これからはじめる 老化細胞検出

細胞老化の評価

細胞種や酸化ストレスなど生理学的な細胞の状態など、様々な要因によって引き起こされる細胞老化は、これまで確認されている何れのバイオマーカーも老化細胞に特異的であるとはいえません。そのため、複数の指標から判断し確認することが望ましいとされています。細胞老化を評価する際の一般的な検出指標としては、細胞周期(DNA合成、p16/p21発現など)や細胞形態(細胞や核、核小体など)、SA-β-Gal活性、DNA損傷、酸化ストレス(ROS)、テロメア長、炎症性サイトカイン(Senescence Associated Secretory Phenotype: SASP)などが挙げられます。

細胞老化とは?

1981年Hayflickによって報告された細胞老化は、肺繊維芽細胞を8ヶ月以上継代培養した際に途中で増殖が遅くなり、細胞死に至ったことが発端となり発見されました。細胞複製による老化が発端で発見された細胞老化は、その後の研究でテロメア長の縮小化だけでなく、がん遺伝子の活性化や酸化ストレス、DNA損傷等の外的要因でも引き起こされることが明らかとなりました。遺伝的要因と外的要因が複雑に関与している細胞老化の誘導メカニズムや制御機構の全貌は解明されていませんが、がんや種々の加齢性疾患と密接な関係性が示唆されており活発な研究が進められています。また体内の老化細胞を排除する薬剤(セノリティックドラッグ)の開発も健康寿命を伸ばす可能性があるとして注目されています。

細胞老化に関連する指標

関連指標の相関マップ

細胞の生存および死をコントロールするために備わったアポトーシスやネクロ―シス、オートファジー、細胞老化は、細胞内機能を理解するうえで非常に重要です。その中でも細胞老化は、近年ガン化因子として知られるSASP の発見や、Stem cell 分野での老化現象の発見など、各分野で重要視されてきています。

本相関マップでは、細胞老化を起点に様々な細胞内指標との関連性を示しています。尚、これらの情報はこれまでに報告された論文を元に記載しています。下記の引用文献を掲載した表中には、実験の参考となる使用細胞、老化の誘導法、老化マーカー、老化による変動因子を記載していますのでご参照ください。

 

上記①~⑦の引用文献
※ 表中の老化マーカーおよび変動因子のリンクをクリックすると測定キット・試薬ページが開きます。
 

使用細胞

老化誘導

老化マーカー

老化による変動因子

引用文献

IMR90
(ヒト肺線維芽細胞)

継代老化

SA-β-Gal、p16、p21、
核小体肥大化

SETD8 発現 ↓H4K20me1 ↓、
酸化的リン酸化 ↑、リボソーム合成 

H. Tanaka, S. Takebayashi, A. Sakamoto, N. Saitoh, S. Hino and M. Nakao, “The SETD8/PR-Set7 Methyltransferase Functions as a Barrier to Prevent Senescence-Associated Metabolic Remodeling.”, Cell Reports201718(9), 2148.

SETD8 (メチル化酵素)
発現抑制

酸化的リン酸化 、リボソーム合成 

老化マウス衛星細胞
(骨格筋前駆細胞)

SA-β-Gal、p16 

オートファジー活性 ↓、活性酸素種 
ミトコンドリア膜電位 

L. Garcia-Prat, M. Martinez-Vicente and P. Munoz-Canoves, “Autophagy: a decisive process for stemness”, Oncotarget20167(11), 12286.

Atg7ノックアウトマウス(衛星細胞)

オートファジー阻害

SA-β-Gal、P15、p16、p21、γ-H2AX

活性酸素種 ↑、ミトコンドリア膜電位 

二型糖尿病モデルラット線維芽細胞

SA-β-Gal、p21、p53、
γ-H2AX 

NADPH / NADP (酸化ストレス耐性 
NADPH oxidase ↑、活性酸素種 

M. Bitar, S. Abdel-Halim and F. Al-Mulla, “Caveolin-1/PTRF upregulation constitutes a mechanism for mediating p53-induced cellular senescence: implications for evidence-based therapy of delayed wound healing in diabetes”, Am J Physiol Endocrinol Metab.”, 2013305(8), E951.

