19thフォーラム・イン・ドージン開催報告 細胞膜脂質のダイナミクス
19回目を迎える今年のフォーラム・イン・ドージンが「細胞膜脂質のダイナミクス」と題して、さる11月28日、熊本市の鶴屋ホールで開催された。この時期、市内は黄色く色づいた街路樹の銀杏が美しい。当日は前日までの雨もあがり、爽やかな初冬の一日、会場では熱気に溢れた討論が行われた。参加者は延140人程度とほぼ例年並だったが、東京などの遠方からの参加者もあり、徐々にこのフォーラムの存在も知られるようになってきたのではないかと思う。今年から小社の三浦 洌顧問(熊本大学名誉教授)も世話人として参加し、さらに充実した内容になった。
脂質はいうまでもなく細胞膜を形づくる基本分子だが、核酸やタンパク質、あるいは糖鎖が担う高度な機能や情報と比べて、何となく魅力に欠ける気がしていた。しかし、生命を司る反応の多くは、われわれが親しんでいる均一な溶液中で起こる化学反応とは異なり、高度に組織化された場のうえで起こる全く別の世界である。生体膜はまさにそのような反応場であり、それを構成する脂質の働きを理解することは、生命現象の深い理解に欠かせないものだ。今回のフォーラムでは、脂質がもつ多彩な機能について最新の研究成果が紹介され、非常に魅力的な研究分野であることを再認識させられた。生命は一個の細胞に宿っており、その生命を包み込む細胞膜は単なる包装紙ではなく、生命活動の場そのものである。
講演内容は、「1分子で見る、細胞膜がはたらく仕組み」と題して、楠見先生(京都大再生研)がラフトでのシグナルの授受を1分子イメージングによって「見る」研究を紹介された。理研の小林先生は、細胞膜の動態を脂質蛍光プローブを用いて可視化する試み、国立感染症研究所の花田先生が、脂質セラミドの小胞体からゴルジ体膜への選択的な輸送について話された。
午後のセッションでは、応用に主眼をおいた4件の講演が行われた。熊本大(薬)の佐藤先生は生体内で発生する脂質ラジカルを、スピントラップ剤と有機溶媒への抽出とを組み合わせ、ESRで測定する手法を紹介された。続いて、野口先生(同志社大生命医科学部)は脂質酸化生成物やshear stressに対する遺伝子発現応答について、また東城先生(大阪大医)が脂質代謝と病態について、最後に有馬先生(熊本大薬)がシクロデキストリンのラフトへの作用について講演された。いずれも、フロアからの質問は同じ分野の専門的なものが多く、真剣な議論が交わされた。
来年はこのフォーラムも20周年を迎える。小社が現在の場所に移転したのをきっかけに、ヨチヨチ歩きから始めたこのフォーラムも、ようやく成人になるのを記念して、何か特別な企画を検討したいと考えている。
これからもよりいっそう充実した内容のフォーラムを目指していきたいと思いますので、ご意見、アドバイスなどお寄せいただければ幸いです。また、講演予稿集をご希望の方は、小社カスタマーサービス部(info@dojindo.co.jp/free dial: 0120-489-548)までご連絡下さい(佐々本 一美)。
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