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はじめに

 液‐液相分離 (liquid-liquid phase separation : LLPS) とは、組成の異なる二つの液体が互いに混ざり合わず、二相に分離する現象です。物理化学分野では古くから知られていたこの現象が、生体内でも起きていることが明らかとなり、新たな細胞機能制御として重要視されています。
 生体内における相分離現象を理解するための一つのステップとして、精製タンパク質を使用し、細胞を用いない系での相分離液滴(ドロップレット)の観察が行われています。精製タンパク質の液滴としてのふるまいを解明するための手段として、様々な化学物質を加えた環境で液滴がどのような挙動を示すか観察することにより、液滴が形成されるメカニズムを解析する研究が行われます。
 本製品は、ドロプレットを作製する際によく用いられる手法を元に、必要な試薬、容器類を同梱した、初めて実験をされる方向けのオールインワンキットのキットです。BSA (ウシ血清アルブミン) をポジティブコントロールとして、作製したプレパラートで相分離により形成したドロップレットの基本的な顕微鏡観察を行うことが可能です。

キット内容

BSA 10 mg × 1

BSA Dissolving Buffer
(20 mmol/l HEPES pH7.4, 150 mmol/l NaCl)

× 1

Assay Buffer
(60 mmol/l HEPES pH7.4, 450 mmol/l NaCl)

× 1
30% PEG8000 Solution × 1
Slide Glass with Double-Sided Tape × 2
Cover Glass × 4
1.5 ml Micro Tube × 4
0.5 ml Micro Tube × 4

保存条件

0–5 ℃で保存してください。

必要なもの (キット以外)

  • 電子天秤
  • 0.2–2 μl、2–20 μl、20–200 μlマイクロピペット
  • 顕微鏡
  • ボルテックスミキサー
  • ピンセット

使用上のご注意

  • 温度により相分離液滴の数が増減する可能性がございます。室温20–25℃で実験されることを推奨いたします。
  • 使用前にガラスにゴミ等が付着していないか確認しご使用下さい。
  • カバーガラスのエッジは鋭く、指を切る恐れがあります。取り扱い時には手袋を着用することを推奨いたします。

操作

BSA solution (800 µmol/l) の調製

BSAを1.5 mlマイクロチューブに1–2 mg量り取り、下記の式に従い、BSA Dissolving Bufferを加え、ボルテックスまたはピペッティングにより溶解する。

 

例:BSA測定量 2 mgの場合、BSA Dissolving Bufferを38 µl加える。


 

BSAの相分離溶液の調製と観察容器への添加

  1. 800 µmol/l BSA Stock solutionとAssay Buffer、PEG8000水溶液を0.5 mlマイクロチューブに混合する。
  2. ピペッティングを20回行い混合する。
  3. すぐに穴の開いた両面テープの剥離紙を剥がし、両面テープの中心へ2 µl添加する。
  4. カバーガラスを静かに被せ、密封する。
  1. ピペッティングはPEG8000水溶液を測り取ったチップをそのまま使用し、ピペットマンの液量の設定も4 µlのままで行ってください。
  2. ピペッティングは泡立たないように優しく行ってください。
  3. 溶液を十分混合するためにピペッティングを20回に設定しております。
  4. ピペッティングを行う前に、下記の様に泡立ちや、壁面に溶液が付着している場合は、卓上遠心機などを用いて溶液を落としてからピペッティングしてください。

 

顕微鏡での観察

  • 滴下した溶液の端がドロプレットを確認しやすいため、図の観察位置を参考にイメージングを行ってください。

 

 

 

 

操作1.

BSAを1–2 mg測り取る。

操作2.

BSA Dissolving Bufferを加える。

操作3.

ボルテックスにより溶解する。

操作4.

BSA solutionを0.5 ml tubeに2 μl添加する。

操作5.

さらに、Assay Buffer を2 µl添加する。

操作6.

さらに、PEG solutionを4 µl添加する。

操作7.

ピペッティングを泡立たないように20回行う。

操作8.

スライドガラスに貼付されている両面テープの剝離紙を剝がす。

   

操作9.

穴の開いた両面テープの中心へ操作7.の溶液を2 µl添加する。

   

 

操作10.

カバーガラスを静かに被せ、密封する。

   

 

実験例

BSA を用いたドロップレットの観察

クラウディング剤であるPEG8000またはBSAを添加しない場合の相分離の挙動を、顕微鏡 (機種: BZ-X710, KEYENCE社) で明視野観察を行った。
サンプル作製後、室温で30分間静置後に観察した。PEG8000とBSAを添加した条件のみ、相分離液滴が観察された。

LL01: LLPS Starter Kit
Revised Aug., 28, 2024