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はじめに

 好気性生物は主にミトコンドリアの酸化的リン酸化でATPを産生しており、その過程で酸素は消費されるため、酸素は我々の生命維持に必要不可欠な物質の一つです。しかしながら、何らかの要因によって細胞内が慢性的な低酸素状態になると、がんや虚血性疾患などが引き起こされる。
 細胞内酸素検出キットは、培養細胞内の酸素濃度変化(りん光寿命変化)を測定することができるキットです。本キットは、細胞中の酸素濃度が低下すると、りん光強度が高くなる特性を持つプローブと空気中の酸素流入を遮断するためのミネラルオイルを同梱しています。

図1 細胞内酸素検出キットの測定原理

キット内容

  100 tests 300 tests
Intracellular Oxygen Probe ×1 ×3
Mineral Oil 10 ml ×1 10 ml ×3

保存条件

-20 °Cにて保存してください。

必要なもの (キット以外)

  • マイクロプレートリーダー(温度調節機能、時間分解蛍光(TRF)測定モード付き)
  • 96穴黒色クリアボトムマイクロプレート
  • 20-200 µlのマルチチャネルピペット
  • 100-1000 µl、20-200 µl、2-20 µlマイクロピペット
  • DMSO
  • 1.5 mlマイクロチューブ
  • コニカルチューブ
  • ヒートブロックもしくは恒温槽

使用上のご注意

  • キットの中の試薬は、室温に戻してからご使用下さい。
  • 輸送上の振動等により、内容物がアシストチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
  • 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
  • プレートリーダーは、測定前に37 °Cに設定して下さい。
  • Mineral Oilや希釈した薬剤の溶液は、ヒートブロックもしくは恒温槽で予め37 °C付近に温めてご使用下さい。
  • 96穴プレートを用いる場合、以下の細胞数を参考に複数条件で検討して下さい。
    浮遊細胞(Jurkat細胞:100,000 cells/well以上) 、付着細胞(HepG2細胞:50,000 cells/well以上)

溶液調製

Intracellular Oxygen Probe DMSO stock solutionの調製

Intracellular Oxygen ProbeにDMSO 12 µlを加えボルテックスミキサーにより溶解し、DMSO stock solutionを調製する。

  • 調製後は遮光し、-20 °Cで保存して下さい(2ヶ月間安定)。


working solutionの調製 

表1を参考に調製したDMSO stock solutionを培地で希釈し、必要量のworking solutionを調製する。

  • working solutionは光に不安定であるため、使用直前に調製し、調製後はアルミホイルで覆うなどして遮光して下さい。また、調製後のworking solutionは保存できません。

     表1 working solutionの調製例

  24 wells 48 wells 96 wells
DMSO stock solution 3 µl 5.5 µl 11 µl
培地 2997 µl 5494.5 µl 10989 µl

 

操作

<浮遊細胞>

同一細胞種・細胞数においてSampleの種類や濃度を検討する場合

                            
細胞種を検討する場合

細胞数を検討する場合

図2 プレートレイアウト例(n=3)
  1. コニカルチューブに入れた細胞(1.0×106 cells/ml以上)をworking solutionに懸濁する。
  2. (1)の細胞懸濁液を培養容器に移し、インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で1時間培養し、細胞を染色する。
  3. (2)をコニカルチューブに回収し、遠心後、上清を除去する。
  4. 培地を添加し十分に懸濁させ、再度遠心後、上清を除去する。
  5. 表2を参考にBlankとして染色していない細胞(1.0×106 cells/ml以上)を培地に懸濁し、ControlやSampleとして染色した細胞(1.0×106 cells/ml以上)を培地に懸濁したものをそれぞれ用意する。
  6. 表2と図2のプレートレイアウトを参考に、96穴黒色クリアボトムマイクロプレートに100 µl (1.0×105 cells/well以上)ずつ播種する。
    • 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
    表2 各ウェルに必要なサンプル及び試薬の添加量
      Blank Control Sample
    細胞(染色:無) 100 µl - -
    細胞(染色:有) - 100 µl 100 µl
    Sample solution - - 10 µl
    培地 10 µl 10 µl -
    Mineral Oil 1 滴 1 滴 1 滴
  7. 予め37 °Cに設定しておいたプレートリーダーの中にマイクロプレートを入れ、10分間インキュベーションする。
    • インキュベーターではなく、プレートリーダーにてインキュベーションして下さい。
  8. 1ウェルあたり下記2条件で測定するように設定したマイクロプレートリーダーを用いて、Sample solution添加前のそれぞれの強度をタイムコースで10分毎に20分間測定する。
    1条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 10 µs
     
