はじめに
ミトコンドリアは、生命活動に必要なATP(アデノシン三リン酸)を合成する役割を担っています。ミトコンドリアにおける呼吸反応の中の電子伝達系は、ATP合成に必要なプロトン駆動力を生み出し、細胞内ATP産生に関与する重要な反応機構です。この電子伝達系は5つの酵素複合体(Complex I~V)から構成されており、Complex I(NADH:ユビキノン酸化還元酵素)は電子伝達系の出発点に位置します。この酵素はNADHからユビキノンへの電子伝達を介して、プロトンをミトコンドリアのマトリックスから膜間腔へ輸送します。Complex Iは、パーキンソン病などの神経変性疾患やミトコンドリア病、がんや老化などに関与しており、ミトコンドリア機能の解析や疾病の解明、薬剤開発を行う上で重要な酵素複合体の一つと考えられています。
本キットは、NADH酸化反応を指標として、分画したミトコンドリアのComplex I活性を比色測定することができます。また96ウェルプレートを用いて多検体を同時に処理できるため、Complex Iの薬剤スクリーニングにも適用できます。
IntactMito Fractionation Kit for Tissue (Code:MT17)により分画したミトコンドリアのComplex I活性測定を行う場合は、本キットをご使用ください。
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| 図1 MitoComplex-I Activity Assay Kitの測定原理 |
キット内容
| Assay Buffer | 25 ml × 1 |
| Assay Reagent | × 1 |
| Coenzyme | × 1 |
| Ubiquinone | × 1 |
保存条件
0–5 ℃で保存してください。
必要なもの(キット以外)
- エタノール
- プレートリーダー (340 nm の吸光フィルター)
- 96 穴マイクロプレート
- 10 μl および100 - 200 μl マルチチャンネルピペット
使用上のご注意
- キットの中の試薬は、室温に戻してからご使用下さい。
- 輸送中の振動等により、内容物がアシストチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
- 正確な測定値を得るため、1つの測定試料につき複数 (n=3 以上) のウェルをご使用下さい。
溶液調製
Assay reagent stock solutionの調製
Assay Reagentを含むチューブに超純水を1200 µl加え、ゆるやかにピペッティングをして溶解する。
※溶解後は-20 ℃で保存してください(1ヶ月安定)。
Coenzyme stock solutionの調製
Coenzymeを含むチューブに超純水を110 µl加え、ゆるやかにピペッティングをして溶解する。
※溶解後は-20 ℃で保存してください(1ヶ月安定)。
Ubiquinone stock solutionの調製
Ubiquinoneを含むチューブにエタノールを100 µl加え、ゆるやかにピペッティングをして溶解する。
※溶解後は-20 ℃で保存してください(1ヶ月安定)。
Working solution の調製
Assay reagent stock solution、Coenzyme stock solution、Ubiquinoe stock solution、Assay Bufferを必要量チューブに加え、ゆるやかにピペッティングしよく混ぜる。
※サンプル用およびブランク用の各3 well分の量を必要に応じて調製してください。
※調製後はその日のうちに使用してください。
Working solution 調製量
| 6 well | 96 well | |
| Assay reagent stock solution | 80 µl | 1200 µl |
| Coenzyme stock solution | 6.4 µl | 96 µl |
| Ubiquinoe stock solution | 6 µl | 90 µl |
| Assay Buffer | 307.6 µl | 4614 µl |
操作
- タンパク質濃度を調整した分画ミトコンドリア懸濁液を25 µl/wellずつ96 穴マイクロプレートに添加する。
※一晩以上凍結させたミトコンドリアを使用することを推奨しております。詳細は小社製品HP中のFAQをご確認ください。
※ミトコンドリア懸濁液のタンパク質濃度は5~20 μg/wellを推奨しております。
※ミトコンドリア懸濁液はAssay Bufferにてやさしくピペッティングし希釈してください。 - 各種阻害剤またはAssay Bufferを25 µl/wellずつ添加する。
※阻害剤溶液の調製はAssay Bufferを用いて行ってください。
※コントロールのウェルにはAssay Bufferのみ添加してください。 - 各wellにworking solution を50 µl添加する。
※泡立たないようにやさしく添加してください。 - すぐにプレートリーダー(25℃)で340 nm の吸光度変化(インターバル1 minで10~30分間)を測定する。
- 測定開始から直線性が得られる範囲を選択し、その区間における吸光度の変化率(傾き)を酵素活性として算出する。
※Complex I活性を正確に測定するには、Complex I 阻害剤であるRotenoneを使用し比較してください。

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| 図2 操作の流れ |
実験例
IntactMito Fractionation Kit for Tissue(Code: MT17)で分画したミトコンドリアの活性評価と阻害剤の効果確認
- IntactMito Fractionation Kit for Tissue(Code: MT17) を用いて分画したマウス脳由来のミトコンドリア懸濁液(タンパク質濃度 0.8 mg/ml)を25 µl/wellずつ96 穴マイクロプレートに添加した。
※ミトコンドリア懸濁液はタンパク質濃度0.8 mg/mlとなるようAssay Bufferを添加し、やさしくピペッティングすることで希釈した。 - ControlのウェルにAssay Bufferを25 µl/well、RotenoneのウェルにAssay Bufferで調製した10 µmol/l Rotenoneを25 µl/well添加した。
- ControlおよびRotenoneの各ウェルにWorking solution を50 µl/well添加した。
※泡立たないようにやさしく添加した。 - すぐにプレートリーダーで340 nm の吸光度を測定した(測定条件:インターバル1 minで10分間タイムコース測定、25℃)。
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| 図3 プレートレイアウト |
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| 図4 0-10minの吸光度変化 | 図5 ComplexⅠの活性 |
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測定開始から直線性が得られる範囲(本例では0-10 min)を選択し、その区間における吸光度の変化率(傾き)を酵素活性として算出した。
Complex I阻害剤であるRotenone添加時の吸光度変化とControlの吸光度変化から、Complex I活性は0.00244 (ΔAbs./min/mg protein)と算出した。
Complex I Activity = {Control (ΔAbs./min) – Rotenone (ΔAbs./min)}/protein (mg)
よくある質問/参考文献
MT18: MitoComplex-I Activity Assay Kit
Revised Nov., 25, 2025
を押して省略できます。






