はじめに
一酸化窒素(NO) が情報伝達物質として多くの生理的現象に関与していることが明らかとなり、NOに関する研究が盛んに行われています。NO は水中で加水分解され最終的にNO2-とNO3- になるため、NO2-と同時にNO3-も測定する必要があります。本Kit は還元酵素を含み、NO3- をNO2-に還元できるのでNO2-とNO3-両方の濃度測定が可能です。本キットは1 ~ 10 μmol/lの濃度域に適しています。より高濃度の場合、「NO2/NO3 Assay Kit-C II」をご利用ください。
反応原理
NO2- の定量法であるGriess 法や2,3-Diaminonaphthaleneを用いた蛍光法は、NO の間接的定量法として良く用いられています。2,3-Diaminonaphthalene はGriess 試薬と同様にNO2-と反応し蛍光を発することから、より高感度にNO2-を定量することができます。本Kit は2,3-Diaminonaphthalene が酸性条件下でNO2-と反応して形成される蛍光性のナフタレントリアゾールを検出する方法(図1) を利用しています。この反応はpH2 以下で進行し、生成した付加体はpH10 以上で効率よく蛍光を発します。
図1. 2,3-Diaminonaphthalene とNO2-の反応機構
キット内容
Buffer Solution | x 1 |
NaNO2 Standard Solution (200 μmol/l) | x 2 |
NaNO3 Standard Solution (200 μmol/l) | x 2 |
NO3 Reductase | x 2 |
Enzyme Cofactors | x 2 |
Fluorescence Reagent (DAN) Solution | x 1 |
Stop Solution | x 1 |
保存条件
遮光、冷蔵(0 ~ 5°C) で保存してください。開封後も遮光、冷蔵保存してください。
Standard Solution および酵素が劣化することがありますので冷凍保存は避けて下さい。
使用時の注意
- 本キットにはガラス製容器及びアルミキャップを使用しております。保護手袋を着用するなど取扱にはご注意ください。
キット以外に必要なもの
- 蛍光マイクロプレートリーダー(λex=360 nm 〜365 nm, λem=450 nm 〜465 nm のフィルターを備えたもの)
- 上記のフィルターがない場合は最も近い波長の適当なフィルターを用いて下さい。
- 蛍光測定用( ブラックまたはホワイト)96 穴マイクロプレート
- マイクロピペット、チップ及びシリンジ
- このほかに、測定試料によっては除蛋白用の装置、試薬が必要となります。
溶液の調製
- NaNO2 Standard Solution 1 本にBuffer Solution( 又は培地)9 ml を加え、20 μmol/l のStandard Solution を調製する。
- NaNO3 Standard Solution 1 本にBuffer Solution( 又は培地)9 ml を加え、20 μmol/l のStandard Solution を調製する。
- NO3 Reductase 1 本にBuffer Solution 1.2 ml を加え、NO3 Reductase Solution を調製する。
- Enzyme Cofactors 1 本にBuffer Solution 1.2 ml を加え、Enzyme Cofactors Solution を調製する。
- NO3 Reductase 及びEnzyme Cofactors は、凍結乾燥品のため瓶内部が減圧になっています。減圧のまま開封すると中身が飛散する恐れがありますので、必ずBuffer Solution をシリンジで注入し、溶解後開封して下さい。
- 希釈・溶解後の溶液は冷蔵保存の上、2 週間以内に使用して下さい。
- NO3-を多く含む培地(RPMI1640 など) は使用できません。
- フェノールレッドを含む培地は使用できません。
検量線の作成
[NO2-] 検量線
- 96 穴マイクロプレートの検量線作成用の各ウェルにBuffer Solution( 又は培地)80 μl を分注する。20 μmol/l NaNO2 Standard Solution 80 μl をプレート上で系列希釈し、Standard を調製する( 図2 参照)。
- 各ウェルにBuffer Solution 20 μl を加え、全量を100 μl とする。
- 各ウェルにFluorescence Reagent (DAN) Solution 10 μl を加えよく混和する。
- 室温にて15 分放置した後、各ウェルにStop Solution 40 μl を加えよく混和する。
- マイクロプレートリーダーで蛍光強度(λex=360 nm 〜365 nm, λem=450 nm 〜465 nm) を測定する。
[NO2--+ NO3-] 検量線
- 96 穴マイクロプレートの検量線作成用の各ウェルにBuffer Solution( 又は培地)80 μl を分注する。20 μmol/l NaNO3 Standard Solution 80 μl をプレート上で系列希釈し、Standard を調製する( 図2 参照)。
- 各ウェルにEnzyme Cofators Solution 10 μl を加える。
- 各ウェルにNO3 Reductase Solution 10 μl を加え、よく混和する。
