待される。 超解像顕微鏡とオルガネラ検出プローブの飛躍的進歩により、脂肪滴の形成および動態を制御するメカニズムの詳細な理解が進み、最終的には代謝性疾患の分子メカニズムの理解に繋がるであろう。

著者プロフィール
氏名 加藤 裕紀(Hironori Kato)
所属 宮崎大学 医学部 機能生化学
〒889-1601 宮崎市清武町木原 5200
TEL:0985-85-3127
出身学校 山梨大学大学院医学工学総合教育部
学位 博士(医科学)
専門分野細胞生物学、オルガネラ、ストレス応答
氏名 西頭 英起(Hideki Nishitoh)
所属 宮崎大学 医学部 機能生化学
〒889-1601 宮崎市清武町木原5200
TEL:0985-85-3127
出身学校 東京医科歯科大学大学院歯学研究科
学位 博士(歯学)
専門分野 細胞生物学、オルガネラ品質管理
    
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