トップページ > ドージンニュース > Vol.178 > infomation 3 : 第31 回フォーラム・イン・ドージン開催後記

第 31 回フォーラム・イン・ドージン開催後記

「細胞内膜系のダイナミズム−オルガネラが織りなす細胞のドラマ」


 1992 年からスタートしたフォーラム・イン・ドージンは昨年のコロナ感染の拡大により初めての延期となり、その後関係者の議論を経てオンライン開催を選択した。本フォーラム代表世話人の富澤先生から、「複数のオルガネラが近接する部位で何が起きているかを知ることでこれまでのオルガネラとは異なる姿が見えてくる。世界中で熾烈な研究が行われている分野であり、今回のフォーラムが研究の進展に寄与するものとなることを期待したい。」と述べられ午前のセッションがスタートした。

 最初の演者である清水先生は「オルガネラの局所に形成され特定の機能を発揮する場がありその連携によって細胞が機能することが分かってきた。このオルガネラ・ゾーンによる細胞機能の発現は細胞生物学における新たなパラダイムシフトである。」と述べられ、オルガネラ・ゾーンの存在とオルガネラの連携が複雑なオルガネラ機能を生み出すこと、一例としてミトコンドリアの局所でのアポトーシスの開始、ゴルジ体の新たなタンパク質分解応答ゾーン(GOMED)について紹介された。その中で弊社の蛍光プローブを用いた解析についても触れられた。今回は視聴者の方々からの質問はチャットに限定させていただいたが、多岐にわたる質問が数多く寄せられた。田村先生からは、ミトコンドリアの動的性質の理解に重要である脂質の輸送に興味を持たれた経緯と、ERMES 複合体にリン脂質を取り込むポケットがあり、オルガネラ膜間を繋ぐことでリン脂質の膜間の水相中の移動を伴わずに PA から PE に構造変換されることや、小胞体ストレスに対する役割などが示された。視聴者からは動物細胞での存在、リン脂質以外の輸送への関与などの質問などがあった。次に、山口先生から、「開発者が分かるような特徴ある分子を創る」として B、Si、P、S の活用や、分子を的確にデザインすることにより耐光性やオルガネラ特異性など機能を自在に操ることができることが示された。P = O を導入したローダミンプローブは STED にも利用できる耐光性を持ちオルガネラの微細構造解析に使用できる。その一つ MitoPB Yellow は今回のセッションを通して多くのサンプル依頼があった。

 午後のセッションでは、西頭先生から熱産生の仕組みと脂肪細胞の種類についての説明があり、褐色脂肪細胞の熱産生は小胞体とミトコンドリア間のやりとりが重要であることや、小胞体ストレスセンサーの一つ PERK の非典型的リン酸化は小胞体ストレスとは関係せず、小胞体とミトコンドリアが接触している部位でリン酸化され、ミトコンドリアのストレスにより惹起されることなどが示された。質問に際して PERK リン酸化キナーゼの同定を検討していることや、熱の細胞での発生場について示された。 次に、吉田先生はこれまでの研究の取組について触れられた後、ゴルジ体に着目してゴルジ体機能ゾーンの動的制御について紹介された。組織毎に 4 つのゾーンが機能しており、足りなくなると個別の転写因子によって活性化されゾーンを増強することなど紹介された。一つのオルガネラでゾーンを作る必要性をどう考えるか、分割したオルガネラでも機能できるのではという質問に対し、共通に使われているものもあるので、一緒にすることで効率化という点で意味がある、あるいは進化的なことかもしれないと述べられた。

 最後のセッションでは、濱田先生より、植物の微小管ネットワークの役割として、オルガネラの足場としての機能を持つこと、小胞体チューブの微小管依存的伸長も起きること、微小管と小胞体の密度には相関があること、微小管はクロロフィルの合成に重要であることなどが示された。質問に際して、植物細胞は水が多く効率よく機能させるにはタンパク質を集める必要があり、それが微小管上でホットスポットを作って効率を上げる仕組みがあるのではとのことも議論された。次に、新崎先生からレジオネラの宿主細胞での輸送システムについての紹介があった。レジオネラが細胞内で旅する様子を分子生物学的に詳細に解析し、巧妙で多様な仕組みがあることが示された。アメーバの栄養獲得方法とマクロファージの貪食の仕組みが似通っていることから、レジオネラ感染症の発生は私たちの生活圏にレジオネラ菌を取り込んでしまった結果ともいえるとのことであった。

 代表世話人である三隅先生の閉会の挨拶では、「他のオルガネラと相互作用して機能することを分かりやすく示していただいた。蛍光試薬の開発やタイムラプスなど動的解析技術の革新によってオルガネラ・ゾーンの姿が捉えられた。今回のフォーラムを通してこの分野に興味を持った方々も多いと思うので、演者の先生方との接点を持っていただくことも喜ばしいことである。」と締めくくられた。本来であれば、この後、演者の先生方と参加者との交流会があり、ここがもう一つのディスカッションの場であるが、残念ながら今回はそれが叶わなかった。次回は皆さんと一堂に会してのフォーラムとなることを期待したい。

(志賀匡宣)

ページの上部へ戻る