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おしらせ

23 rd フォーラム・イン・ドージン開催後記
ホスホリパーゼ A2 が織りなす多元的世界

 第 23 回のフォーラム・イン・ドージンが、秋も深まる 11 月 16 日、熊本市のホテルキャッスルで開催された。今年のテーマは「ホスホリパーゼ A2 が織りなす多元的世界」である。ホスホリパーゼ A2 (PLA2)は細胞膜の主要な構成成分であるグリセロリン脂質の sn-2 位に結合した不飽和脂肪酸を切りだしてくる酵素であるが、その役割や多様性についての研究が最近大きく進んでいるとのことだったので、今年のテーマに選ばれた。内心、ちょっと対象が狭すぎるのではないかという危惧もあったが、結果的には盛会に終えることができ、くまモン人気にあやかる必要もなくなった。会を重ねるごとに、顔なじみの参加者も増えてくる。テーマに惹かれ遠路熊本まで足を運んでくれる参加者や、テーマにかかわらず毎年参加される先生方もおられ、 23 回の重みを感じることができる。大都市と比べると、熊本は研究機関の数も限られ、この種の学術的な催しを行うのには不利ではあるが、あえて熊本での開催にこだわり、その内容を魅力あるものにし、少しでも地域が誇れるものになれば、主催者にとっても本望である。

 タイトルにある多元的世界を作りだしているのは 30 種類以上も存在する PLA2 である。 2 位のエステル結合を切断するだけの酵素が何故これほど数多く用意され、それぞれどのような役割を担うのか、基礎的なところから分かりやすく清水先生(東大医)と村上先生(東京都医学総合研究所)が導入された。それぞれ、細胞質型と分泌型に研究の力点を置かれ、多くの機能を明らかにされている。午後からのセッションでは疾病との関わりについてで、心血管疾患について久木山先生(山梨大医)、神経変性疾患については隅先生(阪大医)が紹介されたが、フロアーからの質問も多く、臨床の話にはいつも興味を引きつけるものがある。最後は少し趣をかえて、アポトーシス細胞の貪食処理における PLA2 の役割について西浦先生(熊大医)が、さらに、ハブ毒の PLA2 について、分子進化の視点も交えて上田先生(崇城大薬)が話された。ハブ毒も地域によって異なり、食性が反映されている可能性など、一つの分子の生い立ちから色んなことがわかるようだ。

 今回のフォーラムから、新たな試みとしてマスターズ・レクチャーが企画された。生化学会等で行われているものと同じ狙いだが、第一回目として九工大名誉教授の西野先生に引き受けていただいた。ご自身のペプチド人生を振りかえり、若い研究者にも多くの示唆を与えられた内容だった。講演の最後に「不易流行」という言葉を残された。そういえばこのフォーラム自体、「流行」ばかりを追いかけてきたが、そうしたなかで、「不易」の大切さにも改めて気づかされた。

(佐々本一美)