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トリパンブルーを用いた皮膚真菌症の迅速診断

社会保険大牟田天領病院皮膚科/熊本大学大学院皮膚機能病態学 池田 勇
熊本大学大学院皮膚機能病態学 尹 浩信

 皮膚科で遭遇する頻度の高い白癬やカンジダ症などの表在性真菌症は病変部の角質片を採取して苛性カリ(KOH)水溶液で溶解し、直接鏡検することで迅速に診断できる。この際、強アルカリに耐え入手性も良いパーカーブルーブラックインクをKOH水溶液に加えることで真菌を染色し鑑別を容易にする事が標準的に行われてきた。(KOH-パーカーインク法)

 しかし、パーカーブルーブラックインクは広く用いられるようになってわずか数年後の1958年に違う処方の製品と置換された(真菌の染色に有用な Direct Blue 1 類似成分が減量された)ため、染色性が低下し1)、近年ではKOH溶液と混合した際に沈殿、変色を起こすようになるなど本来文具であるものを目的外に使用することのリスクを常に抱えている。また、しばしば角質細胞まで染色されるなど特異性も充分とは言い難い。

 代替法としては、Bruke ら2)により報告されている Chlorazol black E (Direct Black 38) を用いる方法があり、染色性、特異性ともに優れているが、パーカーインクの視認性の良い青色とは異なり緑〜黒色調に染色される難点がある。Direct Blue 1 や、その類似成分を含むパーカーブラックインクを用いる方法もある1)が、基本的にKOH-パーカーインク法と同じであるため染色の特異性は不充分である。

 著者らは既存の有用な染色剤が二つともアゾ色素である点に着目し、入手性の良い2種類のアゾ色素、エバンスブルーとトリパンブルーにつき検討を行った。エバンスブルーは強アルカリの環境下で安定であり、遊離状態の真菌をよく染色したが比較的短期間で退色し、角層内の真菌はほとんど染色することができなかった。これに対しトリパンブルーは染色性、特異性ともにきわめて良好であり、多くの場合数分間で角層内の真菌まで迅速に、鮮やかな青色に染色した(Fig. 1)。白癬菌だけでなくカンジダや、アトピー性皮膚炎との関連も論議されているピチロスポルムも良好に染色された。標本の保存性も良好であった。

 トリパンブルーはKOHと混合した状態では時間の経過とともに微細な沈殿を形成する傾向があったが、安定剤としてグリセリンを添加すれば約1ヶ月は保存可能であることが確認され、新規の染色法として報告を行った3)。この染色液の調製は比較的容易であるが、試薬の秤量・溶解が必要である。安定剤の改良によりもっと寿命を延ばした処方を開発するか、色素とKOH、安定化剤を各々溶液の形で準備しておき、液の混合のみで調製ができるような形を取ることでKOH-パーカーインク法と同程度以上の利便性が確保できると考えられる。

Fig.1

Fig. 1 トリパンブルーによる真菌染色


参考文献

1) R.L. Kuranz, Staining of Superficial Fungi in Alkaline Preparations, Stain Technology, 1964, 39, 95-98.

2) W.A. Bruke,and B.E. Jones, A Simple Stain for Rapid Office Diagnosis of Fungus Infections of the Skin, Arch Dermatol , 1984, 120, 1519-1520.

3) I. Ikeda, K. Nishimoto, K. Sasamoto, K. Nagira, T. Ono, and H. Ihn, Alkaline Trypan Blue as a stain for superficial fungi, British Journal of Dermatology, 2008, 158, 1373-1374.

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著者プロフィール
池田 勇氏 写真 氏名:池田 勇
所属:大牟田天領病院/熊本大学大学院医学薬学研究部皮膚機能病態学
連絡先:福岡県大牟田市天領町1-100 大牟田天領病院皮膚科
e-mail:i-ikeda@omutatenryo-hp.jp
研究テーマ:医学画像、医用電子


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