IMR90

Ethidium Bromide (mtDNA阻害)+ピルビン酸欠失

SA-β-Gal 

NAD+ / NADH ↓

C. Wiley, M. Velarde, P. Lecot, A. Gerencser, E. Verdin, J. Campisi, et. al., “Mitochondrial Dysfunction Induces Senescence with a Distinct Secretory Phenotype”, Cell Metab.201623(2), 303.

MDA-MB-231
(ヒト乳がん細胞)

X線照射 + 細胞周期関連
因子(Securin)発現抑制

SA-β-Gal

乳酸 、LDH活性 ↑、(解糖系 

E. Liao, Y. Hsu, Q. Chuah, Y. Lee, J. Hu, T. Huang, P-M Yang & S-J Chiu, “Radiation induces senescence and a bystander effect through metabolic alterations.”, Cell Death Dis.20145, e1255.

MEF
(マウス胎児線維芽細胞)

がん遺伝子過剰発現、
継代老化、転写因子過剰発
(E2F1)

SA-β-Gal、p16、p21、
核小体肥大化

リボソームRNA p53 

K. Nishimura, T. Kumazawa, T. Kuroda, A. Murayama, J. Yanagisawa and K. Kimura, “Perturbation of Ribosome Biogenesis Drives Cells into Senescence through 5S RNP-Mediated p53 Activation”, Cell Rep. 201510(8), 1310.

マウス尾部線維芽細胞

2ヶ月齢、22ヶ月齢、
p16ノックアウト
(22ヶ月齢)

SA-β-Gal、p14、p16

NAD+ ↓、SIRT3 

M. J. Son, Y. Kwon, T. Son and Y. S. Cho, “Restoration of Mitochondrial NAD+ Levels Delays Stem Cell Senescence and Facilitates Reprogramming of Aged Somatic Cells”, Stem Cells. 201634(12), 2840.

 

 

細胞周期の停止

不可逆的な細胞周期の停止は細胞老化を特徴づける現象の一つで、代表的なタンパク質マーカーとしてp16、p21、p53およびpRB(phosphorylated Retinoblastoma protein)の減少が知られており、細胞老化を判断する指標として用いられています。これらのマーカータンパク質は、がん抑制因子として知られており、主に2つの経路(p16Ink4a-RBとp53-p21CIP1)で細胞周期を調整しています。

<実験例>
抗がん剤として知られるDoxorubicin(DOX) は、細胞周期のG2/M 期に作用して細胞増殖を停止させ、細胞老化を誘導することが知られています(右図参照)。本実験例では、DOXをA549 細胞へ添加し、SA-β-Galの発現、細胞周期、ミトコンドリア膜電位の変化を確認しました。「細胞老化と細胞周期との関連性」(老化細胞検出キット内)で紹介しています。


 

細胞内代謝の変化

老化細胞は増殖能が低下したにもかかわらず、高い代謝活性を維持していることが知られています。一般的に老化細胞では、解糖系の亢進に加え酸化的リン酸化から好気性糖分解への転換とミトコンドリアの機能不全により、NAD+の減少、乳酸排出量の増加、AMP/ATP比の減少などが見られます。この様に細胞内代謝の変化と細胞老化は密接に関係しており、細胞老化の指標としてだけでなく、細胞老化をターゲットとした臨床および基礎研究において非常に重要です。細胞内代謝の学術ページでは、SIRT1が関連するNAD+量の変化、DNA損傷により老化した細胞など、細胞内代謝の変化に焦点をあてたマップを用いて紹介しています。
リンク先の"老化"タブをクリックください)

 

 

脂質蓄積(脂肪毒性)

非脂肪組織の細胞内に脂質が過剰蓄積し引き起こされる脂肪毒性(Lipotoxicity)は、がんや糖尿病、心不全、肥満に関与していると考えられています。また脂質蓄積が細胞内で引き起こされることで、細胞老化やミトコンドリア機能不全が見られることが明らかとなっています。こちらの図では、脂質の過剰蓄積により引き起こされる各種指標の変化を示しています。

