はじめに
アビジンービオチン複合体を用いたシステムは、EIA(エンザイムイムノアッセイ)などの免疫学的測定や組織染色の分野で広く利用されています。ビオチンはタンパク質、抗体、酵素の活性を消失することなく標識することが可能であり、アビジンはビオチンに対して強い親和性(Kd~1015mol/l)をもっています。ビオチンは、それ自身に化学修飾を施すことにより、タンパク質の各種の官能基に結合させることが可能です。
Biotinylation Kit (Sulfo-OSu)に用いたビオチン化試薬:Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSuは、結合部位としてタンパク質の遊離のアミノ基(リジンのε-アミノ基など)と結合する水溶性の活性エステルタイプ(Sulfosuccinimidyl biotins)であり、長いスペーサーを有するタイプです。キットには、1ショットタイプの Biotin-(AC5)2Sulfo-OSu(10mg)が4本、またラベル化用のNaHCO3緩衝液用粉末、ゲルろ過カラム、カラム溶離用 PBS錠剤も4つずつ入れております。
The reaction of Biotin-(AC5)2Sulfo-OSu with a protein
キット内容
Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSu | x 4 |
Sodium bicarbonate powder | x 4 |
PBS tablet | x 4 |
Gel filtration column | x 4 |
Sample tube | x 8 |
特徴
-
このキットだけで、タンパク質のビオチンラベル化と精製が可能である。
-
1ショットタイプ(10mg×4 vials)なので、それぞれ異なる4種類のタンパクラベル化が可能である。
-
ビオチンラベル化剤であるBiotin-(AC5)2 Sulfo-OSuの秤量等の手間がかからない。
-
用時調製タイプなので、開封を繰り返すことによるBiotin-(AC5)2Sulfo-OSuの劣化がない。
-
水溶性のビオチンラベル化剤のため、DMFやDMSOなどの有機溶媒を使用する必要がない。
-
Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSu添加量を変えることで、ラベル化率のコントロールが可能である。
-
Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSu 1 vial当り、1~5mgまでのタンパクのラベル化と精製が可能である。
キットの使用方法
(1) 溶液の調整
- NaHCO3緩衝液
Sodium bicarbonate powder 入りポリ容器に、純水10 mlを入れ、NaHCO3粉末を溶解する - PBS溶液
PBS tablet 1 錠を、100 mlメスフラスコに入れ、純水に溶解後、メスアップする。 - タンパク質溶液
サンプルチューブに、タンパク質1.0~5.0mgを精秤(秤量値を記録)し、1. のNaHCO3緩衝液をマイクロピペッターを用いて500 μl添加する。キャップを閉めた後、ボルテックス等を用いてタンパクを攪拌溶解する。 - ビオチン試薬溶液
Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSuのチューブ1本に純水を加え、溶解する。ラベル化率を制御するためにビオチン試薬を溶解する純水量と、ビオチン試薬溶液の添加量を調整する必要がある。表.1を参考にされたい。
- (注)Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSuは、加水分解しやすいので、溶解後の操作は手早く行い、速やかに(2)の操作に移る。
(2) タンパク質のビオチンラベル化
目的とするラベル化率になるように(1)-4)で作製したビオチン試薬溶液を、(1)-3. のタンパク質溶液に添加する。(表.1参照)
表.1 各種タンパクに対するラベル化率
上記結果は、弊社での実測データである。また、ラベル化率の算出は、次項のHABA法により行った。 |
キャップを閉め、ボルテックスを用いて混和した後、振とうしながら恒温槽(25°C)中で2.0時間インキュベートする。
(3)ラベル化したタンパク質のゲルろ過精製
- カラムの上部キャップを外し、充填液を捨てる。
- 流出口のキャップを外し、PBS溶液を、数mlずつピペットでとり、カラムヘロードする。1カラム当り総量として10 mlを流し、ゲルを平衡化させる。
- 2. でラベル化したタンパク質溶液のサンプルチューブから、500 μlをマイクロピペッターで測りとり、カラムヘロードさせる。この時の流出液は廃棄する。
- カラムの流出口に2 mlサンプルチューブを置き、1.0 mlのPBS溶液をマイクロピペッターにてカラムにロードしビオチン化されたタンパク質を溶出させる。
ビオチン化されたタンパク質の最終濃度は、タンパク質の秤量値をXg、タンパク質を溶解させたNaHCO3溶液の量をYml、タンパク質の分子量MW、ゲルろ過カラム操作によりタンパク質濃度は0.50 mlロードして1.0 ml流出することとなり1/2に希釈されることを考慮にいれると、下記の式より算出される。
A (mol/l) = ( X g /MW Protein ) x (1000ml / Y ml) x 0.5--- (式 1)
例えば、Protein A(MW:42000)15.0 mgを精秤し、NaHCO3溶液を3.0 ml添加し溶解した時のProtein A濃度は、1.19×10-4 mol/lである。ゲルろ過操作(2倍希釈)により、ビオチン化されたProtein Aの最終濃度は、5.95×10-5 mol/lとなる。
HABA法によるタンパク質のビオチン化率の算出
