脚注2:ファージベクターとファージミドベクター

    ファージディスプレイに用いられるベクターはファージベクターと ファージミドベクターの2種に分類できる。ファージベクターはファー ジゲノムを改良してベクター化したもので、一つのベクター内にファー ジの全ゲノムを含み、単独でファージを形成することが可能である。一 方、ファージミドベクターはファージへのパッケージングシグナルを含 んだプラスミドベクターであり、後述するヘルパーファージの重感染に よってのみファージを形成できる。ファージベクターとファージミドベ クターにはそれぞれメリット・デメリットがあり、使用目的に応じてど ちらを採用すべきか考えるべきである。それぞれのベクターの性質の詳 細については成書を参照されたい。

     当研究室では以下の3点の理由により抗体の提示にはファージベク ター系ではなくファージミドベクターの系を採用している。1つめは、 scFv を融合させるg3pはファージが大腸菌へ感染する際重要な分子で あり、1ファージあたり5分子あるg3p すべてにscFv を融合させるファージベクターの場合、感染効率が低下し、さらに抗体分子によって 感染効率にバイアスがかかるためである。2つ目は、g3p すべてにscFv を融合させた場合、抗体は多価となり、アビディティ−を考慮する必要 がでてくるからである。3つ目に、ファージミドベクターの場合、可溶 化scFv を大腸菌で発現させる場合に、余計なファージ構成タンパクが 発現されないため、他の発現ベクターへのサブクローニングが不要であ るという利点がある。

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