- マイクロプレートに蓋をし、37℃で30 分間インキュベートする。
- 室温まで放冷後、各ウェルにFluorescence Reagent (DAN) Solution 10 μl を加えよく混和する。
- 室温にて15 分放置した後、各ウェルにStop Solution 40 μl を加えよく混和する。
- マイクロプレートリーダーで蛍光強度(λex=360 nm 〜365 nm, λem=450 nm 〜465 nm) を測定する。
- [NO2--+ NO3-] 検量線は、酵素反応を利用してNO3- をNO2- に還元して測定します。本マニュアルではNaNO3 Standard Solution を用いていますが、NaNO2 Standard Solution を用いた場合も同じ検量線が得られます。
- [NO2--+ NO3-]] 検量線は、酵素等の影響により[NO2-] 検量線とはかならずしも一致しません。
- 蛍光光度計で測定する場合は Stop Solution 添加後の溶液を100 μl 取り、純水で4 mlに希釈し蛍光強度を測定して下さい。
- NO3 Reductase Solution とEnzyme Cofactors Solutionは、使用前に混合して使用せず、順次、添加して下さい。
- マイクロピペットを用いて96穴マイクロプレートの各ウェルに80 μlのBuffer Solution(または培地)を分注する。
- 20 μmol/lに希釈したStandard Solution 80 μlを10 μmol/l用のウェルに添加する。
- よくピペッティングして 80 μlを取り隣(5 μmol/l用)のウェルに添加する。
- 同様に80 μlを取り隣のウェルに添加する操作を繰り返す。
- 最後に80 μl捨てると、2倍希釈系列でStandardを調製することができる。
図2. 検量線作成方法の例
a)96穴プレートでの検量線レイアウト例 b)Standard Solutionの希釈方法。
検量線の例
図3. NO2/NO3 Assay Kit-FXを用いて測定した、[NO2-]と[NO2- + NO3- ]の検量線
a) Buffer Solution中 b) 培地(DMEM)中
試料の調製法
血清、血漿を試料として用いる場合
血清、血漿などのタンパク質を含む試料は除タンパクして使用して下さい。除タンパクの方法としてAmicon Ultra-4 Centrifugal Filter Unit with Ultracel-10 membrane ([UFC801008], Millipore社)等の遠心式限外ろ過ユニットが利用できます。トリクロロ酢酸などを用いての除タンパクも利用できますが、酸やアルカリで除タンパクした場合は、酵素反応が阻害を受ける可能性があります。その場合は、測定前に必ずpHを中性に戻してから測定して下さい。
細胞培養液を試料として用いる場合
培養液を1,000 × g (RT、15分間)で遠心分離し、その上澄みを測定試料として使用して下さい。なお、硝酸イオンを多く含む培地(RPMI1640など)はご使用できません。フェノールレッドを含む培地もご使用できません。
濁りがあるものを試料として用いる場合
濁りは測定値に影響を及ぼします。遠心分離、または濾過により濁りを取り除いてから測定試料として使用して下さい。
試料の測定
[NO2-] の測定
- 96穴マイクロプレートに試料80 μlを加える。
- 各ウェルにBuffer Solution 20 μlを加え、全量を100 μlとする。
- 各ウェルにFluorescence Reagent (DAN) Solution 10 μlを加えよく混和する。
- 室温にて15分放置した後、各ウェルにStop Solution 40 μlを加えよく混和する。
- マイクロプレートリーダーで蛍光強度(λex=360nm〜365nm, λem=450nm〜465nm)を測定し、[NO2-] の検量線から濃度を求める。
[NO2-+ NO3-] の測定
- 96穴マイクロプレートに試料80 μlを加える。
- 各ウェルにEnzyme Cofators Solution 10 μlを加える。
- 各ウェルにNO3 Reductase Solution 10 μlを加え、よく混和する。
- マイクロプレートに蓋をし、37℃で30分間インキュベートする。
- 室温まで放冷後、各ウェルにFluorescence Reagent (DAN) Solution 10 μlを加えよく混和する。
- 室温にて15分放置した後、各ウェルにStop Solution 40 μlを加えよく混和する。
- マイクロプレートリーダーで蛍光強度(λex=360nm〜365nm, λem=450nm〜465nm)を測定し、[NO2-+ NO3-] の検量線から濃度を求める。
[NO3-] の測定
本Kitでは[NO3-]のみの値は直接的には得られません。測定試料中の[NO3-]は[NO2-]と[NO2-+ NO3-]を用いて、下記の計算式により求めることができます。
[NO3-] = [NO2-+ NO3-] - [NO2-]
- 蛍光光度計で測定する場合は Stop Solution添加後の溶液を100 μl取り、純水で4 mlに希釈し蛍光強度を測定して下さい。
よくある質問/参考文献
NK08: NO2 /NO3 Assay Kit-FX(Fluorometric) 〜2,3-Diaminonaphthalene Kit 〜
Revised Dec., 06, 2023