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第 30 回フォーラム・イン・ドージン開催後記

「Nutrio-Metabolomic-Pathology ―栄養と代謝からみた疾患の素顔―」

 平成 2 年 9 月 28 日の第 1 回目から毎年開催されてきたフォーラムも今年で 30 回を迎えることとなった。冒頭、代表世話人である熊本大学の富澤一仁先生から、「栄養・代謝は古い学問で、現在、栄養代謝学を教える大学も少なくなっているが、栄養代謝研究に新しい手法を用いることで新たな面が見えてきた。この分野でどのようなことが新しく、どのような方向に向かっているのか、健康にどう関わっているのかを知る機会として頂きたい。」との趣旨説明があり、講演がスタートした。

 最初の演者である山内敏正先生は、日本における糖尿病の現状に触れ、先生らの過去最大級のゲノムワイド解析の結果、2 型糖尿病の危険性を高める GLP-1 受容体のミスセンス変異の同定と、この変異には民族的な相違があることも紹介され、日本人で調査する必要性が示された。多彩な手法が用いられており、膨大なデータの積み重ねによって糖尿病という疾病が理解され、健康長寿に向けた研究が行われている状況を知ることができた。質疑応答の中で、日本人は脂肪が蓄積されやすい遺伝子変異が多いことに触れられた。次に、山縣和也先生より、サーチュインの一つである SIRT7 についての研究紹介があった。 SIRT7 をノックアウトしたマウスでは脂肪蓄積の減少、老化の抑制などが観察され、脂質代謝、炎症や老化において SIRT7 と SIRT1、6 の役割は逆であること、 SIRT7 は脂肪組織や骨組織の維持など体を作る上で重要で、 60 歳以降は活性化させることによりサルコペニアやフレイルの予防に繋がる可能性が示唆された。

 午後は、矢作直也先生の栄養素がゲノムに与える影響に関するご講演からスタートした。脂肪合成の主要な制御因子である SREBP-1 の発現を in vivo で可視化する技術を用いて、絶食時と摂食時でのマウス内での発現変化を観察する方法が紹介された。 多価不飽和脂肪酸の栄養シグナルによる活性化抑制の可視化なども行われており、新たな機構の発見に繋がっていることが示された。次に、杉浦悠毅先生より、代謝生化学を可視化することを目的として、質量分析を使った低分子の生理活性化合物の高感度イメージング技術の紹介があった。今回は、酸素添加酵素によるコレステロール代謝産物やモノアミンを三次元的に捉えた事例とトリプトファン分解経路の解析に触れられた。フロアーの質問から、サンプル調製法のポイントなどを伺うことができた。

 コーヒーブレイクの後の長谷耕二先生のご講演では、腸管免疫の仕組みから始まり、パイエル板リンパ球の動きを解析し、絶食時はナイーブ B 細胞がパイエル板から骨髄へ、再摂食時には骨髄からパイエル板へと移動すること、造血幹細胞は絶食によって減少するが再摂食により戻ってくることなど、免疫に関わる細胞の動きの紹介があった。また、質問に対して、腸内細菌をかく乱させるとリバウンドしやすいとの話もあった。最後に、大澤毅先生から、低 pH は Warburg 効果の結果なのかという疑問からスタートし、網羅的オミクス統合解析から、低 pH、低栄養のがん微小環境に存在している細胞で発現する遺伝子とその機能、酢酸代謝、グルタミン代謝などの多重代謝適応の仕組みが理解され、アミノ酸欠乏の認識機構の解明による新たながん治療薬開発が示唆された。

 セッションの終わりにあたって、世話人の一人である三浦洌先生は、「栄養、代謝、疾患はそれぞれが深い分野であり、多くのパラダイムが生まれては消えていくことを繰り返してきたが、これで終わりにしたい。今後は、インテグレーションの時代となる。演者の方々のご研究の発展を期待する。」と締めくくられた。セッション終了後は、ミキサー会場に移動し、山内先生のご挨拶、乾杯のご発声によって交流会が始まり、ご講演いただいた先生方や参加者との間でにぎやかに意見が交わされた。会場では昨年に続き同仁化学研究所の新入社員によるポスター発表を企画した。ご参加いただいた先生方からの次の 30 回に向けての期待と激励の言葉は有難かった。盛会な 30 回フォーラムとなり、企画したメンバーの一人として喜ばしい限りである。本フォーラム開催にあたり、快くご講演をお引き受けいただいた先生方始め、関わった多くの方々に感謝申し上げる。

(志賀匡宣)
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