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26th フォーラム・イン・ドージン開催後記

「代謝システムと遺伝子発現制御〜意外な縁(えにし)〜」

 フォーラム・イン・ドージン(以下フォーラム)は前回 25 回目の四半世紀の節目を迎えた。 26 回目となる今回のフォーラムは 11 月 13 日熊本市内で開催された。今回のテーマは、フォーラム第 2 四半世紀の幕開けにあたり、 21世紀の生命科学の流れを読んだ世話人の意向に沿ったものである。これまでそれぞれ独立に詳細に研究されてきた代謝システムと遺伝子発現が、意外な縁(えにし)を介して互いに連携しながら全体として個体を支えているということが、最近明らかにされてきた。本フォーラムでは、このような観点で、先端的な研究成果をあげておられる先生方に講演を依頼させていただいた。

 講演のトップバッターをつとめられた理化学研究所の吉田稔先生は、本フォーラムのメインテーマをわかりやすく概説されながら、ご自身のテーマのタンパク質(エピジェネティックス関連タンパク質)の翻訳後修飾(アセチル化・アシル化)と環境因子・内因性因子による制御について、これまでの膨大な成果とこれからの方向性について詳しく述べられた。群馬大学の北村忠弘先生による二番目の講演では、エネルギー代謝の制御をエネルギーホメオスターシスの観点から見据え、エネルギー(食物)摂取・消費の調節に関与する視床下部転写因子(エネルギーセンサー)を巡るシグナル伝達ネットワークによって全体が管理されていることを示された。ランチブレイクを挟んで、午後のセッションは東北大学の五十嵐和彦先生による講演で始まった。五十嵐先生は、含硫アミノ酸の代謝や様々なメチル基転移反応で中心的な役割を果たす S- アデノシルメチオニン(SAM)が、合成酵素の管理下で核内に存在してヒストンのメチル化修飾が引き金になってエピゲノム制御を司っていることを詳しく説明された。熊本大学の日野信次朗先生は、代謝システム中の様々な酸化還元過程に必須の補酵素フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)が、ヒストンのリシン脱メチル化酵素の補酵素として、細胞のエピゲノム制御に積極的に関与することを明らかにされ、エピゲノム制御による代謝リプログラミング機構に言及された。東北大学の黒石智誠先生の講演では、糖・脂質代謝、TCA サイクルで二酸化炭素取り込み反応の補酵素ビオチンがヒストンの選択的翻訳後修飾に動員されることが明示され、エピジェネティックス制御の一端が示された。 フォーラムの締めくくりに、東京都健康長寿医療センター研究所の遠藤玉夫先生は糖代謝と遺伝子発現の連携に言及され、糖代謝経路の産物が、遺伝子発現・エピジェネティクスに関わるタンパク質の糖修飾に活用されるというタンパク質の糖修飾異常による先天性疾患発症の機序について明らかにされた。
 20 世紀の科学では、自然現象を細分化して無数のパラダイムが乱立し、それぞれが独自に進化・深化し、パラダイムシフトを繰り返して全体として目覚ましい発展を遂げた。一方で、先鋭化したパラダイムどうしを統合して全体を俯瞰するという統合主義的なアプローチも 21 世紀の生命科学の潮流の一つと考えられる。 本フォーラムでは、代謝システムと遺伝子発現という二つの大きなパラダイムが意外な縁(えにし)を介して互いに連携し全体として統合されている(パラダイム・インテグレーション)ことが明らかにされた。
 フォーラムの会場は、若い学生、現役研究者、一般参加者など幅広い層からの参加者で会場が狭く感じられるほどであった。フロアからも各層から活発な質問・議論・コメントが出され、全体として引き締まったフォーラムであった。講演終了後のミキサーでは、互いの交流を深め合い、和やかな中にも成功裏にフォーラムを終えることができた。

(三浦冽)

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