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光を音に変換する光音響効果を利用した Photoacoustic Imaging

株式会社同仁化学研究所 下村 隆

 生体イメージングの利点は、生体を解剖することなく生体内の状況を把握できることである。そのためにも、見たいものを見えるようにする仕組みが必要となる。近年、生体内部をイメージング(可視化、画像化)する方法として、ポジトロン断層法 (Positron Emission Tomography: PET)や核磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging: MRI)、超音波イメージング(Ultrasonography: US)、蛍光イメージング(Fluorescence Imaging: FI)、光音響イメージング(Photoacoustic Imaging: PAI)などの手法が開発され、改良が重ねられている。表 1 にそれらの様々な特徴・特性を示す。例えば、US では、体内に照射された超音波は、骨など硬い組織では強く反射され、柔らかい組織では反射が弱いため、反射の違いを利用して画像化できる。FI では、目的部位に蛍光分子を集積させ体外から励起光を当て、発生する蛍光を検出し画像化できる。
 本稿では、小動物を対象とした光音響イメージング(PAI)について紹介する。 PAI は近赤外光を使い、音で測定することで画像化するため、US と FI の手法を兼ね備えている。 FI の深度は 5 mm 未満であり、皮膚近傍や取り出した部位に測定対象が限られる。 一方 PAI での深度は 5 cm であり、ほぼ全体を観察可能となる。さらに蛍光分子をコントラスト剤として用いることで、より詳細に目的部位を観察することが可能になっている。

 光音響効果とは、光エネルギーを吸収した分子が熱を放出し、その熱による体積膨張で音響波が発生する現象である。実際には生体透過性の高い近赤外光を利用し、発生する超音波を音響センサで検出する(Fig. 1 右)。

 光を使った生体の画像化には、波長が 700 〜 900 nm の近赤外光がしばしば使用される。その理由として、近赤外光よりも波長の短い可視光(400 〜 700 nm )はヘモグロビンなどによって強く吸収され、近赤外光よりも長い波長の赤外光(0.9 〜 400μm)は水によって強く吸収されるために、これらの領域の光の生体内における透過性は低い。これに対し、近赤外領域の光には、上述のような吸収が少なく、生体を透過しやすいからである。近赤外波長域は「生体の窓」とも呼ばれるのはそのためである。生体成分による光の吸収は Fig. 1 の左図のように表すことができる 1)。 今までは近赤外波長域を用い酸素結合状態と酸素非結合状態のヘモグロビンの吸収スペクトルが互いに異なることを利用して、血管及び、低酸素状態の固形がんのイメージングが行われてきた 2)。しかし、より詳細な検出や測定を目的として、目的の臓器や腫瘍を PAI でイメージングするには金ナノ粒子、SWNT (single-walled carbon nanotube、単層カーボンナノチューブ)、ICG (indocyanine green、インドシアニングリーン)、MB (methylene blue、メチレンブルー)などのコントラスト剤を体内に投与する必要がある。 PAI 用のコントラスト剤は近赤外光を吸収し、熱に変換する作用(光音響効果)が強く、抗体などを利用して目的の部位に集積させることで PAI シグナルが増強され、周りとの区別が容易になる。 ICG (肝機能検査用)や MB (メトヘモグロビン血症治療薬)は FDA (Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)に認証されていること、また近赤外光によって励起可能であることから、近年、 PAI に使用されている 3)
 以下に、実際に近赤外蛍光色素 ICG を用いて PAI を行なった 2 つの研究を紹介する。 Zerda らは、がん組織の特徴を利用したがん指向性と光音響効果を有する SWNT 及び ICG を利用した光音響プローブを作成し、イメージングしたことを報告している 3)。新生血管やがん細胞にはインテグリンが高発現している 4)。そのため、インテグリン認識配列である RGD (アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列を有する分子はインテグリン高発現部位特異的に送達される。一方で、RAD (グリシンをアラニンに置換した)配列はインテグリンに認識されない。さらに、SWNT は近赤外光を吸収して発熱する性質を有し、同様に近赤外光を吸収する ICG を SWNT に修飾すると約 20 倍光音響効果を増強することができる。以上のような特性を付与した SWNT-ICG-RGD をマウスに投与すると腫瘍特異的に光音響シグナルが得られた(Fig. 2)。

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 次に、乳がん患者において、がん転移の有無を診断するために、腫瘍からのリンパ液が最初に到達するセンチネルリンパ節生検は必要な検査である。
 しかし、生検は侵襲的で患者への負担が大きい。そこで、リンパ節の位置や転移を非侵襲的に検査できる手法が求められる。Kim らは、センチネルリンパ節を PAI で画像化したことを報告している 5)。ラットの左前足から 1 mmol/L ICG 水溶液を皮下投与し、左脇のリンパ節(センチネルリンパ節)の画像を得た(Fig. 3)。
 投与する前(Fig. 3 左)は血管(BV)しか観察されないが、 ICG を投与することによってセンチネルリンパ節(SLN)とリンパ節(LV)が明確に識別された(Fig. 3右)。次に、 ICG 投与後のリンパ節を皮下 2、6、8 mm の位置に置いたときのシグナルを検出した(Fig. 4)。 PAI ではどの深さでもリンパ節の大きさは 2 mm 程度であるが、蛍光画像では深度に対応して大きくなっている。この結果から、リンパ節の位置はどちらのイメージング法でも確認できるが、正確なリンパ節の大きさと位置を推定するのは PAI の方が容易であると考えられる。

 以上のように、生きた動物の皮下の深いところにある臓器を数百 nm 以下の空間分解能で観察できる PAI は、in vivo の研究への利用が期待される。さらに、 ICG や MB などの近赤外蛍光色素を利用することによって光音響シグナルを増強することが可能であり、人のがん診断への適用なども期待される。
 一方で生体の PAI には、生体内のヘモグロビンやメラニンによる近赤外光の吸収のため、目的部位が観察しづらい場合があること、光の到達深度(最大 5 cm 程度)よりも深い目的部位は観察できないこと、目的部位を観察するためのコントラスト剤の種類の少なさなどの問題がある。さらなる研究の発展が期待される。

関連試薬

品名 容量 メーカーコード
ICG Labeling Kit - NH2 1 sample
3 sample
LK31
ICG-Sulfo-OSu 特注品 L254
ICG-EG4-Sulfo-OSu 特注品 L289
ICG-EG8-Sulfo-OSu 特注品 L290

 

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