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紅色細菌由来タンパク質を用いた蛍光標識

株式会社同仁化学研究所 坂本 智昭

 ヒトゲノムを始め、種々の生物のゲノム解析が完成されるに伴って、多くのタンパク質遺伝子の塩基配列、つまりアミノ酸配列が明らかになった。しかし、これらのタンパク質の中には、その機能や役割が不明のものも数多い。ポストゲノムの重要な課題の一つは、それぞれのタンパク質の機能や役割を解明することである。タンパク質の挙動・機能・役割を検証する有効な手段として、様々な機能をもったTagが利用されている。Tagとは、本来、「荷札」や「目印」を意味する言葉であるが、目印としてTagがつけられた標的タンパク質の挙動、機能、役割、分布などを、Tagの機能を利用して検証することができる。

 標的タンパク質にTagをつけるには、通常、タンパク質遺伝子にTagの塩基配列を繋げたcDNAを生細胞に導入して、Tag付きタンパク質を発現させればよい。Tagの機能によって、標的タンパク質に対する異なる用途が知られている。たとえば、Tagに固有の基質との反応、蛍光性Tagの蛍光を利用して標的タンパク質の発現、分布、他のタンパク質との相互作用などの挙動を調べることができる。また、Tagの親和性を利用してタンパク質の精製を行うことも可能である。標的タンパク質の機能への影響を考慮すると、Tagのサイズ(分子質量)は小さい方が望ましい。

 His-Tag(0.85kDa) は、6個程度の連続するヒスチジン残基からなるペプチドである。His-Tagは、金属イオンに対する親和性が高く、NTA誘導体のNi錯体と結合する。このことを利用して、固定化Ni錯体カラムを用いた標的タンパク質の精製は、すでに一般化されている。

 GST-Tag(26 kDa) およびMBP-tag(40kDa) は、それぞれグルタチオンおよびマルトースとの親和性が高い。これら3つのTagは、リガンドとの親和性を利用してタンパク質の精製、担体への固定化に利用されている。

 GFP(27 kDa) は蛍光性タンパク質で、蛍光性Tagとして利用されている。生細胞内の遺伝子導入によりGFPが結合した標的タンパク質を細胞内で発現させて、蛍光によるイメージングでタンパク質の発現や局在化の検証を行うことができる。

 Halo-Tag(33 kDa) およびCLIP-Tagは、基質と特異的な共有結合を形成するので、基質と結合した蛍光性物質を利用した標的タンパク質の蛍光イメージング、精製、担体への固定化に利用されている。Halo-Tag およびCLIP-Tagは、蛍光によるイメージングの際、標的タンパク質に結合したTagに対する基質に結合した蛍光物質を利用するので、GFPと比べて目的とするタイミングで蛍光イメージングが可能である。しかし、目的のTag と結合する基質と結合していない基質の蛍光との区別ができないため、結合していない基質を洗浄等により除去する操作が必要となる。このようにTagは、その種類によって標的タンパク質の機能解明に様々な役割を担っており、それぞれのTagに特徴があり、長所および短所もある。

 本稿では、Halo-Tag、CLIP-Tagと同じ、基質と共有結合を形成するphotoactive yellow protein(PYP)をTagとして使用しタンパク質標識試薬CATP及びFCTPを用いて行ったタンパク質標識について紹介する1)

 このTagの系において、タンパク質標識試薬のFCTPは、単体ではわずかにしか蛍光を出さないが、PYPと結合するとより強い蛍光を放つようになる。PYPの分子質量は14kDaであり他のTagタンパクと比較して小さい。

 PYPは、125個のアミノ酸より構成される紅色細菌由来の水溶性タンパク質で、動物細胞内には存在しない。PYPは4-ヒドロキシけい皮酸チオエステルや7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸誘導体と、PYPの69番目のシステインとのトランスチオエステル化によって結合する。CATPは、リンカーにアジド基を持った7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸誘導体である。FCTPは、CATPにアルキン基を持つフルオレセイン(6-carboxyfluorescein propalgylamide, 6-CFA) をクリックケミストリー(アジドと三重結合の反応) により結合したものである (Fig.1)。

Fig. 1 CATP およびFCTP の構造

 FCTPはリンカーを介してクマリン骨格にフルオレセインが結合している化合物で、分子内会合により蛍光が消光されていることが確認されている。PYPと結合するとフルオレセインとクマリンが解離してフルオレセインの蛍光を発するようになる (Fig.2)。

Fig. 2 PYP に基づくFCTP の蛍光標識システム

 in vitroでのタンパク質の標識は、緩衝液中でPYPにCATPおよびFCTPを加えて行われた。SDS-PAGE分析を行ったところ、PYPより高分子側に蛍光帯が現れた。PYPとCATPおよびFCTPとの結合の確認のためにMALDI-TOF MSを測定したところ、CATPおよびFCTPが結合したPYPの分子量に相当するピークが確認された。CATPおよびFCTPがPYPのシステインのチオール基と反応する際に、チオールの影響を調べるためにグルタチオン(最大濃度10mM)を共存させて標識化を行ったところ影響は全くなかった。

 in vivoでの標識化は、HEK293T細胞の細胞膜上に発現させたPYP-PDGFRtm(PYPと血小板増殖因子由来のトランスメンブランドメインの融合タンパク質)に、CATPおよびFCTPを加えた。蛍光顕微鏡で確認したところ、PYP-PDGFRtmが発現した細胞で、蛍光が確認された。蛍光の検出は、CATPに対しては436nmの励起波長でクマリンの蛍光を見ており、FCTPに対しては、488nmの励起波長でフルオレセインの蛍光が観測された。FCTPは、細胞膜上のPYPと結合することでフルオレセインとクマリンが解離してフルオレセインの蛍光が放たれるようになる。蛍光標識の際、CATPは細胞膜を透過することがわかった。細胞質中に発現させたMBP-PYP(マルトースと結合する融合タンパク質)へのCATP標識は、細胞内でMBP-PYP発現した細胞のみで確認された。

 PYPのFCTPによる標識反応では、FCTPがPYPと特異的に結合して蛍光を発することがわかり、FCTPは、単体では微弱な蛍光を放つのみであるが、PYPと結合することでより強い蛍光を放つようになる。したがって、FCTPによる蛍光イメージングの際、PYPと結合していないFCTPの洗浄の操作を省くことができる可能性があると期待できる。CATPは、膜透過性があるため、細胞内の蛍光イメージングに利用できることが確認された。また、CATPは、クリックケミストリーによりアジド部分に他のプローブを導入することで応用の可能性が広がると思われる。今回紹介したPYPとCATPおよびFCTP系を用いることで、タンパク質の機能・役割・挙動などの解析への利用が期待される。

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参考文献

1) Y. Hori, H. Ueno, S. Mizukami, K. Kikuchi, J. Am. Chem. Soc ., 2009, 131 ,16610

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