<各指標と関連試薬のリンク一覧>

<参考文献>
Clara, C. et al., "Mitochondria: Are they causal players in cellular senescence?", Biochimica et Biophysica Acta - Bioenergetics, 2015, 1847(11), 1373-1379.
Huizhen, Z. et al., "Lipidomics reveals carnitine palmitoyltransferase 1C protects cancer cells from lipotoxicity and senescence", Journal of Pharmaceutical Analysis, 2020.
Xiaojuan, H. et al., "Astrocyte Senescence and Alzheimer’s Disease: A Review", Front. Aging Neurosci., 2020.
Borén, J. et al., "Apoptosis-induced mitochondrial dysfunction causes cytoplasmic lipid droplet formation", Cell Death Differ, 2012, 19(9), 1561-1570.
Na, L. et al., "Aging and stress induced β cell senescence and its implication in diabetes development", Aging (Albany NY), 2019, 11(21), 9947–9959.

 

 

細胞老化に関する学術記事

「細胞老化」の最近の動向と解析法
【セミナー動画】
細胞老化のバイオマーカー
【注目論文】
細胞老化と個体の老化・老年病
【DojinNews】
個体老化、細胞老化研究の最近の進歩
【DojinNews】
活性イオウによる心筋早期老化制
【DojinNews】

 

第1章 細胞老化とは(8分)
第2章 細胞老化研究と創薬(11分)
第3章 老化細胞の測定・解析法について(13分)

ケンブリッジ大学 Dr. Muñoz-Espín

細胞老化を判断する際のマーカーについて、図表を使って解説されています。論文中では、細胞老化の1次マーカーとして細胞周期、SA-β-Gal、核の変化を確認することを提唱しています。

Estela González-Gualda, Andrew G Baker, Ljiljana Fruk, Daniel Muñoz-Espín, A guide to assessing cellular senescence in vitro and in vivo, FEBS J., 2021, 288, 56.

東京大学医科学研究所 教授 中西 真

セノリティックス研究に大きなインパクトを与えた、2021年発表の論文(Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders)の著者 中西教授によるレビューです。

神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター センター長 教授 鍋島 陽一

老化・寿命の制御で重要な役割を担うとされるサーチュイン遺伝子を含め、個体老化と細胞老化の研究について幅広い内容でレビュー頂いています。

自然科学研究機構生理学研究所
教授 西田 基宏

活性イオウがもたらす代謝やレドックスシグナル、ミトコンドリアの制御についての事象を交えながら、細胞老化との関連性を解説頂いています。

 

 

学術記事

 

老化細胞検出用試薬の選択ガイド

小社では、細胞老化の評価方法および評価目的に応じて選択できるよう4 種類のキットおよび試薬をご用意しました。

製品名 Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal Cellular Senescence Plate Assay Kit - SPiDER-βGal DNA Damage Detection Kit – γH2AX Nucleolus Bright Green / Red
検出指標 SA-β-gal活性 SA-β-gal活性 DNAダメージの変化 核小体の変化
検出方法 イメージング
SPiDER-βGalを基質とした検出
プレートアッセイ
SPiDER-βGalを基質とした検出
イメージング
γH2AXを2次抗体法で検出
イメージング
RNA染色試薬による核小体検出
装置 蛍光顕微鏡
フローサイトメーター
蛍光プレートリーダー 蛍光顕微鏡 蛍光顕微鏡
波長(Ex/Em) 500 - 540 nm / 530 - 570 nm 535 nm / 580 nm Green: 494 nm / 518 nm
Red: 550 nm / 566 nm
Deep Red: 646 nm / 668 nm
Green: 513 nm / 538 nm
Red: 537 nm / 605 nm
サンプル 生細胞・固定化細胞
(組織:関連製品
で論文実績あり)
生細胞(生細胞を溶解し評価) 固定化細胞 固定化細胞
データ例
こんな方に
オススメ!
X-gal法では困難なデータの数値化や多重染色でお困りの方。 多検体処理をされる方。はじめて老化細胞を評価される方。お試し容量もご用意しています。 ROSが関与した老化現象を評価される方。免疫染色が未経験の方も気軽にお使い頂けます。 SA-β-gal以外の指標で評価されたい方。核小体を指標にした報告例を製品HPで案内しています。
製品コード SG03 SG05 Green: G265 / Red:G266
Deep Red: G267
Green: N511 / Red: N512

 

製品分類一覧

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