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最近のレジオネラ感染報告と浴槽の衛生管理

株式会社同仁化学研究所 池上 天

 同仁化学研究所が位置する熊本県は、温泉観光地として知られており、全国的にも有名な温泉旅館をはじめ、500円前後で入浴できる日帰り温泉施設など、県内各地で特色ある泉質の湯を楽しむことができる。最近では、書店の旅行誌コーナーに日帰り温泉のガイド本が数多く並べられ、郊外の大型ショッピングモールや高速道路SAに併設された施設もある。私自身も日帰り温泉施設を利用し、自宅の浴槽とは全く違う開放的な空間で湯に浸ることで、心身ともにリラックスしている。

 ところで、浴場施設の脱衣所入り口付近に、温泉成分分析結果と並びレジオネラ検査結果の証明証が掲示されていることはご存知だろうか。私が学生の頃、このような検査結果の表示は無かったと記憶している。これは、公衆浴場で発生したレジオネラ感染症による死亡事故をきっかけとして、厚生労働省の指針に記載された「浴槽水は少なくとも年1回以上レジオネラ属菌の検査を行なう」(レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針,2003年7月25日厚生労働省告示第264号)ことに基づいている。検査結果の表示は、食料品と同様、浴場施設においても「利用者(消費者)に対する安心・安全」が要求されていることを実感させる。
 しかしながら、近頃では、レジオネラ感染に関するマスコミ等の報道は減っているように思える。最近の調査結果をみると、今年1月には国立感染症研究所から「レジオネラ菌の感染報告者数がこの5年間で5倍近く増えた」との調査報告が出され、また、浴槽施設等における基準値を超えるレジオネラ菌の検出報告も全国各地から毎月報告されている(アクアス株式会社HP-レジオネラニュースより)。世間の関心が薄れる中、レジオネラ感染被害は、未だ増加の一途を辿っている。

 このような状況の中、浴場施設の運営者は、利用者が安心して入浴できる施設の維持・管理に努めており、NPO法人入浴施設衛生管理推進協議会では、浴場施設の衛生管理者を対象とした管理方法の指導・研究を活発に行っている。
 浴場施設におけるレジオネラ菌対策としては、営業後の浴槽や配管の洗浄および営業中の浴槽への塩素剤注入が一般的な方法とされており、厚生労働省の指針では、塩素剤が殺菌効果を示す目安として浴槽中の遊離残留塩素濃度を0.2〜0.4ppmに維持する、としている。しかしながら、浴槽水は水道水と異なり、殺菌効果の高い遊離残留塩素と容易に作用して、より効果の低い結合塩素を生じる成分(身体からの老廃物や蛋白質など)が多数存在するため、入浴者の数に応じて遊離残留塩素と結合塩素の割合が常に変動する。そのため、塩素剤を注入しても、その量が不足して大半が結合塩素として存在する状況下では、殺菌効果がある浴槽水とは言い難い。このことから、浴槽水の遊離残留塩素を選択的に測定できる方法が要求され始めている。残留塩素測定法として汎用されているDPD法に関しては、結合塩素共存下における遊離残留塩素への選択性が疑問視され、その測定に関する注意が促されている(横浜市衛生研究所調査情報月報2008年3月号より)。

 温泉管理士の小彈正氏らは、各残留塩素濃度測定法(DPD法とSBT法)の簡易測定キットを用いた浴場施設における残留塩素濃度測定の比較検証の結果を温泉工学会誌(Vol.30,No.2/3,2008)にて報告している。浴槽水中の遊離残留塩素濃度は、入浴者が増加した時間帯から低下し始め、同時に結合塩素が増えていることが確認された。その際、DPD法による遊離残留塩素測定値は、SBT法の測定値に対して約1.4〜1.8倍高く、結合塩素の測定値に近い値を示した。実際の浴槽施設における一連の実験結果から、SBT法の遊離残留塩素に対する選択性の高さが実証された。また、小彈正氏らは報告の中で、遊離残留塩素濃度の測定結果に応じた新湯の注入、湯の交換を実施できるシステムの必要性や入浴前にカラダを洗うマナーを利用者が守ることも自身の感染予防にも繋がる、と提言している。

 このような活動を通して見ると、浴槽の衛生管理は、日々、徹底されたものになり、安心・安全な浴場施設は増えていくと考えている。

 最後に、レジオネラ感染は、感染者全てが発症するものではなく、人間同士の感染もない。正しい知識を持つことも利用者にとっては大切なことである。
 ご存知の通り、今年春からETC搭載車の高速料金が抑えられ、また、定額給付金が支給されることから、皆さんで温泉めぐりの旅を計画されてみてはいかがだろうか?


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残留塩素測定キット―SBT 法

 残留塩素濃度の測定には、安価で操作性の良いN,N-Diethylphenylenediamine(DPD)が測定試薬として汎用されているが、1)検水への溶解・混和が煩雑である、2)結合塩素と反応しやすい、3)溶液状態で不安定であるなどの問題があった。
 残留塩素測定キット-SBT法は、新規発色試薬(SBT)を使用しDPDより高感度で、溶液の安定性の向上を実現した。また、SBT法は殺菌能力の少ない結合型塩素とは反応しにくい。数箇所から採取した源泉水に次亜塩素酸を添加したものを測定したところ、DPDと高い相関性があることが分かった。このようにSBT法は多種多様な成分が含まれる温泉水においてもより正確に遊離残留塩素濃度を求めることができる。

残留塩素測定キット―SBT 法

品名 容量 希望納入価格(¥) メーカーコード
残留塩素測定キット-SBT法 1 set 7,000 ZK01-50
残留塩素測定試薬-SBT法 100 回用 1,300 ZK01-60
残留塩素測定試薬-SBT法 500 回用 5,000 ZK01-60
色素液 100 ml 9,000 ZK01-70
検水調整液 200 ml 5,000 ZK01-80

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