    2条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 40 µs
  9. プレートリーダーからマイクロプレートを取り出し、表2を参考にBlank , Controlに培地を10 µlずつ添加する。
    • 培地は37 °C付近になるように、ヒートブロックや恒温槽で予め温めておいて下さい。
  10.  Sampleには、培地で希釈したSample solutionを10 µlずつ添加する。
    • 希釈したSample solutionは37 °C付近になるように、ヒートブロックや恒温槽で予め温めておいて下さい。
  11. 薬剤添加後は、直ちにMineral Oilを1滴ずつ全てのウェルに滴下する。
    • Mineral Oilは37 °C付近になるように、ヒートブロックや恒温槽で予め温めておいて下さい。
  12. 37 °Cに設定しておいたプレートリーダーの中にマイクロプレートを入れ、10分間インキュベーションする。
    • インキュベーターではなく、プレートリーダーにてインキュベーションして下さい。
  13. 1ウェルあたり下記2条件で測定するように設定したマイクロプレートリーダーを用いて、Sample solution添加後のそれぞれの強度をタイムコースで10分毎に200分間測定する。
    1条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 10 µs
     
    2条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 40 µs
  14. 2条件で測定した強度の値から、下記の式を用いてりん光寿命τpの値を算出し、横軸:時間(min)、縦軸:りん光寿命(µs)のグラフを作成する。

<付着細胞>

同一細胞種・細胞数においてSampleの種類や濃度を検討する場合

                            
細胞種を検討する場合

細胞数を検討する場合

図3 プレートレイアウト例(n=3)
  1. Blank, Control, Sampleに細胞(5.0×105 cells/ml以上)を100 µl (5.0×104 cells/well以上)ずつ96穴黒色クリアボトムマイクロプレートに播種する。
    • 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
  2. インキュベーター (37 °C、5% CO2 存在下) で一晩培養する。
  3. ControlとSampleのウェルの培地を除去し、working solutionを100 µlずつ添加する。
  4. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で1時間培養し、細胞を染色する。
  5. 全てのウェルの溶液(Blank:培地、ControlとSample:working solution)を除去し、培地を100 µlずつ添加する。
  6. (5)で添加した培地を除去し、同様に培地を100 µlずつ添加する。
  7. 予め37 °Cに設定しておいたプレートリーダーの中にマイクロプレートを入れ、10分間インキュベーションする。
    • インキュベーターではなく、プレートリーダーにてインキュベーションして下さい。
  8. 1ウェルあたり下記2条件で測定するように設定したマイクロプレートリーダーを用いて、Sample solution添加前のそれぞれの強度をタイムコースで10分毎に20分間測定する。
    1条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 10 µs
     
    2条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 40 µs
  9. プレートリーダーからマイクロプレートを取り出し、表3を参考にBlank、Controlに培地を10 µlずつ添加する。
    • 培地は37 °C付近になるように、ヒートブロックや恒温槽で予め温めておいて下さい。
    表3 各ウェルに必要なサンプル及び試薬の添加量
      Blank Control Sample
    培地 110 µl 110 µl 100 µl
    Sample solution - - 10 µl
    Mineral Oil 1滴 1滴 1滴
  10. Sampleには、培地で希釈したSample solution 10 µlずつ添加する。
    • 希釈したSample solutionは37 °C付近になるように、ヒートブロックや恒温槽で予め温めておいて下さい。
  11. 薬剤添加後は、直ちにMineral Oilを1滴ずつ全てのウェルに滴下する。
    • Mineral Oilは37 °C付近になるように、ヒートブロックや恒温槽で予め温めておいて下さい。
  12. 37 °Cに設定しておいたプレートリーダーの中にマイクロプレートを入れ、10分間インキュベーションする。
    • インキュベーターではなく、プレートリーダーにてインキュベーションして下さい。
  13. 1ウェルあたり下記2条件で測定するように設定したマイクロプレートリーダーを用いて、Sample solution添加後のそれぞれの強度をタイムコースで10分毎に200分間測定する。
    1条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 10 µs
     
    2条件目
    ・Mode: 蛍光, Bottomリーディング
    ・Wavelength: Ex: 480 nm, Em: 590 nm
    ・Temperature: 37 °C
    ・Integration Time: 20 µs
    ・Lag Time: 40 µs
  14. 2条件で測定した強度の値から、下記の式を用いてりん光寿命τpの値を算出し、横軸:時間(min)、縦軸:りん光寿命(µs)のグラフを作成する。

実験例

HepG2細胞を用いたFCCP(脱共役剤)処理による細胞内酸素濃度変化(りん光寿命変化)のプレートリーダー検出

  1. HepG2細胞(7.2×105 cells/ml)を96穴黒色クリアボトムマイクロプレートに100 µl (7.2×104 cells/well)ずつ播種した。
  2. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で一晩培養した。
  3. ControlとSampleのウェル中のDMEM培地(10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycinを含む)を除去した。
  4. working solutionをそれぞれのウェルに100 µlずつ添加した。
  5. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で1時間インキュベーションした。
  6. 全てのウェルの溶液(Blank:培地、ControlとSample:working solution)を除去し、DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を100 µlずつ添加した。
  7. (6)で添加した培地を除去し、同様にDMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を100 µlずつ添加した。
  8. 予め37 °Cに設定したプレートリーダーの中にマイクロプレートを入れ、10分間インキュベーションした。
  9. 2条件での強度をタイムコースで10分毎に20分間測定した(Ex: 480 nm, Em: 590 nm, Bottomリーディング)。
  10. Blank、Control:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)、Sample 1:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)で希釈したFCCP、Sample 2:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)で希釈したAntimycinを10 µlずつ各ウェルに添加した(図4参照)。
    図4 実験例のプレートレイアウト(n=3)
  11. 薬剤添加後、直ちにMineral Oilを1滴ずつ全てのウェルに滴下した。
  12. 37 °Cに設定したプレートリーダーの中にマイクロプレートを入れ、10分間インキュベーションした。
  13.  2条件での強度をタイムコースで10分毎に200分間測定した(Ex: 480 nm, Em: 590 nm, Bottomリーディング)。
  14. 計算式を用いて得られた強度の値から、りん光寿命の値を算出し、グラフを作成した。
    図5 FCCP(脱共役剤)によるりん光寿命の変化
    FCCP添加によってりん光寿命の増加がみられ、細胞の中の酸素濃度が減少していることを確認した。