タンパク質にどの程度のビオチンがラベル化されたかを調べる手段として、HABA(4-Hydroxyazobenzene-2'-carbo-xylic acid)を用いた算出方法が知られている。
測定原理としては、HABA-アビジン溶液にビオチンを添加することで、HABAよりもビオチンの方がアビジンに対して高い親和性をもつため、HABAに代わってビオチンがアビジンと吸着する。その時の500nmにおける吸光度の減少からビオチンラベル化率を算出する方法である。
使用試薬
Avidin from Egg White (nacalai tesque社製 035-53) | 10mg |
HABA : [4-Hydroxyazobenzene-2'-carboxylic acid](東京化成社製 H0586) | 14mg |
DMSO:(Sp)DMSO(同仁化学研究所社製) | 500μL |
測定方法
- 2mlサンプルチューブにHABA 14.0 mgを精秤し、マイクロピペッターを用いてDMSO 500 μlを添加し溶解する。
- 20mlメスフラスコにAvidin 10.0(±0.1) mgを精秤し、PBS15 mlを入れ溶解する(この時点では、20ml全量は添加しない)。これにHABA-DMSO溶液200 μlをマイクロピペッターを用いて加え、PBSで20 mlにメスアップしてよく混和する。
- ミクロセル(容量1ml·セル長1cm)に、上記1)のHABA-Avidin溶液 900 μlをマイクロピペッターを用いて入れ、500 nmの吸光度を測定する。これを3回繰り返し測定し、3回の平均値をAbsAとする。
- 2 mlサンプルチューブに、1)のHABA-Avidin溶液900 μlをマイクロピペッターを用いて入れる。これにビオチン化したタンパク質溶液100 μlをマイクロピペッターを用いて添加し、キャップを閉めた後、ボルテックスで攪拌する。5分間以上静置した後、マイクロピペッターを用いてセルに移し変え 500 nmの値を読む。(この値をAbsBとする)タンパク質濃度が高い場合、ビオチン添加量に比べてタンパク質に結合したビオチン数が頭打ちするような傾向が観測される。この現象は、ビオチンが結合したタンパク質がアビジンに対して過剰に存在する状態となり、HABA法からタンパク質に結合した正確なビオチン数が算出できなくなる。例えば、Protein Aを例にとると、ビオチン化したProtein A濃度が30 μmol/l以下になるように、カラム流出後のProtein A溶液を希釈(希釈倍率:Z)してから、HABA-Avidin溶液に添加してラベル化率を算出する。
- AbsAとAbsBの値より、下記の式に従いサンプル中のビオチン濃度を算出する。
B (mol/l) =Zx [104x(0.9 × AbsA - AbsB) / 34] × 10-6 = サンプル中のビオチン濃度 -- (式2)
- 式1と式2 よりタンパク質1分子をラベル化したビオチンの数を計算する。
(B/A)=タンパク1分子に結合したビオチンの数(mol/mol)-- (式3)
◆: Protein A 5 mgを0.5 ml NaHCO3溶液に溶解し、所定のビオチン量でラベル化及びゲルろ過後の溶出液を1/4に希釈した濃度(30 μmol/l)
■: Protein A 2.5 mg を 0.5 ml NaHCO3溶液に溶解し、所定のビオチン量でラベル化及びゲルろ過後の溶出液を1/4に希釈した濃度(15 μmol/l)
▲: Protein A1.25 mg を 0.5 ml NaHCO3溶液に溶解し、所定のビオチン量でラベル化及びゲルろ過後の溶出液を1/4に希釈した濃度(7.5 μmol/l)
使用上または取扱い上の注意
- キットは、冷蔵にて保存してください。
- ビオチン試薬は、用時調製してください。(Biotin-(AC5)2 Sulfo-OSuは、加水分解しやすいので。水溶液による保存は避けて下さい。)
- ラベル化したタンパク質を保存する場合、冷蔵保存してください。(防腐剤として、0.1%のアジ化ナトリウムを入れてください。)
参考文献
- J. Wormmeester, F. Stiekema and C. Groot, Methods Enzymol., 184, 314 (1990).
- J. J. Leary, D. J. Ward, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,80, 4045 (1983).
- W. T. Lee, D. H. Conrad, J. Exp. Med., 159, 1790(1984).
- D. R. Gretch, M. Suter, M. F. Stinski, Anal. Biochem.,163, 270 (1987).
- M. Shimkus, J. Levy, T. Herman, Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 82, 2593 (1985).
- W. J. LaRochelle, S. C. Froehner, J. Immunol. Methods,92, 65 (1986).
- P. S. R. Anjaneyulu, J. V. Staros, Int. J. PeptideProtein Res., 30, 117 (1987).
- H. M. Ingalls, C. M. Goodloe-Holland, E. J. Luna, Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 83, 4779 (1986).
- J. Guesdon, T. Ternyck, S. Avrameas, J. Histochem.Cytochem., 27, 1131 (1979).
よくある質問/参考文献
BK01: Biotinylation Kit (Sulfo-OSu)
Revised Dec., 13, 2023