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漢方診療・再発見
本稿では、漢方医学の主だった伝統的流派とその中でも「中医学」を中心にその構造を紹介する。なお、ここで使用する「漢方」という用語は、約2000年前に中国で原型が形成され、その後、東アジアを中心に広がった伝統医学の諸体系を指している。 1.漢方医学の主だった伝統的流派
漢方医学は約2000年の歴史と、東アジアのほぼ全域という広大な地域に広がった医学である。また、過去の業績の現代科学のような厳密な検証や証明の上に成立した学問ではない。そのために複数の流派が存在する。ここでは、現在我が国に存在する主だった伝統的流派の概要を解説する。 2.漢方医学の構造漢方では「証」といわれる独自の診断概念に従い治療を行う。漢方医学に近似できる中医学の診断治療体系を「弁証論治(べんしょうろんち)」と表現する。一方で、日本の古方派のそれは「方証相対(ほうしょうそうたい)」と表現される。どちらも「証」に基づいて、治療方針や具体的な治療法を選択することを意味するが、方証相対における“証”はある薬剤が有効な症状・症候の組み合わせ、すなわち「症候群」的表現として理解されるのに対して、弁証論治の意味するところの“証”は漢方医学理論に基づいた疾病の状態の説明、つまりは“病態”を意味する。漢方医学の“証”を理解するためには当然、「何によって、どこで何が、どのように異常な状態となっているのか」というcontextを充足しなくてはならない。よって、変化する主体としての身体の構成要素・病態の場としてのfunctional unitsや病因を理解する必要がある。その主だったものを次項以降、紹介したい。 3.身体の構成要素の概念漢方医学では身体の構成要素(総称して“精気”という)を主に気・血・津液の3つの流体に弁別する。「気」とは、生体内のfunctionおよび気体の総称ともいえる概念。具体的な働きとしては、第1に体の物質を動かす作用、第2に適切な場所に物質や組織を留め置く作用、第3に病原に対して闘う作用、第4に物質の代謝を行う作用、第5に組織に熱量を供給する作用の5つとなる。また、病態としては、気が不足した状態である「気虚」、気の流れが停滞した「気滞」に主に2つに分けられる。「血」は物質としては血液と同様のものであるが、想定されている機能は西洋医学のそれとは異なる。血は組織の潤いや円滑な運動を支える存在、過剰な活動を抑える存在として理解される。その病態は血が不足した「血虚」、血の停滞を意味する「血瘀(けつお)」、また血瘀を背景に病的な血が存在する「瘀血(おけつ)」という病態がある。 瘀血は気や血の流通を阻害する。「津液(しんえき)」は体内での血液以外の体液を意味する。その病態は「津液不足」と津液の停滞である「水停内湿」が基本である。また、水停内湿を背景として変性した水分である「痰」がある。ここでいう痰は気道分泌物のみを意味するのではなく、全身の全てに存在し得り、気・血・津液の流通を阻害する。 4.身体のfunctional unitsとしての五臓六腑身体の器官を漢方医学的にみるならば、とりもなおさず精気の流通・生成・代謝・調整を行う組織である。その中でも最も重要な存在は精気の生成・貯蔵・調節を主に行う心・肺・脾・肝・腎の五臓と、精気の流通・代謝を主に行う胃・小腸・大腸・胆・膀胱・三焦(さんしょう)の六腑である。これらの臓器は必ずしも解剖学的な部位のみを意味するのではなく、その作用を担うある組織の一群をさすfunctional unitsとして理解される。それらを統括する存在が五臓であるが西洋医学の同じ名の臓器とはかなり概念が異なる。「心」は血の循環の中枢であるとともに、意識の原動力として位置づけられる。「肺」は呼吸を行うことで気の産生・代謝を行い、同時に全身の気・津液の分配を行う。「脾」は栄養物の消化吸収、全身への運搬を行い、気や津液の局所循環を管理すると同時に血が血管へ漏出するのを防止する。「肝」は気・血のベクトルをコントロールし情緒に強い影響力を持つ。「腎」は津液の代謝を行い尿の生成を行うのみならず、生まれながらの生命の源となる物質である「精」を貯蔵する器官であるため、成長・老化・生殖能力を支配する。 5.病因漢方医学における病因はそれ自身が気の一形態であり、気の運動の異常を来す過度の感情、精気の消耗を来す過労・過度のセックス、精気の停滞を来す運動不足、自然界の気の運動に従わない生活、外傷が想定されている。また、発病因子を「邪」と呼ぶが、外界由来の邪を「外邪」、体内由来の邪を「内邪」と呼ぶ。外邪の代表が風・寒・熱・湿・燥・暑の6つの気候因子である。この中で風が侵襲した場合の症状が「カゼ症候群」の初期症状であり、 これを漢字で「風邪」と書く所以である。内邪には前述の痰・瘀血や腸管での消化不十分な食物の停滞したものである「食積(しょくしゃく)」がある。 6.まとめ漢方医学は独特の理論に基づいた体系に従い病態をとらえて治療を行う。ともすればある種の薬剤が西洋医学的には様々な症状・病態にまたがって有効であり、また西洋医学的には同一の病態に鑑別があることが奇異にとらえられることも多い漢方薬もこうした病態概念の改善を機序としていることを考えれば理解されよう。今後、漢方の理解・研究に際して漢方医学の体系を十分に考慮して行うことは、新たな着想・発展に資するものと考える。
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