 

HepG2細胞を用いたFCCP(脱共役剤)処理による細胞内酸素濃度変化のイメージング検出

  • りん光は蛍光と比べて発光時間が長いため、1ピクセル当たりにとどまる時間が短すぎるとりん光シグナルを十分に捉えることができません。共焦点蛍光顕微鏡を用いてりん光の酸素応答性を検出するためには、1ピクセル当たりの検出時間を検討する必要があります(図6参照)。装置や検出条件ごとに、最適な検出時間が異なるため、本実験を行う前に、1ピクセル当たりの検出時間を検討する予備実験を行ってください。以下は、ZEISS社製の共焦点蛍光顕微鏡(型式:LSM 800)を用いて実験を行っています。

図6 りん光を用いた酸素検出における検出時間の影響


- 予備実験 (Scan Speedの最適化) -

  1. HepG2細胞を(6.0×105 cells/ml)をIWAKI製トリプルウェルガラスベースディッシュ(コード:3970-103)に100 µl (6.0×104 cells/well)ずつ播種した。
    • ウェルの形が丸く96穴プレートと同程度の大きさの観察容器を使用してください(図7参照)。ウェルの形が四角のµ-slide 8 well plate (ibidi)や5cmガラスベースデッシュは、オイルを隅々まで行き渡らせることができません。

    図7 イメージングで使用した観察容器

  2. 乾燥しないようにウェル以外の部分にDMEM培地(10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycinを含む)を2 ml添加した。
  3. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で一晩培養した。
  4. ControlとSampleのウェル中の培地を除去した。
  5. working solutionをそれぞれのウェルに100 µlずつ添加した。
  6. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で1時間インキュベーションした。
  7. 全てのウェルの溶液(ControlとSample:working solution)を除去し、DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を100 µlずつ添加した。
  8. (7)で添加した培地を除去し、同様にDMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を100 µlずつ添加した。
  9. 予め37 °Cに設定したインキュベーターに入れ、10分間インキュベーションした。
  10. Control:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)、Sample 1:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)で希釈したFCCPを10 µlずつ各ウェルに添加した(図7参照)。
  11. 薬剤添加後、直ちにMineral Oilを1滴ずつ全てのウェルに滴下した。
  12. 37 °Cに設定したインキュベーターに入れ、120分間インキュベーションした。
  13. 複数のScan Speed条件で、共焦点蛍光顕微鏡にて観察した。
    図8 Scan Speedを変更した際のFCCPによる強度変化
    予備実験結果からScan Speed: 3においてControlとFCCPの強度変化を確認できていると判断した。
    本実験ではScan Speed: 3においてFCCPによる時間毎の強度変化を確認した。

 

- 本実験 (FCCPによる時間毎の強度変化) -

  1. HepG2細胞を6.0×105 cells/mlになるようにDMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)で希釈し、IWAKI製トリプルウェルガラスベースディッシュ(コード:3970-103)に100 µl (6.0×104 cells/well)ずつ播種した。
  2. 乾燥しないようにウェル以外の部分にDMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を2 ml添加した。
  3. インキュベーター(37℃、5%CO2存在下)で一晩培養した。
  4. ControlとSampleのウェル中の培地を除去した。
  5. working solutionをそれぞれのウェルに100 µlずつ添加した。
  6. インキュベーター(37℃、5%CO2存在下)で1時間インキュベーションした。
  7. 全てのウェルの溶液(ControlとSample:working solution)を除去し、DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を100 µlずつ添加した。
  8. (7)で添加した培地を除去し、同様にDMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)を100 µlずつ添加した。
  9. 予め37℃に設定したインキュベーターに入れ、10分間インキュベーションした。
  10. Control:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)、Sample 1:DMEM培地(10% FBS、1% P/Sを含む)で希釈したFCCPを10 µlずつ各ウェルに添加した(図7参照)。
  11. 薬剤添加後、直ちにMineral Oilを1滴ずつ全てのウェルに滴下した。
  12. Scan Speed: 3で、共焦点蛍光顕微鏡にて観察した。
    図9 Scan Speed: 3におけるFCCPによる時間毎の強度変化
    FCCP刺激から60 minと120 min後において、ControlとFCCPの強度変化を確認した。

     

 

 

I306: Intracellular Oxygen Detection Kit
Revised Nov., 15, 2024