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21stフォーラム・イン・ドージン開催報告
エピジェネティクスによる細胞のメタモルフォーゼ

エピジェネティクスによる細胞のメタモルフォーゼ 集合写真

 

 フォーラム・イン・ドージンは、昨年第20回の節目を国際シンポジウムという形で飾り、今年からは、次の新たな段階へと進むことになった。初期のフォーラムは、どちらかというと啓蒙的な色彩が強かったが、この数年、昨年の記念シンポジウムに象徴されるように、熊本から外に向かって情報を発信するという性格を帯びるようになった。これは成長の証であり、ひとえに関係者の努力と様々な方々のご支援の賜物である。今年のフォーラムのメイン・テーマは、昨年のフォーラム時のアンケートで最も希望の多かった「エピジェネティクス」を基本に、細胞の機能・形態の変転を意味するメタモルフォーゼを組み合わせて、「エピジェネティクスによる細胞のメタモルフォーゼ」となった。
 世話人の間で議論を重ね、我が国のエピジェネティクス分野の先駆的重鎮から新進気鋭の研究者までの幅広い層の先生方を演者として選び、そしてそれぞれの先生方からは講演を快諾していただいた。おかげで、重厚な演者の布陣の下、最先端の研究内容に触れることができた。演者の先生方には、改めて感謝申し上げたい。
 エピジェネティクスは、生命科学の中でポストゲノム時代の研究の大きな流れの一つであることは間違いなく、「エピジェネティクスは、ジェネティクスと並んで、生物の遺伝現象を理解するための二大柱である」という演者のお一人の石野史敏先生の指摘は、その本質をついたものである。しかし、多くの演者から指摘されたように、エピジェネティクスに対する適切な訳語がなく、そのことがこの分野を不必要に分かりにくくしているようでもある。
 各演者から、専門外の聴衆にも分かりやすい丁寧な概説をしていただいたのも、非常に有意義であった。これは、エピジェネティクスの重要性を理解してもらいたいという各演者の熱意の現れと、多くの出席者から好意的に受け止められた。最初の田嶋正二先生(大阪大学)は、本フォーラムのオーバービューを兼ねたエピジェネティクスの概説と、遺伝学、タンパク質科学、酵素化学、構造生物学などにわたる広範な背景に裏付けられた格調高いご講演で、フォーラムのトップバッターを務められた。二人目の演者の中尾光善先生(熊本大学)は、われわれの生活に密着した生活習慣病の背景にあるエピジェネティクスについて講演された。 午前の最後の演者、胡桃坂(くるみざか)仁志先生(早稲田大学)は、構造生物学(関連タンパク質とDNAとの複合体の立体構造など)を駆使して、エピジェネティクスの制御機構について講演された。午後の最初のセッションでは、石野史敏先生(東京医科歯科大学)が、ほ乳類の特徴であるゲノムインプリンティングの概要とその制御機構を、ご自身の研究に基づいて解説された。中山潤一先生(理化学研究所)は、単細胞生物である酵母におけるエピジェネティクスという一見相矛盾するかのような現象を、酵母における本質的な生命現象の一つとして解説された。本フォーラムの最後のセッションでは、近藤豊先生(愛知県がんセンター研究所)が、がん細胞の分化を制御するエピジェネティクスを解説され、最後の演者、沖昌也先生(福井大学)は、酵母細胞におけるエピジェネティクスによる遺伝子発現制御という難解な現象を、カラフルな静止画像や動画を使って視覚的に解説された。
 以上のように、各演者の先生方の特徴を生かしたプレゼンテーションがなされ、フロアからも活発な議論が続いて、盛会裡にフォーラムを閉会した。今年のフォーラムの会場は、例年と違ったところだったが、出席者からは、落ち着いた雰囲気の会場に、概ね好評をいただいた。引き続き別会場で催されたミキサーでは、演者の先生方と聴講者の方々、とくに若手の参加者との間で、和やかな交歓が行われ、来年のフォーラムへの期待を込めて、すべての企画を終えることができた。例年のことではあるが、同仁化学研究所のフォーラム事務局、関係者、そして開発部の若い人達の、裏方としての支えがあって、フォーラムの円滑な進行ができた。裏方、演者、聴衆のネットワークによって実りの多かった今回のフォーラムに、満足することができた。

(文責 同仁化学研究所 三浦 洌)

フォーラム写真

 

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